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欧 州 映 画 紀 行
                 No.106
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★ どこに善なるものを見いだすか ★

作品はこちら
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タイトル:『オリバー・ツイスト』
製作:イギリス・チェコ・フランス・イタリア/2005年
原題:Oliver Twist

監督:ロマン・ポランスキー(Roman Polanski)
出演:バーニー・クラーク、ベン・キングズレー、ハリー・イーデン、
   ジェイミー・フォアマン、エドワード・ハードウィック、リアン・ロウ
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■STORY&COMMENT
チャールズ・ディケンズの小説を映画化。
19世紀イギリス。孤児のオリバー・ツイスト、9歳。救貧院に連れてこられたが、
食事も満足に与えられず環境は劣悪だった。ある日、食事のおかわりを要求し
追い出され、葬儀屋の奉公に出される。
主人はオリバーを気に入ったようだが、他の者たちから理不尽ないじめを受け、
少年は逃げだし70マイル離れたロンドンに向けて歩き出した。

孤児に対する扱いのすさまじさは相当なもので、虐げられてしかるべき者とい
う認識すらあるようだ。もちろん今だって、各種・多次元の差別が存在するけ
れど、少なくとも先進国と呼ばれる地域では、親のない子を人間のくず呼ばわ
りしたり、劣悪な環境で働かせたりすることが、公に許されることはない。

やっとの思いで逃げついたロンドンでも、食べ物を分け、寝床を用意して助け
てくれたのは少年スリ団の一味。泥棒として生きていくしか術はない。
そういえばシャーロキアンだった子供の頃、ホームズの使いでいろいろ調査を
してくる少年たちが登場するのを読んで、なんでこんな子供がいるんだろう、
と不思議に思ったが、当時のロンドンにはこんなストリート・チルドレンがた
くさんいたのだろう。

浮浪する子供たちを善きことに導く大人もいるし、助けの手をさしのべる大人
もいる。スリ一味を統括するフェイギンのように利用する大人もいるが、それ
とて命の保証をし仲間を作ってくれている以上、援助に変わりはない。
だが、そんな子供が町にいる社会そのものに異議を唱える人はここにはいない。

そんな過酷な環境のなかでも、純真で善なる心を失わなかったオリバー・ツイ
ストは……、といささか説教くさいともいえるトーンで物語は進むが、私はそ
の少年の純真な善よりも、少なくとも今は、路上生活を強いられ虐げられる子
供を作らない、という一般の認識がある、世の進歩を喜んだ。

ここに描かれたことはそう昔のことではない。しかし、親のない子や親から放
り出された子が、ギャングになって町をうろつくことを放置する社会は(表向
きには)もうロンドンにはない。

善なる心はある特別な子供にのみ宿るわけではなくて、少しずつ皆の心にあっ
て、それがきっと行きつ戻りつしながらも、少しずつ世の中をいい方に導いて
いく。この映画のポジティブな面はそういうところにあると思う。

■COLUMN
プラハの撮影所に作ったオープンセットによって、19世紀のロンドンを忠実に
再現したことで話題になったこの作品。馬車や人がわらわらとひしめき合う
<都市>がリアルに伝わってくる。
しかし、何よりも私が感じ入ったのは「光」である。物語から俳優から全部含
めて、私がこの映画のなかで一番気に入ったのが光のリアルさだ。

ヨーロッパの小さな窓から入ってくる淡い光。昼間でも、窓からの採光の届か
ない場所は薄暗い。しかし光の恩恵を受ける場所は周りの暗さから際だつ。そ
して夜になれば、小さな明かりが照らす範囲はとても狭い。我が家のテレビで
は、画面の明るさをいじってやらないと、夜のシーンは細かいところまで見え
ないことも度々だった。

室内のシーンでも、画面のトーンを見ただけで、それが昼なのか夜なのか容易
にわかる。光の差し込み方、照らし方、広がり方、そして日が沈んだならあち
こちに現れる闇。繊細な光の描き方は、質のいい昔の絵画を見ているようだ。

今東京で暮らしていると、生活のなかに「闇」はない。繁華街ではなくても街
灯や自販機が道を照らしているし、明かりを消した屋内でも、ビデオの時計、
インターネットのルーター、いろいろなものがチカチカと動いている。照明に
よって昼でも夜でも同じように必要な作業ができる。

宵っ張りの私は、その便利な暮らしをやめたいとは露とも思わないが、いろい
ろな設備や道具をとっぱらったら一人ではどうにもできない闇がある、とたま
には思い出すことも大事だろう、と言い聞かせるのである。

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編集・発行:あんどうちよ

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