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欧 州 映 画 紀 行
                 No.152   07.11.08配信
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★ エンドロールが終わっても、じくじくと考える観客、ここに一人 ★

作品はこちら
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タイトル:『アフター・ウェディング』
製作:デンマーク・スウェーデン/2006年
原題:Efter brylluppet 英語題:After the Wedding

監督・共同原案:スサンネ・ビア(Susanne Bier)
出演:マッツ・ミケルセン、ロルフ・ラッセゴード、
   シセ・バベット・クヌッセン、
   スティーネ・フィッシャー・クリステンセン
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■STORY&COMMENT
インドで孤児たちの救援活動に従事するデンマーク人ヤコブ。常に資金難に苦
しむ状態だが、デンマークの資産家ヨルゲンから巨額の資金提供を提案された。
話をまとめに帰国したヤコブを、ヨルゲンは、週末に行われる彼の娘の結婚式
に出席して欲しいと、強引に誘う。
結婚式の会場で、ヤコブはヨルゲンの妻となっているかつての恋人に再会し、
さらに思わぬ真実を知ることとなる。

最近、新たに登録くださった方も多いので、ご説明を。
このメルマガは、基本的にはDVDなどになっている作品を週1回のペースで紹
介している。でも、たまに新作映画をとりあげることもあって、今回はその例
外的な回だ。
新作をとりあげるのは、DVDでとりあげたいと思う作品がなかった週か、劇場
で観た作品を、DVD化を待たずに紹介したいと感じた週だ。

今週は、どちらかと言えば後者にあたる。ただ「すっごく感激したからスクリー
ンでぜひ」という強いノリじゃない。観て、なんだかいろいろと考え込んで、
迷ってしまい、この逡巡した感じを、考え込んでいるうちに文章にしてまとめ
たい、という歯切れの悪ーいノリだ。

ヤコブの知る真実、とは、皆が予想するであろう通り、結婚式に出てみたら、
花嫁は20年間知らなかった自分の実の娘らしい、というものだ。
一体ヨルゲンの企みは何なのか、ヤコブは突然のことに戸惑う。資金集めのた
めの帰郷は、彼の人生をじわじわと根幹から変えていく。

メロドラマ的な設定ではあるけれど、陳腐なドラマに終わらない。登場人物の
迷い、怒り、葛藤、動揺などを、しっかりと、かつ執拗に捉えようとするから
だ。目や口元、指先などを極端にアップで映し出すのは、小さな動きや仕草に
人の心情が現れるからだと、監督は話す。

そして、陳腐さを免れるのには、たやすく答えが出ないことも挙げられる。一
人ひとりは、格別、悪人でも善人でもない。何かを誰かのせいにして物語を解
釈することができない。
私は、ヨルゲンが最後にヤコブにつきつける提案は、身勝手だと思うし、もっ
と話し合いの余地もあったのではないかと思う。でも、人はつねに最善の選択
をする訳じゃない。私も、他の人も、映画の中の人たちのように。
だから、しっくりこなくても(物語上の)事実として、受け入れなきゃいけな
い。そうして受け入れてきたものの積み重ねを、人は幸せと呼んだりするのだ。

涙を流してすっきり感動、とはいかない。
あれでよかったのか、他にやりようはなかったのか、なぜああなったのか、い
ろんなシーンの映像を思い出しながら、いつまでも考えさせられてしまう、厚
みのある作品だ。

■COLUMN
以前、この監督の『しあわせな孤独』を紹介したときには、彼女は「スザンネ・
ビエール」とクレジットされていた。今作からは何故か「スサンネ・ビア」に。
現地読みに近づけたのか、ハリウッド進出(を最近しているらしい)により、
英語読みにしたのか。

前作もやはりメロドラマ的な設定なのに、ありがちな安いドラマになっていな
かった。今度の作品を観て、その理由をさらに見いだしたように思う。設定は
ありがちなメロドラマなのだけれど、登場人物が、ありがちなパーソナリティ
になっていないのだ。
ただし、それは、個性豊かな人を揃えていると言うことではない。パーソナリ
ティを特定できる要素を徹底的に減らしているように見える。

映画は平均2時間くらい。通常、物語の大筋が見えてくる30分くらいで、登場
人物がどんな人なのか、どんな背景を背負っているのか、観客に伝えないとい
けない。そのために、会話の中に、境遇や今置かれている環境を観客に教える
ような内容が含まれる。その「説明」が過剰にならず、わざとらしくならず、
短い時間の中で「この人はこういうタイプなんだな」と観客にイメージを持た
せる。脚本や演出の技が出るところだろう。
そこがうまくいけば、感情移入もしやすい。うまくキャラクターを伝えてくれ
る映画は、たいてい私好みだ。

だが、スサンネ・ビアは、あえてそれをしていない。
その人がどんな境遇だったのか、どんなタイプの人なのか、それを伝える代わ
りに、その人の「今」の表情をアップで捉える。一つのセリフも、どんな人生
を背負って出てきた言葉なのか、背景を説明する代わりに、「今」その言葉を
聞く驚きや意外性を、そのまま観客に届ける。
ちょうど、知り合って間もない人と、どういう性格なのか、何をしてきたのか、
はかり切れぬまま、いろいろな印象を持ちながら、話したり、時間を過ごした
りするように。

そういう演出なのに、登場人物の心情に共感したり、反発したりできる。なぜ
そう感情移入ができたのか、とても説明がしづらい。珍しいタイプの作り手だ
と思う。今後も新作が出たら観ちゃうだろうなあ。

<作品情報>
公式サイト:http://after-wedding.com/
公開中:シネカノン有楽町2丁目、立川シネマシティ
11月10日よりシネマックス千葉、全国順次公開

■INFORMATION
・前号「恋愛睡眠のすすめ」のCOLUMN欄。

読者様のご指摘で気づいたのですが、「統合失調症」とか「スキゾフレニア」
とか、いろんな言葉がぐちゃぐちゃと入り混じって、私の意図がわかりにくく
なっていました。バックナンバーとblog版では、言い訳がましい記述を省き、
シンプルにしました。たいした変更はありませんが、興味のある方はのぞいて
みてください。

http://oushueiga.net/back/film151.html
http://mille-feuilles.seesaa.net/article/63986178.html

・前々号「リスボン物語」のCOLUMN欄。

登場人物の名前を「フリードリッヒ」とすべきところ、「フレデリック」と書
いてしまいました。訂正いたします。

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編集・発行:あんどうちよ

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