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欧 州 映 画 紀 行
                 No.157   07.12.21配信
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

一日遅れの配信になりました。申し訳ありません。

★ 真冬にも、輝く夏のバカンスの幸せを ★

作品はこちら
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タイトル:『冬物語』
製作:フランス/1991年
原題:Conte d'hiver 英語題:A Tale of Winter

監督・脚本:エリック・ロメール(Eric Rohmer)
出演:シャルロット・ヴェリ、フレデリック・ヴァン・デン・ドリエッシ、
   ミシェル・ヴォレッティ、エルヴェ・フュリク
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■STORY&COMMENT
美容師のフェリシーは、夏のバカンスで運命の人シャルルと出会うが、別れ際、
うっかり間違った住所を教えてしまい、音信不通に。彼との間にできた娘を育
てながら、会えないまま5年の月日が過ぎてしまった。
勤め先の美容院の経営者マクサンス、図書館司書のロイック、2人の男性から
プロポーズを受けるフェリシーだが、心はどこかで今もシャルルを探し続けて
いる。

輝く夏のバカンスで映画は始まる。いかにも幸せそうな1組のカップル。住所
を交わして別れて、ぼそぼそと湿った冬のパリに画面は切り替わる。クリスマ
ス前の慌ただしい街を寒そうにフェリシーが行く。
偶然や運命がつながって、この寒くさびしい光景が、ラストには再び、幸せいっ
ぱいに輝く。年末の空気にぴったりの作品だ。

掲示板などの意見を読むと、この映画は男性には不評らしい。そう言われれば
確かに、フェリシーはプロポーズしてくれる2人の男をさんざん振り回すだけ
振り回している。振り回される男の立場に立ったら、なんじゃい、この女、て
ところだろうか。
でも。フェリシーがいちいち気が変わって意見を翻したり、けっこうわがまま
なことを大まじめに言ったり、私にはいちいちおかしくて楽しくて。周りは見
えてないけれど、自分の確信に基づいて自信持って話してる姿って、たいてい
どこか滑稽でおかしい。
男性もたぶん、目の前で愛してる女性がそうしていたら、苦笑いしながら、ば
かばかしくもきっと許すんじゃないだろうか。

住所を間違えるのもそうだけれど、フェリシーはしょっちゅう言葉を言い間違
えたり、似た言葉を取り違えたりする、いわゆる「天然」のかわいさがある。
その上、自分が信じたことにはやたらに頑固。映画の中にいても現実にいても、
不思議に人を惹きつけるタイプだと思う。
カップルで観て、感想を比べてみるのも楽しいだろう。
あと、今年中に何か願い事を叶えたいって人には、きっと勇気をもたらすから、
おすすめ。

■COLUMN
前にも書いたかも知れないが、エリック・ロメールという監督は、私が大好き
な映画作家の一人である。「の一人」というか、好きな映画作家の中でも格別
好きな作家だ。

上にも書いたような、ちょっとわがままで人を振り回すけれど、どこかかわい
いキャラクターは、他の作品にも共通する「ロメール節」。どこにでもいるよ
うでいない、いや、いないっていうとやっぱりいるような。そんな絶妙なキャ
ラクターが私は好きだ。
そして、今回の『冬物語』のように、ちょっとだけあり得なさそうな「偶然」
や「運命」のいたずらが隠れていること。あたかも日常を切り取ったような自
然でリアルな映像なのに、物語には大きすぎない夢があって、うっとりさせて
くれる。

そのロメール、現在87歳。最近『アストレとセラドンの恋』という作品を発表
し、これを最後に引退すると表明した。自分のスタイルは、小規模なチームで
自分で何でもやるものだし、そうなるともう体力的にキツいそうだ。

引退の報を読んだときは、意外なほどにショックではなかった。それはたぶん、
まだ、私がその事実を受け入れてないってことなんだと思う。

いつか引退するのは当たり前のことだけれど、このじいさんはずーっと若い娘
の心を捉えた作品を撮りつづけるような気がしていたのだ。
もう新しい作品が観られないって思ったら、寂しいような、「私はそのことの
ために何かしなきゃいけないんだろうか」、と変に焦るような、不思議な気分
だ。

前作は日本公開がなかったし、その最新作も日本には来ないかなあ。
巨匠の最後のメッセージなんて言えば、宣伝もしやすいと思うんだけれど。


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