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欧 州 映 画 紀 行
                 No.118    07.01.18配信
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あけましておめでとうございます。
2007年最初の配信、、、なのにもう今年も18日も過ぎたなんて。
時の過ぎるのは早いもの! 信じられない思いですが、ともかく、本年も、
「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内
『欧州映画紀行』をよろしくお願いいたします。

★ エピソードは、いつもテーマに絡み取られる訳じゃない ★

作品はこちら
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タイトル:『キングス&クイーン』
製作:フランス/2004年
原題:Rois et reine 英語題:Kings and Queen

監督・共同脚本: アルノー・デプレシャン (Arnaud Desplechin)
出演:エマニュエル・ドゥヴォス 、マチュー・アマルリック、
   カトリーヌ・ドヌーヴ 、モーリス・ガレル
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■STORY&COMMENT
35歳、画廊経営、3度目の結婚をひかえる女性ノラ。最初の夫との間にできた
息子はグルノーブルの父に預けている。新しい夫はリッチな実業家、息子を引
き取ることにも理解がある。順風満帆に見える彼女の人生だったが、最愛の父
が末期ガンであることを知る。

一方、ちゃらんぽらんでだらしのないノラの2番目の夫イスマエル。国税局か
ら逃げ回っているうちに、なぜか精神病院に強制入院させられてしまう。ノラ
は、祖父のもとにいられなくなった息子エリアスを、なついていたイスマエル
の養子にしようと、彼を必死で捜そうとするが……

あらすじを聞くとこみいった物語みたいに思えるだろうか。文章で説明すると
なんだかぐちゃぐちゃしてしまうのだけれど、映画で観ると自然にノラとイス
マエルの物語はしみこんでくる。
「あらすじ」として聞くとややこしそうなこの佇まいと、150分という上映時
間にたじろいで、観ないで終わってしまったらもったいない佳作だと思う。

と、言いながらも、鑑賞後、これでメルマガ書くんだと思ったら、実を言うと
私はたじろいだ。
まずは、そのストーリー説明のめんどくささ。上映時間の長さもあってエピソー
ドが数多いから、きちんと伝えきれるか不安だった。(これを書いてる現在、
これは伝えきれないだろうと半分諦めている)

あと、これはこの作品の大きな魅力なのだけれど、独特のつかみどころのなさ
があることが、最大の原因。
いろいろなエピソードが最終的に結末に向かって収束する、または昇華する、
とにかく幾本もの糸がどこかにぴんと集まっていく感じや、縦糸と横糸がしっ
かり織られている感じがあると、物語の魅力は、わりと説明しやすい。

変な喩えだが、パソコンの断片化を解消するために、デフラグソフトをかけて
いて、グラフィックで見せられたあちこちに飛んだデータやらなんかいろいろ、
きゅっと、最後におさまるとちょっとした高揚を得られる感じに似てる。

だがこの作品は、ストーリーもちゃんとあって、人物もキャラクターが魅力的
だけれど、そういう高揚感に関しては皆無。そこらじゅうに断片化がそのまま
放り出されている。織物からちょろりと出た糸、束からもれた糸が、いろんな
ところに出っぱなし。<主題>とか<テーマ>とかに絡み取られないシーン、
エピソード、台詞が山のようにある。だから、この映画のいちばんの見所とか、
魅力とかはどこかつかみどころがない。

もちろんラストに向かってきゅっと収束する高揚感もいい。だが、ちょうど誰
かの人生が、きゅっとデフラグを解消してすっきり語れないように、漠たる感
じやエピソードの散乱は、本物の誰かの人生を垣間見たかのようなリアリティ
がある。
何もかもすっきりさせたい人には面倒な映画かもしれない。でも、この何と説
明のつかない感覚は、貴重な感動の形だと思う。

■COLUMN
上のコメントがすっかり長くなってしまったから、この欄は短く、舞台となっ
た街の紹介のみ。

ノラのフィールドであるパリは、他の映画にもよく登場するから、ここでスポッ
トをあてたいのは、父の住まい(つまりノラの育った場所)であるグルノーブ
ルだ。
山が近く、街中でも山が迫って見える。彼らの住まいの窓から見える山々が美
しい。山の中なんじゃなくて、正真正銘の街中から、堂々と山が見えるのが、
独創的できれいで、この景色、生で見たいなあと思う。

サッカーの大黒選手が去年グルノーブルに移籍したとき、マスコミにずいぶん
騒がれて、入居したアパルトマンの取材などしていた。そのときも、窓から山
がずんと見えて、きれいだなーと、大黒選手よりも背景の方ばかり見ていたこ
とを思い出す。
ちなみにサッカーチームのグルノーブルはオーナーが日本企業だ。大黒選手は
他チームに移籍したけれど、複数のチームの争奪戦となった有望日本人高卒選
手が入ったから、活躍すれば、日本のテレビにあの街が映し出される機会も多
いかもしれない。

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編集・発行:あんどうちよ

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