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欧 州 映 画 紀 行
                 No.137   07.07.06配信
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諸々の事情で配信が遅れました。申し訳ありません。今回は新作映画紹介です。

「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★ 果たして他人の話と涼しい顔ができるのか ★

作品はこちら
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タイトル:『あるスキャンダルの覚え書き』
製作:イギリス/2006年
原題:Notes on a Scandal 

監督:リチャード・エアー(Richard Eyre)
出演:ジュディ・デンチ、ケイト・ブランシェット
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■STORY&COMMENT
ロンドン郊外、労働者階級の子供の通う中学校。ベテラン教師バーバラは、厳
格で無愛想、生徒からも他の教師からもどこか疎まれていた。ある日、美しい
美術教師シーバが赴任してくる。孤独なバーバラは、彼女を観察して、少しず
つ近づき、友情を築こうとする。
友情が芽生えた頃、バーバラは、シーバが教え子と愛人関係にあることを知っ
てしまう。

孤独な「オールドミス」と、夫と子供がいてある程度裕福で、自分自身の仕事
もしたいから、と美術教師をやってみる美人。
まるで合いそうにもない二人は、互いに話すことで少しずつ近づいていく。
ケイト・ブランシェット演ずるシーバが15歳の教え子と恋をする、ことがクロー
ズアップで宣伝されるが、これは二人の女の友情の物語。バーバラは、この秘
密を共有し、相談相手になることで、友情関係において微妙に優位に立とうと
する。そのアンバランスさが、しだいに、二人の関係を変えていく。

タイトルの「覚え書き」とは、バーバラが毎日細かにつける日記のこと。自分
の身に起きたこと、周りを観察したこと、仔細にしつこく、書きつける。シー
バが学校にやってきたときの、その風貌や言動からの性格分析。はじめてシー
バの家に招待されて有頂天になったときのこと。
一人称語りのナレーションは、孤独なバーバラの内面を浮き彫りにする。

しかし、どうもコトは孤独な独身老女の、寂しく、斜に構えた生き方というと
ころにとどまらなくなっていく。
この先を言うのはサスペンスの結末を明かすようなもの。多くは言わないが、
前半、孤独で斜に構えた批判屋だけれど、鋭い分析をしていると思われたバー
バラの語りが、結末を知ってからもう一度観たのなら、まるで信憑性に欠けて
聞こえるのではないかと思う。DVDが出たらそんな視点でもう一度観たいと思
う。

緊張感あふれる女の友情がよく練られた脚本で表現され、微妙なずれを、少し
ずつ少しずつ決定的な亀裂に運んでゆく。二人の女優の演技も素晴らしい。ど
ちらかが演技負けをすると台無しになる物語だと思うけれど、どちらもキャラ
クターを繊細に、的確に具現して演じている。

スリルたっぷりの人間関係。気持ちに余裕のある時の鑑賞をおすすめしたい。

■COLUMN
梅雨時にもかかわらず、傘を持って出なかった私の頭上を雨粒が打ちつける、
映画を観て帰る道すがら、ふと民放の夕方のニュースを思い出した。

グルメとか安売りとか、ワイドショーなのかニュースなのかその間なのか、よ
くわからない特集を組むなかに、割とポピュラーなテーマで「片づけられない
女」とか、そのグレードアップ版「ゴミ屋敷」なんかがある。(あんまり見て
ないから、情報が古いかもしれません)

テレビでそうした特集をする場合、片づけられなかったり、ゴミをため込む人
を、奇異な目で見ているのが、おおかたの流れだ。きちんと生活している人が
眉をひそめながら見たり、あるいは、ある程度片づけられない老若男女が、あ
そこまではひどくないと安心して、仮想ヒエラルキーを作るのだろうか。

私は、威張って言うことじゃないが、何しろ片づけられない女だ。何か出そう
とするならまず探すことから、食事をするならテーブルの上の新聞雑誌その他
をのけることから始めなきゃならない。かろうじて、腐ったものが床から出て
くることはないし(と願っているが)、食事もできるし、足の踏み場も確保さ
れている。

でも、たとえば、何かとてつもなく悲しいことが起こったりして、かろうじて
片づけていた分も全く片づけられなくなったら、私はいつでもテレビの人たち
が喜んで取材するような部屋の持ち主になるんじゃないか、そう怯えている。
だから、片づけられなかったり、ゴミをため込んだりする人を嘲笑うことも、
あれよりはマシだと、安心することもできない。いつでも己がとって代わるん
じゃないかと、怖い。
でも、まあ、それでもその前に何とかはするとは思うけど。誰か見かねて手助
けしてくれる人もいるかもしれないし、さすがに。だから、怖いといっても、
そこまではいかないとは思うけど……、で、も。い、や。

この映画、そんな感じに似ている。
教え子と恋してしまうシーバの不安定さも、バーバラの偏執的な発想も。人と
の関係って怖いなー、と対岸の火事のように作品を楽しみながら、いやいや、
私だって、こんな要素、持ち合わせてるもん、いつ何かでコトが起こってもお
かしくないかも、他人事じゃないよね。いやいや、そうは言っても、そこまで
はいかないけどさ。さすがに。ん?いや…。いやいや。

ありそーで、いやいや、なさそーーで、でも、リアルはけっこう奇なりでして…、
そんな危ういバランスにある物語って好きだ。

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編集・発行:あんどうちよ

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