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欧 州 映 画 紀 行
                 No.142   07.08.30配信
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★ 全てを超えて、愛して、生きる ★

作品はこちら
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タイトル:『人生は、奇跡の詩』
製作:イタリア/2005年
原題:La tigre e la neve 英語題:The Tiger and the Snow

監督・共同脚本:ロベルト・ベニーニ(Roberto Benigni)
出演:ロベルト・ベニーニ、ニコレッタ・ブラスキ、ジャン・レノ、
   トム・ウェイツ
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■STORY&COMMENT
詩人で大学教授のアッティリオは、学生にも人気があって、近著も好評だ。彼
は、毎晩最愛の女性ヴィットリアと結婚する夢をみる。しかし、現実世界では
彼女は、アッティリオにつれない。
そんな折、仕事でバグダッドへ向かったヴィットリアが、爆撃に巻き込まれて
危篤状態だという知らせが来る。アッティリオはバグダッドに向かい、彼女を
救うために奔走する。

ロベルト・ベニーニが、自分の妻であるニコレッタ・ブラスキをミューズに据
えて創った、愛を讃える物語。お決まりと言えばお決まりのパターンだけれど、
今回は、その愛にさらに磨きがかかったというか、「愛してるものを愛してい
ると言うのに何で躊躇する?」と、愛の看板を表に掲げることに自信を持って
いるように思う。

時が時だったためなのか、イラク戦争と絡めていて、その辺りの掘り下げが浅
いとか、戦場で幾人もが死ぬ現状で、自分と自分の愛する人のことしか考えて
いない行動が不愉快だとか、いくつも批判はあったようだ。(具体的には覚え
ていないから、どれと引用はできないんだけれど)
その批判もわからんではないけれど、そういうものも全部見越しての、決意表
明たる作品のように、私は思う。怒りを超え、戦争を超え、憎しみを超え、悲
しみを超え、おそらく日常の憂さなんかも超えて、誰かを心から愛して生きよ
う、と。底抜けに力強く愛を讃え、愛を信じる。

もちろんベニーニ作品のいつものキャラクターだから、アッティリオは、口八
丁、口八丁、口八丁、もう一つおまけにひたすら口八丁のおしゃべり男で、ベ
タなギャグを、その勢いとタイミングでベタと思わせず笑わせてくれる。一人
でひざを抱えてDVDを観ていても、思わず笑っちゃう楽しさが満載。

そして、最後にちょっとサプライズが用意されていて、「果たしてヴィットリ
アを助けられるのか」、というストーリーの傍らに、もうひとつ、最後まで目
が離せない事柄がある。
「最後にちょっとサプライズがある」とわかって観ていると、ミスリードにも
負けずにたいてい前半部で気づくだろうけれど、知らないで観た、初見の私は、
素直に驚き楽しかった。この仕掛けもお楽しみ。

■COLUMN
私はべつに詩の愛好家ではない。もちろんたまに詩を読むし、それに心を打た
れることもあるけれど、試しに数えてみたら、1年に読む詩はそう多くはない
だろう。でも詩を書く人というのをとても尊敬している。
もう少し正確に言うと、言葉で表現することに真摯で賢明な人を「偉い人」と
感じる。

自分の娘に「どうして詩人になったの」と問われ、「子供の頃に、小さな小鳥
が歌いながら降りてきて自分の肩に留まった。このできごとを母さんに話した
けれど、うまく喜びが伝わらなかった。自分の気持ち、自分のドキドキを他の
人に伝える仕事をしたいと思った」と、ヴィットリオは話す。
映画がはじまって10分くらい、まだ大筋がまったく始まっていないこの時点で、
私はノックアウトされている。

イラク戦争への言及が甘いとか、ご都合主義とか、そういうのどっちでもいい。
娯楽映画(と言いきっても差し支えないと思うんだけど)のしょっぱなで、堂
々と、言葉を信じる素晴らしさ、そしてその難しさを的確に表現してくれるな
ら、その作品との出会いは間違っていない。

口八丁のアッティリオが、しゃべりまくっていたと思ったら、そのおしゃべり
は、いつのまにやら美しい表現の連なりに変わる。
こんな風に素敵に言葉を紡げたらいいね、と思うきれいさで、あとからあとか
ら言葉があふれてくる。

美しく言葉をあふれさせて気持ちを伝えてきた詩人が、たった一人、一番思い
を伝えたいのに伝えられない相手がいる。それが彼の最愛の女性ヴィットリア。
そして、その最愛の女性は、彼の言葉が伝わらない地で、瀕死の状態で横たわっ
ている。
この作品のもうひとつのテーマは、「言葉の力」だ。ストーリーにこっそりと
寄り添う「言葉の力」に注目して観るのも、きっといい観かただと思う。


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編集・発行:あんどうちよ

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