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欧 州 映 画 紀 行
                No.119   07.01.26配信
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★ 寄り添うまなざし ★

作品はこちら
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タイトル:『息子のまなざし』
製作:ベルギー・フランス/2002年
原題:Le fils 英語題:The son

監督・脚本:ジャン=ピエール・ダルデンヌ(Jean-Pierre Dardenne)
      リュック・ダルデンヌ(Luc Dardenne)
出演:オリヴィエ・グルメ、モルガン・マリンヌ、イザベラ・スパール
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■STORY&COMMENT
職業訓練学校で木工を教えるオリヴィエ。ある日木工を志望するフランシスと
いう少年が入学してきた。彼の入学以来オリヴィエはどうも落ち着かず、フラ
ンシスの様子を遠くから見てみたりするわりに、木工クラスは手一杯だと受け
入れを拒否したり、やっぱり受け入れてみたり……。

はじめて劇場で観たとき以来、自分の中で「いまいち作品」に分類してきた作
品だ。今週は取り上げる作品がなかなか見つからなくて、WOWOWでやってたか
ら観直してみた。
そしたら、前回は私の方があんまりわかっていなかったか、ちょっと誤解して
いたかな、と反省した。正直なところ、好きな作品かと問われると、やっぱり
そうでもないんだけれど、一度目の鑑賞の狂いが、すっとわかった気がして、
今の私にはそのことがちょっと面白い。

本当は、あまり予備知識なく観た方が面白かったんだろうと思う。だからここ
でも本当は伏せておく方が正しい作品紹介であるような気もするが、まあ、しょ
うがない。フランシスはかつてオリヴィエの息子を殺害し、出所してきた直後
なのだ。少年犯罪が様々な形で議論される現代、この作品も、被害者家族と加
害者の関係を描いた映画として、話題にされていた。
だから、「難しい問題」を考えるヒントになるだろうか、と思って観たら、そ
んなとこまで描いてなかったから、私はちょっとがっかりしたんだ。

揺れる手持ちカメラが、極端なアップでオリヴィエを映し出す。印象的なのは、
彼の背後から映した様子。何度も何度も、オリヴィエの肩越しに、オリヴィエ
の見る世界や、彼の周りを見せられる。私ゃあんたの背後霊かなんかかい、と
思うほどに近く、オリヴィエの周辺を観客は見続けなきゃならない。
この映画の肝は、冗談じゃなく、背後霊か守護霊のように(それらがどんなも
のなのだか私は知らないんだが)、ただオリヴィエの動揺に寄り添うことだ。

予備知識なく見ると、なんだかわからない何かの動揺に寄り添って、ただじっ
と見て、その様子に固唾をのんでいられる。そしてオリヴィエの事情を少しず
つ理解していくスリリングな展開を味わえる。
でも、現代の社会問題を考えるヒントになるかとか、余計な期待を膨らませて
いると肩すかしをくらう。観客が寄り添う視線と化す映画だと思って観ていた
ら、はじめの印象もずいぶん変わっただろうになあ。

■COLUMN
ほんとうに何の予備知識もなく観ていたら、前半オリヴィエがなんだか動揺し
ているところで、ひょっとして少年好きのエロ親父の話だろうか、とも予測で
きる。外から少年のいる部屋を必死でのぞいていたりする様子はそういう目で
みてしまえば、怪しい。
このあたりは、予備知識なく観る人に、作者の仕掛けた意図的なミスリードか
もしれない。

映画の内容をある程度知ってる方がいいのか、それとも何にも知らずに観る方
がいいのか、こんなこと前にも書いたことがある気がするけれど、難しい問題
だと思う。

どんな映画なのか予備知識があれば、その映画の雰囲気により合う精神状態に
自分をチューニングしておくことも可能だし、細かいところにも気を配ってよ
り堪能できるってこともある。映画を観ている間だけじゃなく、あらすじを知っ
て、観てみるまでのワクワクも決してバカにしていいもんじゃない。
だけど、何にも知らずにただその作品に入り込む方が、ピュアな感動があるん
だろうか、とも思う。

これは旅行に似てる。行き先についてしっかり調べて、ある程度知識があれば、
見所をきちんと押さえられるし、知識と実際に見た景色を併せて、より楽しむ
ことができるだろう。ガイドブックを見ながら、あそこに行こうかここに行こ
うかと、あれこれ考える楽しみは格別だ。
だけど、何にも知らずに、とにかく行ってみよっと飛び込んだときの出会いっ
ていうのは、やっぱり何にも代え難いだろう。

幸せな出会いって、案外難しいものなのかもしれない。


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編集・発行:あんどうちよ

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