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欧 州 映 画 紀 行
                 No.108
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★ 葛藤を抱えて生きるすべての人に ★

作品はこちら
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タイトル:『パパってなに?』
製作:ロシア・フランス/1997年
原題:Vor(キリル文字表記:Вор)英語題:The Thief

監督・脚本:パーヴェル・チュフライ(Pavel Chukhraj)
出演:ミーシャ・フィリプチュク、エカテリーナ・レドニコワ 、
   ウラジミール・マシコフ
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■STORY&COMMENT
1952年ロシア。6歳の男の子サーニャは母カーチャと旅を続けていた。父はサー
ニャが生まれる前に戦争の負傷で死んでしまった。2人に行くあてはない。列
車で知り合った軍人トーリャとカーチャは恋に落ち、3人は親子として暮らし
はじめた。
しかし軍人と言っていたのは嘘。トーリャは軍人のふりをして人を信用させる
のが手口の泥棒だった。

見終わって、ずどんと考えさせられる映画を久しぶりに観た気がする。こうい
う映画は、ラストをふせたまま語るのはちょっと難しい。でも「映画紹介」す
るのがこのメルマガ。結末はどうぞ皆さまで見届けてください。

思い切ってまとめてしまうなら、これは「葛藤」の物語だと思う。

サーニャを愛しかわいがっているカーチャだが、新しい恋人の寵愛を受けたい
欲望には勝てず、出会いからしばらくトーリャといっしょに彼を邪険に扱って
しまう。サーニャは「新しい父」(も何も初めての父なのだが)に邪魔者扱い
され、どうしても「パパ」と呼ぶことができず、自分の幻影のなかにいる見知
らぬ父を空想の中で慕っている。

それでもトーリャはいじめられたサーニャに仕返しの方法を教えたり、乱暴な
形ではあるけれどちょっと「父親」らしきこともして、なんとなく親子っぽく、
サーニャも親しみを表し始める

トーリャの正体を知り怒りながらも、どうしてもカーチャは彼と離れられない。
汽車で移動しながら、泥棒家業で食っていく生活を呪い、カーチャの心はすさ
み何度も別れを言い渡す。しかし別れられずずるずると関係を続けていく。

母に辛く当たり始めるトーリャを見て、憎しみを抱くサーニャ。だけども折に
ふれ思い出したように力強い腕で「息子」を支えてくれるトーリャを、完全に
拒否することはできない。
やがてこの「親子」と「家族」の葛藤にも変化が訪れるが……。

割り切れない葛藤を経験したことのあるすべての人から、共感が得られる作品
だと思う。

■COLUMN
あてなく旅を続ける登場人物たちは、実によく列車に乗る。日本でも戦後しば
らくの話では、木と燃料のにおいがしそうなガタガタと揺れる列車で移動する
シーンをよく見かけるが、あのイメージに近い。

職を求めて、帰郷するために、人々は長い列車移動をする。ガタガタと、移動
の距離を揺れで実感しながら旅する人たちの姿は、こちらの旅情もくすぐるも
のだが、サーニャたちの旅は、あちこちで泥棒をはたらいてばれる前に他の土
地に移動する逃避行。のんきな旅気分と違い、見つからないのか、この後彼ら
はどうなるのか、観ている側はとどきどきさせられる。

当たり前だが、目的地を同じくする乗客たちは、それぞれに様々な事情や目的
を抱えて移動する。ふと、次に長距離列車に乗ったときには、同乗の客の用事
を想像してみたら楽しかろうか、なんてことを思いついた。

ロシア(とかソビエト)というと、曇った寒々とした風景を思い浮かべがち。
この作品でもそういう風景が多く、真っ白に雪につつまれた風景は「寒々」な
んて表現は通り越し、雄大でこちらを圧倒する。
しかし、転々と暮らす旅の中で立ち寄った、黒海沿岸のリゾート地は、太陽が
あふれ、逃避行の中にもつかの間の幸せを見た気がした。失礼ながら、ああ、
ロシアにもこんなところがあるんだね、と、変に感心してしまった。
知らぬ国の知らぬ一面も見せてもらえる映画だった。

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編集・発行:あんどうちよ

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