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欧 州 映 画 紀 行
                 No.164   08.02.21配信
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★ めんどくさいけれど、カンケーナクは、ないんだなあ ★

作品はこちら
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タイトル:『素粒子』
製作:ドイツ/2006年
原題:Elementarteilchen 英語題:Elementary Particles

監督・脚色:オスカー・レーラー(Oskar Roehler)
出演:モーリッツ・ブライブトロイ、クリスティアン・ウルメン、
   マルティナ・ゲデック、フランカ・ポテンテ、ニーナ・ホス
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■STORY&COMMENT
異父兄弟のブルーノとミヒャエルは、奔放なヒッピーの母親に養育を放棄され、
それぞれ祖父母のもとで育った。ドイツ語教師となったブルーノは、性的に倒
錯して情緒不安定に、数学の天才と言われたミヒャエルは、恋愛や性に縁遠い
まま研究に没頭し、クローン技術の第一人者となる。

なーんか、めんどくさい映画観ちゃったなあ。
この作品の公式ホームページ行ったって、「イントロダクション」はあっても
「ストーリー」のコーナーはないんだもん。ほらほら、関係者のみんなだって、
実はめんどくさくて難しい、と思ってたでしょ!
私の好きな映画とタイプが違ーう、とうっちゃる選択もあったかもしれないけ
れど、そうするにはずいぶん近い存在の物語のような気がした。観なかったこ
とにするのも、コメントを避けるのも、すべて「負け」と言われるような気が
する。

「めんどくさいなあ」の訳はまず、ブルーノが「気持ち悪い」。「最近どう?」
と聞かれて性生活のグチをぶちまけるように、生活の基準が性になっていて
(というか「関わり」のすべてが何らかの形で性を通さないと成立させられな
いのかな)、職場の高校ではあからさまに女子学生に欲情する、実際にいたら
目を背けて関わりをゼロにしたくなるようなキャラクターだ。その上、強烈な
人種差別主義者。これで妻子持ちって、どうやって結婚したんだよー。だけれ
ど、そのブルーノが、「関わり」がうまくいかずに泣きじゃくって病院に駆け
込むとき、「私の隣人」もしくは「私の中にもこんな人は隠れているかも」と、
私はほだされてしまう。

ミヒャエルはブルーノに比べたら相当マトモ。研究者として尊敬を集めている
から、頭もよくて冷静だ。だけど、どこか危なっかしい。クローン技術の研究
はひょっとしたら、「異性と触れあえない自分」から出発しているのでは? 
と思われるムッツリぶり。飼っていた鳥の死への不自然な対し方。幼なじみの
アナベルに再会して、愛をはぐくむ、その先を何だか心配してしまう。
つかみ所のないミヒャエルだけれど、この人も、ああ、意外と「私の隣人」か
「私の一部」かも、と思う。

嫌っていた、というか裏返しで強烈に愛されたがった母と同じような道をたどっ
て、ブルーノはヒッピー村でフリーセックスや精神世界に浸って精神のリハビ
リを試みる。
そういうシーンも気持ち悪くて「めんどくさい」要因なんだけど、結局、観て
最後に私の中に残るのは、絶望と痛々しさに顔をゆがめるブルーノだ。
私の中にもこんなのいるかも。私の孤独もちょっと似てる。
私の中にある、なんかどす黒くて、引き出して光に当てたら大変なことになり
そうなもの、それが刺激されるんじゃないか。行き着く「めんどくささ」はそ
こだ。

■COLUMN
原作はフランスの小説家ミシェル・ウェルベックによる。
原作もけっこう話題になっていて、読んでみようかな、と思っているうちに時
間が経って、ふと気づいたら映画化作品が公開になって、観てみようかな、と
思っているうちに時間が経って、DVDになっていた。

原作のある作品って、原作を先に読むのか、映画を先に観るのか、けっこう迷
うポイントだ。出会いの印象は大事だし、どっちかしか選択できないものね。

私の経験上、原作に先に出会っていると、映画に辛くなることが多い。自分な
りにイメージを作って、映画とのギャップにガッカリするとか、自分ではこの
くだりがサイコー! と思っていたのに、映画ではスルーだったとか、思い入
れに差が出るからだろう。
原作読んでるからストーリー展開がわかるけれど、原作を読んでいない人には、
意味がわからないところもあるんじゃないの? なんて憤慨したこともある。
でも、それってよく考えてみると、読んでない人は、そういうものとして観て
いるから、気になってない可能性もあるわけだ。

その点、映画を観てから原作を読むと、情報が補完されて、映画のイメージを
思い描きながらエピソードを吸収できて、映画に対しても原作に対しても丸く
収まるハッピーな出会いになるように思う。

この作品も、原作を読んだら、またいい出会いが生まれるかもしれない。
これは勘だけど、本作は、映画化するにあたって設定やエピソードを借りなが
ら、芯の部分は映画監督のオリジナルが強いんじゃないか。(あくまでも勘だ
けど、うすらぼんやりとした根拠を示すと、ブルーノ役のモーリッツ・ブライ
ブトロイが、前に似たようなキャラクターやってるの観たなあ、て気がして調
べたら、この監督の作品だったのだ。そのときは、「気持ち悪い」ばかりであ
んまりほだされなかった)
違う芯を持ったオリジナルを読むのを今ちょっと楽しみにしている。

■INFORMATION
素粒子(映画)
価格:¥ 3,201(定価:¥ 3,990)
http://www.amazon.co.jp/dp/B000W7E68S/ref=nosim/?tag=oushueiga-22

素粒子 (ちくま文庫)ミシェル ウエルベック
価格:¥ 1,260(定価:¥ 1,260)
http://www.amazon.co.jp/dp/4480421777/ref=nosim/?tag=oushueiga-22

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編集・発行:あんどうちよ

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