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欧 州 映 画 紀 行
                 No.121   07.02.08配信
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★ ウディ・アレンの確かなヨーロッパ映画 ★

作品はこちら
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タイトル:『マッチポイント』
製作:イギリス・アメリカ・ルクセンブルク/2005年
原題:Match Point

監督・脚本:ウディ・アレン(Woody Allen)
出演:ジョナサン・リス・マイヤーズ、スカーレット・ヨハンソン、
   エミリー・モーティマー、マシュー・グード、ブライアン・コックス、
   ペネロピー・ウィルトン
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■STORY&COMMENT
舞台はロンドン。プロテニス・プレーヤーを引退したクリスは、高級会員制テ
ニスクラブのコーチとなった。生徒は上流階級ばかり。そのうちの一人、トム
と親しくなり、家族皆に気に入られ、トムの妹クロエと交際を始める。だが、
トムの婚約者・ノラの官能的な魅力にとりつかれてしまう。

ボールがネットの上に当たってはずんでツイている時は向こう側に落ちて勝つ。
ツイていない時はこっち側に落ちて、負ける。テニスプレーヤーにこう語らせ
てはじまるこの作品は、小気味よく「運」の妙を散りばめながら、最後まで観
客を引っ張ってゆく。

妻への穏やかな愛情のなかに自然に組み込まれた上流社会への憧れ、官能的な
愛人への止めることのできない欲望、愛と欲のせめぎあいに苦悩するドラマか
と思いきや、物語は意外な方向へと進む。
はじめのうちは、上流家庭の生活をながめ、アイルランド人、アメリカ人とい
うよそものが、そんなところでどう動くのか、人間観察を楽しんでいたところ
を、いつのまにか妖しい物語に引きずり込まれて、手に汗握り、ああ、もう見
ていられない、と心臓をぐりぐり揺さぶられるまでになってしまった。綿密な
物語の構成がたまらない。

心理描写が好きな人にも、ミステリータッチが好きな人にも、愛と欲の泥沼が
好きな人にも、ちょっとインテリ気分を好む人にも、おすすめできる作品だ。
ストーリーについては多くは語らない。観てのお楽しみ。

■COLUMN
ニューヨークを長らく本拠地としてきたウディ・アレン監督がロンドンを舞台
にしたことで話題になった作品だ。現在アレンは、ペネロペ・クルスを主演に
バルセロナで新作を製作中とのこと、本格的にヨーロッパの映画人となるのだ
ろうか。

今回の作品は、ことさらに「ヨーロッパ」を誇張し、いかにもヨーロッパな映
画を演出して、ユーモアを持たせているようなところも見られる。貧しさから
抜け出そうとテニスプレーヤーとなったアイルランド人の青年と、イギリスの
上流家庭と、アメリカ人の女優の卵。この設定だけでも、ああ、アメリカとは
また違ったヨーロッパの社会だね、とうなづく。
悪気のなさが逆に残酷にも映る善良な上流階級の人々、悪気はなくアメリカ人
の女優の卵なんてバカにするトムの母、野心家だけれど策略でなんとかしよう
という訳じゃなく、努力して上流の仲間に入ろうとするクリス、上流社会に入
り込んでも奔放にふるまうセクシーなアメリカ美女、すべてのキャラクターが
バランスよくリアリティがある。

ドストエフスキーや、ストリンドベリといった文豪をクリスが読んでいるのも、
ヨーロッパ的アイテムの面白い散らし方だ。クリスが『罪と罰』を読みながら、
次に開く本は、ドストエフスキーの入門書。教養を身につけようとしているこ
とが伺える、このユーモアあるシーンは、物語の後半でもっと生々しい形で彼
の苦悩と結びつく。

自分の努力次第で何とかなる、と人は信じながら結局運に左右されている。誤
解を恐れずに言うなら、努力がすべてと努力に最大限の賛辞をおくるのはアメ
リカ人なら、自分にはコントロールできないところで人生が動くと考えるのは
ヨーロッパ人だろうか。運に翻弄される人生の物語を、確かな後味の悪さを残
しながら、心に食い込ませる、これぞ間違いなく「欧州映画」だ。

歴史に裏打ちされた「イギリス」を印象づけると同時に、登場人物たちのギャ
ラリーや美術館巡りからは、ロンドンのみずみずしい「今」も垣間見られる。
ロンドンという舞台を存分に楽しめるのも心地よい。

■INFORMATION
都合により来週の配信はお休みさせていただきます。
次号は2月22日の予定です。

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編集・発行:あんどうちよ

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