一覧へ ←前へ →次へ 登録フォーム HOME


=========================================================

欧 州 映 画 紀 行
                 No.111
=========================================================

「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★ 北の果ての地に、ただの男2人とただの女1人 ★

作品はこちら
------------------------------------------------------------------------
タイトル:『ククーシュカ ラップランドの妖精』
製作:ロシア/2002年
原題:Kukushka(Кукушка )英語題:The Cuckoo

監督・脚本:アレクサンドル・ロゴシュキン (Aleksandr Rogozhkin)
出演:アンニ=クリスティーナ・ユーソ、ヴィッレ・ハーパサロ、
   ヴィクトル・ブィチコフ
-------------------------------------------------------------------------
  ケータイ等に作品の情報を送る

■STORY&COMMENT
第二次大戦中、ラップランドではソ連軍とフィンランド軍が戦っていた。
それぞれの理由で仲間に置き去りにされてしまったフィンランド兵とソ連兵が、
先住民族サーミ人女性アンニに助けられる。
フィンランド語、ロシア語、サーミ語。3人の使う言葉は別々で、さっぱり話
は通じない。とにもかくにも、見知らぬ男2人と彼らを助ける女1人の共同生
活がはじまった。

三者三様の言葉を使う主人公たちは、言葉によるコミュニケーションがとれな
い。はじめのううちこそ、生きるか死ぬかの状況で、何とか通じさせようとい
う意気込みも見られるけれど、そのうち、めいめいが勝手にしゃべって勝手に
解釈して、通じていないことを気にせずしゃべりまくるようになる。それでも
微妙にねじれて妙な具合に話がつながったりして、理解は進んでないのだけれ
ど何となく物事は進んでいく。

面白いのは「通じ合っていない」「かみ合っていない」ことを理解できるのは
字幕を与えられた観客だけ、ということだ。話している本人たちは自分の言っ
てることしか理解していないし、3人をつなぐ通訳役もいない。理解できない
ことは、最後まで理解不足や誤解のままだ。

ここまで書いてどうも違うな、と思う。これじゃあかみ合わない会話を楽しむ
映画ってことになってしまう。もちろんそれも大いにあるんだけれど、戦争で
夫を失ったアンニが2人に欲情することや、戦争中という特殊な状況で2人の
男は政治的には敵同士だということ…などなど、大事な側面が抜け落ちている。

相互理解のために言葉は要らない、という安易な話ではない。だけれど、言葉
が通じないから言葉を超えたところでこの物語は進行し、登場人物が心を動か
すのは言葉ではないところだ。だから、この映画を語ろうとすると、どこかに
無理や嘘が出る。言葉ではすっきり決着をつけられない。

言葉とか国とか争いとか、頭でっかちになったところをとっぱらって、ただの
人間になった物語、それが戦争中のシェルターともいうべきアンニの家で、と
ある9月に繰り広げられた。
そう言ってしまえばそれはそれで嘘っぽい。あまり語りすぎぬが花、である。

■COLUMN
ラップランドといえば、なんか北欧の方、サンタクロースがいて、ニルスがガ
チョウにまたがって飛んでいくんだよな、くらいの認識しかなかった。

この映画を観て調べてみたら、国で言えばスウェーデン、ノルウェー、フィン
ランド、ロシアの北方(北極圏)を横断する地域で、その地域にはアンニのよ
うなサーミ人が多く住んでいるのだそうだ。独立しようという動きはないけれ
ど、国籍をまたいで、サーミ人の自治を行うところも多いという。ちなみに、
アンニを演じた女優は、フィンランド地域のサーミ人家庭の出身である。
(参考:Wikipedia)

フィンランドとロシアが隣接していることも、そういえばそうだったような気
もするけれど、この映画を観るまで忘れていた。あらためて地図を見ると、東
側はべったりロシアにくっついている。サンクトペテルブルグからフィンラン
ド入国なんてすぐのように見える。
「北欧」と呼んだ時点で、他の地域からは切り離されているような印象を持っ
てしまうし、「ロシア」と「北欧」のイメージがずいぶん違うから、あんまり
深く考えずに、相互に関係の薄い地域のような気がしてしまっていたのだ。

同じ国として国境線でくくられていても、ラップランドのように違った文化を
形成している場合もあるし、同じ地域名でくくって呼ばれていても、もちろん
抱える事情は国や地域でそれぞれだ。
映画1本観たからって、何もかもが理解できる訳じゃないが、それまで、なー
んとなくのイメージしか持っていなかったものが、にわかに現実味を帯びて見
えてくる。知らぬ土地のイメージがちょっとでも具体的になるのは、外国映画
を観る効用だ。


---------------

感想・問い合わせはお気軽に。

編集・発行:あんどうちよ

リンクは自由ですが、転載には許可が必要です。
一部分を引用する場合には、連絡の必要はありませんが、
引用元を明記してください。

Copyright(C)2004-2006 Chiyo ANDO

---------------

一覧へ ←前へ →次へ 登録フォーム

HOME