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欧 州 映 画 紀 行
                 No.120    07.02.01配信
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★ あり得たかもしれない別の人生にまどろむ ★

作品はこちら
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タイトル:『いつまでも二人で』
製作:イギリス/1999年
原題:With or Without You 

監督:マイケル・ウィンターボトム(Michael Winterbottom)
出演:クリストファー・エクルストン、デヴラ・カーワン、イヴァン・アタル
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■STORY&COMMENT
北アイルランド・ベルファスト。29歳のロージーは、夫ヴィンセントと知り合っ
て10年、結婚して5年。子どもがいないのがちょっと寂しいけれど、まずまず
幸せだ。
そんなとき、10代の頃に文通相手で初恋の人だったフランス人ブノワが突然現
れた。ロマンティックで音楽が好きで、料理もしてくれるブノワに対し、ヴィ
ンセントは実直だけど、遊びといえば車の修理と友人とゴルフかパブで飲むこ
と。浮気の疑いや不妊診療で疲れたロージーの心は少しずつ揺らぎ始める。

シンプルでクラシック、男女問わずに感情移入できるラブ・コメディ。
でも決して陳腐じゃない。大げさなことが何かあるわけじゃなくて、何かの偶
然が働けば、誰の身にも起こりそうなリアリティがあるからだと思う。

誰にでも、もしこの人といなかったら(もしあの人とい続けたなら)あり得た
もう一つ(とか二つとか、もっとずっとたくさんの、とか)の人生がある。パー
トナーとの関係じゃなくても、警官を辞めて妻の実家の家業を継いだヴィンセ
ントのように、あのとき仕事を続けていたら、もっと違った人生があっただろ
う、という小さな後悔やわだかまりが誰にでもある。

あの時ブノワと文通を続けていたら、と、誰にでもあるちょっとした後悔やわ
だかまりや、幻想だと退けてきたことが、ロージーにはにわかに現実を帯びて
立ち上がってくる。その瞬間が、怖いようなうらやましいような、生き生きし
た物語だ。

だけどもちろんこれはコメディ。カップルが受ける不妊診療の、引いた目で見
るとちょっと滑稽なあたり、家族の会話のズレ、笑える要素もしっかり。楽し
く笑えてちょっと考えて、ふんわりした後味がおすすめだ。元気になりたい日
にも、のんびりしたい日にも。

■COLUMN
ベルファストという舞台も魅力のひとつだ。単純にめったに目にできない都市
ということで珍しさがある。そして、北アイルランドと言えばIRA、メディア
に登場するときにはいつも紛争やテロとセットであるため、この作品のように
北アイルランドのごく普通の人を見る機会は貴重だ。

ロージーが受付として働いているウォーターフロントホールは、近年開発され
てできた多目的ホールらしい。川べりにガラスがきらびやかな近代的な建物が
建ち、伝統的で重厚な建物と並んで街を作る。ここの食堂から街を一望した景
色は美しく、いつか旅行で訪れてみたいと思わせる。きれいでこぢんまりと暮
らしやすい印象だ。

普通の人が普通に暮らすヨーロッパの街。ブノワはロージーの家族との食事の
なかで、街の印象を聞かれて、「とてもいいところ。テレビとは大違い」と答
える。だけど、その普通の生活に染みついた「北アイルランド」もチラチラと
顔を出す。アイルランドの歌と音楽のお祭り「ケーリー」に行きたいと、ブノ
ワが言い出すと、それはカトリック系の人(アイルランド系のこと)向けのお
祭りだから、二人とも行ったことがない、と言う。特にヴィンセントは警官だっ
たから、とさらりと語る様子には、国を司る機関はブリテン島に寄っててあた
りまえなんだな、という日常的事実が垣間見られる。

遠い外国から大きなメディアだけを通していると、政治や紛争に絡み取られた
所を、そういう所としか見られなくなってしまう。
でも、誰でも身近な人間ドラマを、そういう場所を舞台に見ることができれば、
そこには自分と共通の感情を持つ、普通の人が生活していることに気づく。
これは物語、フィクションの世界だけれど、街とそこに生きる人のことを、ド
キュメンタリーや報道よりもずっとリアルに感じて知ることができたと思う。


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編集・発行:あんどうちよ

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