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欧 州 映 画 紀 行
                 No.113
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★ 時機を逸しても、もう一度熟成を待ってみる ★

作品はこちら
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タイトル:『恋の秋』
製作:フランス/1998年
原題:Conte d'automne 英語題:Autumn Tale

監督・脚本:エリック・ロメール(Eric Rohmer)
出演:マリー・リヴィエール、ベアトリス・ロマン、アラン・リボル、
   ディディエ・サンドル、アレクシア・ポルタル
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■STORY&COMMENT
娘の結婚を控えて準備の忙しいイザベル。幼なじみの親友、マガリが、夫をな
くし子供たちも独立し、孤独に過ごしていることも気がかりだ。マガリは小さ
な農園ながらワイン作りに没頭する醸造家。恋をしたい思いはあるが、第一歩
を踏み出せない。
イザベルはその様子をみかね、マガリには内緒で、代わりに新聞に結婚相手募
集の広告を出してみる。

他人を思ってのことだが、なーんだかめいめい自分勝手なところがチャーミン
グだ。イザベルは広告を出してまずは自分が相手に会って品定めをしてみる、
という徹底ぶりのおせっかい。その上、マガリの息子の恋人まで、自分の元恋
人をマガリに紹介しようとしだす。他人のために一生懸命になっているのやら、
自分が楽しんでいるのやら、わからない。たぶん両方だ。

自分の保身のためにも、相手を思いやっても、登場人物たちは皆、少しずつ嘘
をつく。明白に嘘というより、複数のエピソードを見た観客からは、「んー、
今のは、ちょっと嘘ついてない?」「今のはちょっとした言い訳だよね」と、
どっちともとれるような軽ーい嘘。ひょっとしたら本人はそう信じ込んでいる
かもしれない。観る側が好きに解釈できるところが楽しい。

自然農法でぶどうの質と熟成にこだわる頑固な姿とは対照的に、恋はしたいけ
れど一歩を踏み出せずにいるマガリの姿は、まるで少女のようにかわいい。中
年になっても芯のところはそう変わるもんじゃない。
おせっかいで行動的な女たちに翻弄される男たちも、忘れちゃいけない。女た
らしの高校教師も、誠実な営業マンも、それぞれに魅力的だ。

イザベルの自宅の広大な庭で催す結婚披露パーティは、華やかで幸せな気分を
届けてくれ、コート・デュ・ローヌ近辺の町々や、ぶどう畑を眺めれば、旅気
分も味わえる。のんびり気分の休日に最適の作品だ。

■COLUMN
この映画は先週取り上げるべきだったかもしれない。何しろ先週の木曜はボジョ
レー・ヌーヴォーの解禁日。どこもかしこもワインワインだった。

(ところで、ボジョレーとかボージョレとかヌーボーとかヌーヴォーとか、表
記がいろいろあってややこしい。どっちでもいいから誰かきちんと決めてくれ
ないものかね。巨頭セブン・イレブンがボージョレで、その他コンビニがボジョ
レーなところを見ると、「ボージョレ」に世論は傾きかけているのかも。でも、
私の感覚では「ボジョレー」の方が日本では長く親しまれた書き方のような気
がするので、いまのところは「ボジョレー・ヌーヴォー」とする。)

ワインが重要なアイテムである映画をボジョレーの解禁日に紹介するのは、時
機を得た行為、本当を言えば、考えないでもなかった。
だけれど、モーツァルト生誕250年だとか、ベケット生誕100年とか、坂口安吾
生誕100年だとか、ウルトラマン誕生40周年とか、確かに何か企画を作るのには
よいかもしれないし、やる方も受け取る方もわかりやすい。だけれどもちろん、
1年ずれたからと言って特別に何かが変わるわけでもない。

仕事なら、予算があるなら、黒字を出さなきゃいけないなら、時機は逸したら
いけない。でも、これは仕事じゃないからな。
中年女の恋は旬じゃないのかもしれない。恋にふさわしい頃じゃないかもしれ
ない。マガリのように、ほとんどの人は、様々な場面で様々な機会を逃して、
もう遅いかも、もうそんな柄じゃない、とあきらめたりスネたりしながら生き
ている。そんな慎ましき人々を応援するかのようなこの映画、ぴったりここぞ
なんて日に紹介しては、逆に「時機」じゃない気がした。

1週間も遅れて、ああ、ボジョレー出たんだ、と店に吸い寄せられ、いろいろ
見ているうちに、うっかりシードルを買って出てきてしまった。こんな「時機」
に左右されない行き当たりばったりも、なかなかいいのじゃないかな。


「<ボジョレー>表記」について・参考サイト
http://lisapapa-kitakunikki.cocolog-nifty.com/susume/2006/11/71116_6acd.html


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編集・発行:あんどうちよ

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