一覧へ ←前へ →次へ 登録フォーム HOME


=========================================================

欧 州 映 画 紀 行
                 No.109
=========================================================

「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★ 体そのものも。体の動きも。なんて表情豊かな! ★

作品はこちら
---------------------------------------------------------------------------
タイトル:『イベリア 魂のフラメンコ』
製作:スペイン・フランス/2005年
原題:Iberia

監督・脚本:カルロス・サウラ(Carlos Saura)
出演:サラ・バラス、アイーダ・ゴメス、アントニオ・カナーレス 、
   ミゲル・アンヘル・ベルナ 、パトリック・デ・バナ
----------------------------------------------------------------------------

  ケータイ等に作品の情報を送る

■STORY&COMMENT
これまでにも幾度かフラメンコ映画を撮ってきた監督が、スペインの大作曲家
イサーク・アルベニスの楽曲から着想を得て作った、ダンスと音楽の映画。

パッケージに「ダンス・パフォーマンス・ドキュメンタリー」とあって、「な
んだろ、それ?」と思いながら観たが、「ドキュメンタリー」の部分は要らな
いだろう。おそらく、フィクションのストーリーのようなものがないことと、
各出演者の準備風景の入っているところがいくつかあることで、「ドキュメン
タリー」としたのだろうが、そうすると、ダンス公演のオフ・ステージのよう
なものをイメージさせ、観た人が混乱するように思う。

舞踏の公演の映像化というようなものでもなく、雰囲気でいえば、アーティス
トのビデオ・クリップのような感じ。音楽があり、演奏者がいて、ダンサーが
いて、いくつもの演目が映像作品として演じられ、1本に収められている。とい
うと、ポップで軽いイメージになりすぎるかもしれないが、「何かのドキュメ
ンタリー」ではなく、「パフォーマンスそのもの」である。
これぞフラメンコというイメージにぴったりくる演目もあれば、ジャズ風、ク
ラシック風と、さまざまなジャンルと融合しあう演目もあって、バラエティに
富む。

フラメンコと聞いて真っ先に思い浮かべるのはカスタネットを使ったダンス。
私もフラメンコ=踊りだと思っていたが、ギターや打楽器などの音楽と歌とダ
ンスと、全部あわせて「フラメンコ」、耳からも目からも楽しめる総合芸術だ
だと、作品から理解させてもらった。さらに、今作では、セット内にビデオプ
ロジェクターがあって<映像内映像>も時折見られ、色彩豊かな照明も印象的。
この様子は、現代美術で多用されるビデオ・インスタレーションのようで、ふっ
と美術館にいる気分にも、私はなった。

ダンスも音楽も詩(歌)も入って、美術の雰囲気も彷彿とさせる、そのことは、
映画を、建築・彫刻・絵画・音楽・詩・ダンスに続く第7番目の芸術と呼ぶとい
う事実に思い当たる。

ダンスが好きな人はもちろん、特別にダンスに興味のない人でも楽しめて、フ
ラメンコの入門にもなると思う。鑑賞後私は、ゴミ箱にティッシュを丸めて放
る時にもくねくね、するっ、と手首を回してその気になってみた。誰かに見ら
れていたら恥ずかしいけどね。

■COLUMN
私はダンスはできないし、もちろんここに見たプロダンサーのような体の使い
方はできないわけだけれど、こういう可能性も持っている肉体を私が持ってい
ることを誇らしく感じた。全身で表現することは、人間であることを謳歌する
こと、なんてフレーズも浮かんでくる。
そして、体の動きっていうのは、それぞれに表情を持つものだ、とも痛感した。
顔だけじゃなくて、しぐさや、身のこなしにも気を使った方がいいんかなあ、
と、ちょっと反省。

体の動きの表情ということで、もうひとつ発見だったのは、ピアニストの指の
動き、ギタリストの爪弾き方等、楽器を奏でる肉体にもそれぞれに繊細な表情
があるということ。ダンスに比べれば局所的だが、楽器を演奏するのは相当な
訓練を積んだ肉体なのだ。ダンスと音楽を組み合わせることによって、その側
面がはっきり見えたように思う。

自分が生身の人間だ、と感じるのは、疲れたとか、風邪で寝込んだとか、何か
ネガティブなことが起こった時が多い。だから、ともすると、こんな肉体をひ
きずっていくのは辛いなあ、と生身のこの身を呪ってしまう(あくまで私は、
ですが)。
でも、こういう形で肉体のあり方を見せられると、そういう偏った考えをちょ
うどいい位置に戻してくれる。肉体のよさを忘れている日々には、定期的にこ
んな刺激が必要なのかもしれないなあ。

---------------

感想・問い合わせはお気軽に。

編集・発行:あんどうちよ

リンクは自由ですが、転載には許可が必要です。
一部分を引用する場合には、連絡の必要はありませんが、
引用元を明記してください。

Copyright(C)2004-2006 Chiyo ANDO

---------------



一覧へ ←前へ →次へ 登録フォーム

HOME