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欧 州 映 画 紀 行
                 No.124   07.03.15配信
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★ リアルに理不尽な、この世界 ★

作品はこちら
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タイトル:『カフカの「城」』
製作:オーストリア・ドイツ/1997年
原題:Das Schloss 英語題:The Castle

監督:ミヒャエル・ハネケ(Michael Haneke)
出演:ウルリッヒ・ミューエ、スザンヌ・ロタール、フランク・ギーリング
   フェリックス・アイトナー、ニコラウス・パリラ
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■STORY&COMMENT
カフカの代表作を映画化。
測量技師Kは雪深い村に到着した。この村の城に招かれてやってきたのに、一
向に城に招かれることはなく、村人からも受け入れられない。城に向かうと思
われる道は、近づいたかと思うと曲がってしまい、自力でたどり着くこともで
きない。
よそ者としておかしな世界に放り出されたKは……

フランツ・カフカ。最近では人気作家ハルキ・ムラカミのお気に入りの作家と
言う方が通りがいいだろうか。
カフカの代表作『城』を原作に忠実に映画化、と聞いて、どんなもんなんだろ
う、と興味を持った。原作に忠実って言っても、未完の作品だし、会話部分が
やたら多くて長いし、どうやって「忠実に」作ったんだろう、と。監督は「後
味の悪い作品を作る」ことで有名なミヒャエル・ハネケだ。面白くても面白く
なくても、一見の価値があるんじゃないか。

結論を言うと、誰にでも勧められる作品とは言い難いけれど、私にはとても面
白かった。カフカの原作と比べてどうということではなくて(まあ、そもそも
そういうデリケートなことは私には言えないんだけども)、一本の映画として、
面白かった。

よそからやってきた者が、その世界の規則に振り回されるだけ振り回されて受
け入れられることだけが、決して叶わない、その不気味さや不安が、映像で見
ると、格別のリアリティがある。あり得ない例外的な世界というより、こうい
う事態って、世界にいくらでもあるかもしれない、と思うのだ。

そして、「理不尽な扱い」というのは、特に映像にしたとき、笑える。それを
改めて発見した。

Kの奮闘は、「Kさーん、そりゃ他の土地に行った方がいいよー」って見てた
ら笑っちゃうんだな。もちろん他に行ったところで同じことで、それがKの悲
哀であることはわかってる。だけれど彼の悲哀は、徹底的に喜劇にしか映らな
い。
おそらく悲劇は、「誰かがどうしてこうしてこんな状況だから悲しい」という
論理的帰結に支えられて、喜劇は突発的に現れる事態に支えられている。だか
ら、何というか、喜劇は悲劇より残酷なこともある。

すっきり楽しんだり、何かに励まされたりもしないけれど、観ると世界の奥を
のぞける一本。世界って、そういうものなのかな、と。

■COLUMN
「原作に忠実に映画化」ってよく聞くけれども、何をもって「忠実」って言う
んだろうか。文字だけの小説と、映像と音のある映画じゃ違うメディアだから、
忠実も何もないもんだ、原作と同じならわざわざ映画にする必要もないじゃん
と、ひねくれてみせるが、そんなこと言いながら私も、安易に「原作に忠実」っ
て、言っている気がする。

たいてい「ストーリー的」に、例えば悲しい結末をハッピーエンドに変えたり、
重要なキャラクターを削除したり追加したり、をしていないと、「忠実」と評
するようだ。

この作品も、ダラダラと長く続く会話は、要所要所のみを残して短くしている
が、大まかな流れは変わらず、結末は言ってもいいと思うから言っちゃうと、
ごていねいに、「カフカの原稿はここで終わっている」とばちっと切れて終わ
る。私が持っている新潮文庫版と、切れているところが違うからちょっと気に
なるんだけれど、それはそれとして、ストーリー面では「忠実」だ。

でもやっぱり映像化するんだから、それによって付加された何かがあるはず。
たくさんあるだろうけれど、私が思うその筆頭は「気温」だ。文字で読んだっ
て、「城」のある村の雪深さ、厳しい寒さは伝わってくる。しかし、ずっぽり
と足の沈み込む積雪、ひゅーひゅーと音を立てる吹雪、冷える寝床の震え、そ
れらの映像は文字を一生懸命追っているときよりも、切実に伝わってくる。

原作にある要素を強調して見せることで忠実になっていること、とも言えるだ
ろう。実際、撮影は極寒の中で行われたとのこと。胸に迫る寒さも堪能を。


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