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欧 州 映 画 紀 行
                 No.162   08.02.07配信
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★ 大人を眺める子どもの目線は ★

作品はこちら
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タイトル:『ぜんぶ、フィデルのせい』
製作:フランス・イタリア/2006年
原題:La faute à Fidel! 英語題:Blame It on Fidel!
監督:ジュリー・ガヴラス(Julie Gavras)
出演:ニナ・ケルヴェル、ジュリー・ドパルデュー 、ステファノ・アコルシ、
   バンジャマン・フイエ
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■STORY&COMMENT
1970年パリ。9歳の女の子アンナは、弁護士のパパ、雑誌記者のママのもと、
何不自由なく楽しく暮らしていた。
しかし、ある日、パパとママがキョーサン主義に目覚めてしまって大変!
大好きな宗教の授業は受けられなくなり、ミッキーマウスはファシストだから
遊べない、大好きな家政婦さんともお別れして、小さなアパルトマンに引っ越
さないといけない。家政婦さんに聞いたら、これ全部、フィデル(・カストロ)
って人のせいなんだって!

徹底してアンナの目線から描いているところがいい。大人はなんとなく大人の
事情で察してしまったり、察しなければいけないな、とその場で自分を納得さ
せることも、子どもは容赦ない。納得いかないことにはふてくされるし、わか
らないことにはいつまででもわからない、とわめく。

そういう子どもの目線から世で起こっていることを見てみると、大人はしたり
顔をして矛盾したことをしているもの。大人だからなーんとなくそういうもん
だと思っていることも、そういえばちょっと変だよね、なんて気づけて面白い。

パパやママの仕事や、身を投じた運動などが、アンナが見聞きした分しか描か
れていない、あえて「詳しく描かない」手法にもリアリティがある。私は一応
大人だから、アンナがわからないことにも、大人なりに補足情報を入れて理解
することはできる。でも、父の実家との確執や、政治運動をしているあいだの
仕事や経済的なことなど、細部のことはよくわからない。子どものとき、大人
のふるまいを眺めているときって、確かにそんな風だった。低い目線から大人
を眺めている頃のことを思い出させてくれる。

でもでも。
子ども目線で大人の世界を眺める話、で終わらないのが本作の魅力でもある。
アンナは、学校でいい成績をとると、得意満面で友達と点を教えあったり、フ
ランコの圧政から逃れてきたいとこが滞在するのを露骨に嫌がったり、かわい
いけれど、甘やかされたわがままなガキでもあった。そんなアンナが、自分で
考えてみて、ちょっとずつ成長してゆく、これは成長物語でもある。
自分を取り巻く状況の変化に、戸惑い、悪態をつき、いじけ、ぶつかり、そう
してやがて少しずつ、自分なりに、世界を切り開いてゆこうとする。その様子
が頼もしくて、ラストはすがすがしかった。

■COLUMN
多くの女性が中絶を告白し、合法化を求めた「343人の宣言」などの時代を象
徴するアイテムや、70年代のファッションが、学生や労働者、知識人たちの運
動が盛んだった頃の空気を楽しませてくれる。
時代劇のようにまるで違う時代ではないけれど、でも確かに今生きている時代
とはちょっと違う。30年、40年前の話は、今と変わらない部分と、そうとう違
う部分がまぜこぜになって、そのことが互いの時代をくっきり浮かびあがらせ
る。

私が「うわー、この時代には行けない」と、あらためて「驚愕」したのがタバ
コだ。「時代は変わった」というのと「私も変わった」というのと、両方で。

この作品では皆よくタバコを吸う。革命を目指す運動家のたまり場(アンナた
ちの家)は当然、タバコの煙でもくもくじゃなくっちゃ、かっこうがつかない。
今だったらどうなんだろう。社会の変革を考える人って、自然派とか無農薬と
かが好きな人が多いから(短絡的だったらごめんなさい)、間違いなく、たま
り場は分煙されているか、完全禁煙じゃないだろうか。

私はもともと、タバコは吸わない。でも、タバコを吸う人は気持ちよく吸えば
いいし、楽しく共存したらいい、ヒステリックな嫌煙は苦手だよ、と思ってい
た。しかし、ここ数年、身体の都合が変わってきて、タバコの煙にめっぽう弱
くなった。特に、花粉症を発症してからは、花粉の時期はタバコの煙で、まあ
まあ、それはひどい咳き込みように。

最近は、すっかり「タバコ嫌い」。昔バカにしていたヒステリックなやつに近
いかもしれない。
同じ空間でタバコを吸っている人がいると、うっかり一瞬、不機嫌な顔をして
しまったり、町で煙に出会うとおおげさに避けたり、心が狭くていかんなあ、
と反省する日々だ。
偏見はいかんいかんと思うけれど、やーっぱり、心の奥の方に「あんなにタバ
コスパスパやってる奴らに社会の変革とかできねーだろ」と悪態がくすぶる。
タバコと思想はカンケーナイとはわかってますけどねー。ハイ。

あの手放しにタバコがカッコよかった時代には、絶対戻れない。
私と社会の変化を、妙に実感した、「時代を表すアイテム・タバコ」だった。

■INFORMATION
公式ページ:http://www.fidel.jp/
恵比寿ガーデンシネマ、名古屋シルバー劇場、梅田ガーデンシネマ、シネカノ
ン神戸で公開中。全国順次公開予定。

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編集・発行:あんどうちよ

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