一覧へ ←前へ →次へ 登録フォーム HOME


=====================================================

欧 州 映 画 紀 行
                 No.144   07.09.13配信
=====================================================

「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

読者のT様より、クロード・ルルーシュ、ジャック・タチの作品を取りあげて
ほしい、とのリクエストをいただきました。
そこで今週はリクエストにお応えする第1弾。クロード・ルルーシュ監督作品を紹介します。
こんなリクエストも、どんどんお寄せくださいね。

★ 思考の溝に沈められながら ★

作品はこちら
---------------------------------------------------------------------------
タイトル:『遠い日の家族』
製作:フランス/1985年
原題:Partir, revenir  英語題:Going and Coming Back

監督:クロード・ルルーシュ(Claude Lelouch)
出演:エヴリーヌ・ブイックス、ジャン=ルイ・トランティニャン、
   アニー・ジラルド、ミシェル・ピッコリ、フランソワーズ・ファビアン、
   エリック・ベルショ、リシャール・アンコニナ
---------------------------------------------------------------------------
  ケータイ等に作品の情報を送る

■STORY&COMMENT
作家のサロメは、映画化される小説について、テレビでインタビューを受けて
いる。それは、ユダヤ人である自分の家族を描いた自伝的小説だ。第二次世界
大戦時、父母と兄は収容所で殺され、生き残ったのは彼女一人だった。
ピアニスト志望だった兄と弾き方も好みもそっくりのピアニスト、ベルショー
に出会い、家族の物語を書こうと思ったと、彼女は語る。

クロード・ルルーシュといえば、なんと言っても『男と女』が有名で、私の中
では、後にこんなにフランス映画を観るようになるとは思っていなかった若き
日に「フランス映画」の洗礼を受けた、とも言える『愛と哀しみのボレロ』が
代表格だ。

『愛と哀しみのボレロ』は、登場人物がいっぱいいて、何度観てもストーリー
がよくわかんなくなり、それでも最後には「よかったよー」と涙を流してしま
うという不思議な印象だった。
あの頃私は若かった……(いや、今だってそこそこ若いが)

で、今回何を取りあげようかな、と考え、せっかくだから観たことのないのが
いいと、この作品を観てみた。
ルルーシュの作品のストーリーが難しいと感じるのは、時も場所も縦横無尽に
移動して、エピソードが切れ切れに挿入され、それを観る側で組み立てて「ス
トーリー」を完成させる仕組みになっているから。しかも、少しずつ、少しず
つ、事態が判然としてくる、心憎い組み立て方で。
漫然と観ていれば確かに迷子になるけれど、集中していればそれほどでもない。

サロメのいるレルネル家と、父同士が友人で、彼らをかくまうリヴィエール家
の交流と、戦後、一人生き残ったサロメが密告した者を探すのが、骨子のストー
リー。だが、仮にわからなくなっても、人の内側にこみあげる何か、に訴える
力を作品が持っている。

その訴える何かは、ストーリーに寄り添うもう一つのテーマ、音楽に鍵がある。
全編、ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番の流れる本作は、その音楽だけでも
楽しむ価値がじゅうぶんにある。詳しくは下のCOLUMN欄で。

■COLUMN
現代(1985年頃)のサロメが、コンサートでラフマニノフのピアノ協奏曲第2
番を聴いている。ピアニストは、若手注目のエリック・ベルショ。彼は収容所
で亡くなった兄に、容貌もピアノの弾き方もそっくりだ。サロメは、精神科医
であった父の考えに影響され、彼を兄の生まれ変わりのように感じる。

エリック・ベルショは実際にピアニストで、この作品では、「現代」のベルショ
役と、サロメの兄役の両方を演じている。
だから、兄がピアノを弾くシーンは全て「本物」だ。「弾いてる真似」みたい
な小賢しさがなくて気分がいい。
クラシック音楽、というか、オーケストラがついた音楽がバックに使われると
き、物語がそのスケールに負けていたり、音楽がうるさい、と感じることがけっ
こうある。好みの問題かもしれないけれど。

でも、この作品は、ちゃんと音楽が、作品と一体になっている。すっかりラフ
マニノフの協奏曲が耳についてしまって、このレビューを書くときも、ずーっ
とピアノ協奏曲第2番をかけ続けてみた。その方が絶対、雰囲気が出るでしょ。

さて、雰囲気は出た。だけども、この曲をずっと流して、モノを書くってのは、
なんだか、沈鬱モードにもなる。
思考の溝に、頭をずかっと捕まれて、ずぶずぶっと沈められたように重くなる。
それは音楽の力か、映画の影響か、それらについて書こうというモチベーショ
ンのせいか。
聴きすぎには注意


参考:わたしが執筆中かけていたラフマニノフ
ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番、チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番


---------------

感想・問い合わせはお気軽に。リクエストもお待ちしてます。

編集・発行:あんどうちよ

リンクは自由ですが、転載には許可が必要です。
一部分を引用する場合には、連絡の必要はありませんが、
引用元を明記してください。

Copyright(C)2004-2007 Chiyo ANDO

---------------


一覧へ ←前へ →次へ 登録フォーム

HOME