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欧 州 映 画 紀 行
                 No.136   07.06.28配信
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。


★ 安心して観られるドキドキ成功譚 ★

作品はこちら
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タイトル:『キンキーブーツ』
製作:イギリス・アメリカ/2005年
原題:Kinky Boots 

監督:ジュリアン・ジャロルド(Julian Jarrold)
出演:ジョエル・エドガートン 、キウェテル・イジョフォー、
   サラ=ジェーン・ポッツ、ジェミマ・ルーパー、リンダ・バセット
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■STORY&COMMENT
優柔不断なチャーリーは、父の急死により、イギリス・ノーサンプトンの老舗
靴工場を突然受け継ぐことになった。工場経営は火の車だったから、最初の大
きな仕事は従業員に解雇を告げること。工場を売却しようかというとき、ドラッ
グクイーンのローラと出会い、女装する男性用のブーツを生産して起死回生を
図ろうとする……。

安心して観られるハートフルコメディ。傾きかけた会社を建て直そうとする物
語はそのまま『プロジェクトX』に使えそう。「立ちはだかる伝統の壁」「従
業員の反乱」「偏見を、捨てろ」……、大きな文字をだーんだーん、と入れて、
予告編を作れそうな雰囲気だ。

何度も危機に陥って、その度にひとつひとつクリアにしていくところは爽快だ。
ハラハラしながらも、最後には必ずうまくいくという安心感があるから、どっ
しり構えてハラハラできる。
主人公がはじめから熱血漢だったりすると、暑苦しい物語にもなりかねないけ
れど、どこか弱気で「でもやらなくちゃ」と背負い込んでいる感じが、親近感
を持たせる。
また、弱気な男が自分を奮い立たせて頑張る根性物では、肩肘張って疲れるけ
れど、適度に笑えるセリフやコミカルなシーンが入っていて、バランスがいい。

会社を建て直す話であると同時に、今までの自分の殻を破る物語で、「女装家」
「ゲイ」など少数派の居場所獲得の物語でもある。自信を失った人やそもそも
自信なんて持ったことがない人や、はみ出し者にちょっと勇気を与えてくれる
ストーリーでもあるのだ。
さらに、チャーリーには「本当のところチャーリーのことなんか理解できない
ちょっと俗な婚約者」がいて、本当に感性の合うパートナーとの出会いという
ロマンチックな要素も揃っている。

ブーツのデザインやローラの華やかなショーなど、目を楽しませてくれる部分
も含め、いろいろな要素がつまっていて、どんな人でも楽しめるサービス精神
にあふれた一作だ。

■COLUMN
前回、チェコスロヴァキアの靴工場の女工の話だったから、靴工場つながりで。
というわけではないのだけれど、そんなリンクの仕方もありかもねーと冗談を
頭に思い浮かべてDVDを借りてみた。
観ていたら、昔ながらの手作りをしている老舗の工場は、安い「スロヴァキア
からの製品」に押されて経営が傾いていた。「靴工場つながり」は単なる言葉
遊びでもなくなった。

人件費の安い国から安い製品が流通して自国の産業を圧迫する話は、日本でも
このところよく聞く話だ。安い商品は、消費者にとって嬉しい。同じ物を買う
なら安いのがよし。どうしても安い物に人は流れる。
それに、今はいろいろな分野の物をいろいろ購入しなきゃいけない(いけないっ
てことはないんだろうけれど)。パソコンとかケータイとか、テレビも国策で
新しく買い換えないといけなかったり、新しい必需品の登場で、昔からの生活
用品にかけるお金の割合は低くなるのが道理だ。

そんな訳で、洋服なんかは安く済ませる人が増えた。靴は別に一生物でなくて
いい。1年で履きつぶして、毎年流行りのデザインを買い換えればいい。今回
チャーリーの工場で起こったことも、そんなことの一環だろう。

市場がグローバルに広がって、価格も様々に、物の数も大量になって、企業は
国際的に対抗できる競争力をつけなくてはならなくなった。「企業努力」とい
う言葉がポピュラーになって、衰退するのは努力が足りなかったから、と割と
簡単に結論を出されることが多いような気がする。高い製品を見ると「企業努
力が足りない」と気軽に批判したり。
チャーリーは、生き残り策を男性ダンサーが履くセクシーな女性の履き物とい
う「ニッチ市場」に求めた。それももちろん素晴らしい打開策だけれど、世の
中、そんなに安い物に押されてていいのか、という視点から打開策を探すこと
も必要じゃないかと思う。

なーんて社会派を気取ってみたところで、私も、ユニクロで値下げ商品をあさ
るし、日用品買うなら、まずはとりあえず100円ショップを覗くし、「ミート
ホープ」の社長がボヤくように、冷凍食品は半額セールじゃなきゃ買わなかっ
たり、する。
どこまでが不当に安くって、どこからが真面目な企業努力で適度に価格を抑え
たのか、どこからがボッててどこなら適正なのか、もう数字だけじゃ判断でき
ないんだなあ。そもそも「真面目な企業努力」ってヤツも何をもってよしとす
るか、価値観で違ってくるだろう。例えば「自国の労働者を使うべし」が優先
順位第一の立場の人にとっては、自国生産がまず「真面目」の必須条件になる。

ヨーロッパでは、旧東側の国々が続々とEUに加盟する今、「製品」だけでなく
人的資源も西側の国に「流入」し、その国の経済に影響を与えている。
アジアでもそういう流れは加速していくだろう。その前に、相当の費用を支払っ
て作る製品ってのはどんなもんなのか、考えなきゃ、というか、考えるための
指標を探さなきゃ、どんどんいろいろな歯車が狂ってゆきそうだ。

「誰か教えて」とか「考えなきゃ」とパソコンの前に座ってるのじゃなくて、
賢い消費者になりたきゃ自分で勉強しろって言われそうだなあ。確かにそうな
んだけど、難しい。ホントに。

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編集・発行:あんどうちよ

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