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欧 州 映 画 紀 行
                 No.139   07.07.26配信
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★ 悲しいことは起こるけど、誰かのせいって訳じゃない★

作品はこちら
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タイトル:『愛されるために、ここにいる』
製作:フランス/2005年
原題:Je ne suis pas là pour être aimé 英語題:Not Here to Be Loved

監督・共同脚本:ステファヌ・ブリゼ(Stéphane Brizé)
出演:パトリック・シェネ、アンヌ・コンシニ、ジョルジュ・ウィルソン、
   リオネル・アベランスキ、シリル・クトン
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■STORY&COMMENT
家賃を滞納している人に支払い請求をしたり、家から追い出したりする執行官
のジャン=クロードは、50歳過ぎ。人から歓迎されない仕事にストレスは溜ま
る一方、医者には心臓が弱っているから適度な運動を、と勧められる。
そこで、オフィスの窓からいつも眺めていたタンゴ教室に行ってみることにし
た。
教室で、若い女性フランソワーズと親しくなり、モノトーンの人生に色がつき
始めたジャン=クロード。しかし、フランソワーズは結婚を控えていて、彼女
の内面は動揺していた。

不思議な魅力を持った作品だ。声高にいい映画だったよ、と叫ぶよりも、親し
い人とお茶を飲みながら「あのね、このあいだちょっといい映画を観ちゃって
さ」と、小声で勧めたい気がする。

ジャン=クロードとフランソワーズの関係を中心に、物語は進んでいくのだが、
それ以外のエピソードがとてもうまく挿入され描かれ、登場人物のキャラクター
を鮮やかに作りだしている。

老人ホームにいる気むずかしい父を毎週訪問すること、父から受け継いだ自分
でも好きになれない仕事を、息子に受け継がせようとして、しかし息子との関
係がぎこちないこと。
ジャン=クロードの日常的で慢性的な疲弊が、ひしひしと伝わってくる。彼の
抱えてる何かを、感じずにはいられない。
気むずかしい父、息子、そしてフランソワーズ、それぞれの抱える何かも、そ
れぞれの人物描写がよく効いて、観客の心に響く。

ジャン=クロードが、その疲弊のなかで出会ったフランソワーズに惹かれてい
く様は、かわいくもあり、おかしくもあり、切なくもある。フランソワーズは、
結婚を控えていることを言い出せずにいて、すべて知っている観客としては、
その隠し事へのハラハラも、切ない。

婚約者がいるくせに、ジャン=クロードを惑わすフランソワーズを批判的に見
る向きもあるかもしれないが、彼女も弱さを抱えた人間の一人。彼女の動揺と
行動は、防ぐことができなかったのだ、と、私は切なく歯がゆく眺めていた。
悪いところ、弱いところ、くだらないところ、どの人物も皆いろんなことを抱
えていて、悲しいことも、楽しいことも、起こる。どれかが誰かのせいで、誰
かに責任を押しつけられる訳じゃない。

中年男が急に恋に落ちる話はよくある話だけれど、そこから想像できるありが
ちな話を超えた作品だ。細やかなストーリーと描写を、ぜひその目で確かめて!

■COLUMN
仕事で、ちょっとうまくいかないことがあって、気分がふさがっているときに、
この映画を観た。今年のはじめか、去年の終わりか。
取材先のあった渋谷で、そのまま帰る気がしなくて、さして期待もせずに時間
がうまく合ったから観てみた。期待していなかった、というギャップもあって
か、観てよかった、としみじみ思った記憶がある。

結末に含みが残されていて、これをどう捉えるかで、違ってくるだろうが、全
体的にこの物語は悲しくて切ない。でも、ちょっとふさいでいた私はそのとき、
妙に元気づけられたのだ。
おそらくそれは、この映画が、悲しいことが起こってしまうことを、誰かのせ
いにして批判するのでなくて、誰もが弱さや悪いところや、素直じゃないとこ
ろを抱えていることを、優しく肯定しているからではないかと思う。
ちょっと失敗したからって、器用に振る舞えないからって、欠点で人を振り回
したって、誰も糾弾できるわけじゃないじゃないか。顔を上げて前を向く力を
くれた。

何か作品を観て元気になるというのは、いろいろパターンがあって(もちろん
パターンにあてはまらないものというのもある)、とてもとても大変な人生を
見せられて、「こんなことで落ち込んでちゃいけないな」と反省する場合や、
もんのすごくおかしくて、笑って笑って気分を晴らしてくれるような場合もあ
る。

後者はともかく、前者は「あれに較べたら私は平気だ」と、誰かに不幸の烙印
を押しているようで、そういう元気づけられ方をしてしまうと、ほのかな罪悪
感を抱く。他の人は知らないが、私はそうだ。
知らず知らずのうちに、上からものを見てしまった気分になって、元気と同時
にひっかかりも残るのだ。

この映画のような、すごくない適度にダメな人間を、暖かく捉えたものなら、
そういうひっかかりがない。急激に元気にはならないけれど、一息ついて自然
と口角が上がる。
登場人物はタンゴと不意の情熱で心が乱されるけれど、観ている側は、穏やか
で暖かい元気をもらえる作品。ハッピーなときにも、アンハッピーなときにも、
いつでもどうぞ。

■INFORMATION

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女性向けコラムが豊富に掲載されているこのサイトで
『欧州映画紀行』の姉妹編『欧州映画の冒険』を執筆しています。

内容は、メルマガで書いたものの「再編集」が基本ですが、
せっかくなので新しい視点もつけ加えて、メルマガの読者の皆さんにも、
楽しんでいただける内容にしようと思っています。
これまでに登場したのは、『親密すぎるうちあけ話』『マッチポイント』
『メルシィ!人生』『明日へのチケット』の4作です。

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編集・発行:あんどうちよ

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