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欧 州 映 画 紀 行
                 No.169   08.04.10配信
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★ 知的に、スタイリッシュに、コミカルに、ミステリアスに ★

作品はこちら
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タイトル:『青い夢の女』
製作:フランス・ドイツ/2000年
原題:Mortel transfert  英語題:Mortal Transfer

監督:ジャン=ジャック・ベネックス(Jean-Jacques Beineix)
出演:ジャン=ユーグ・アングラード、エレーヌ・ドゥ・フジュロール、
   ミキ・マノイロヴィッチ、ヴァレンティナ・ソーカ
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■STORY&COMMENT
精神分析医ミッシェルには気になる患者がいた。夫の暴力によって快感を得る
性癖を語る、美しい人妻のオルガだ。やがて、オルガの性と暴力の話を聞いて
いると決まって睡魔に襲われるようになるミッシェル。ある日、オルガの診察
中に寝てしまい、起きるとそこにはオルガの死体があった……

一体、なぜ死体が転がっているのか、自分が寝ている間に殺してしまったのか。
のっぴきならない状況に立たされたミッシェルが、この状況をどう打開するの
か。ミステリー仕立てなんだけれども、その状況打開の試みのあちこちで笑え
る、ミステリーコメディといったところか。

緊張した状況で気が抜けるようなことが起こると、小さな事でもその落差で笑っ
てしまうことがある。そんな効果を存分に使って、長椅子の下からどうしても
出てきてしまう死体の腕を何度も押し戻そうと必死になったり、死体を運ぼう
としてアイスバーンの道でコケたりと、「笑い」を生む装置としてはかなり
「ベタ」なものでも、うまーく笑わせてくれる。
私も、いろんなところで声を出して笑った。同時に、死体を隠しおおせるかと
か、追及の手から逃れるのか、とか、本気でドキドキして観てたなー。まあ、
これは私が怖がりだからかもしれない。

サスペンス気分を味わって、数々のコミカルな場面で弛緩して、精神分析とい
うちょっとした知的領域に踏み込んで、物語にはしっかりオチもついてすっき
り感も得られて、とても楽しめる120分。(このすっきり感がご都合主義ぽく
て許せん、という人もいるかもしれない。フランス映画好きには特に。でも私
はこれで好きだな)
独特の青みを帯びた画がおしゃれで、夜中のカフェで意味なく(もしくは意味
ありげに)大画面に流しておく映画にしてもいいくらい。(にしては少しハー
ドな場面も多いかな)
喜怒哀楽とか五感とか、いろんなものを刺激してくれる、ベネックス監督、サー
ビス精神旺盛だなあ、と実感する1本だ。

■COLUMN
ヨーロッパの映画を観ていると、精神分析医というのがけっこう出てきまして。
患者は長椅子に寝そべって思うことを語り、患者の視界に入らないところで分
析医は話を聞く。今までメルマガで取り上げたなかで、ざっと考えただけでも、
『親密すぎるうちあけ話』とか『息子の部屋』とか、こんなタイプの分析医が
登場する。

こういう診療が今主流かどうかは知らない。そもそも精神分析というのが、純
粋な形ではもう残っていないだろうし、長椅子で寝そべって患者が語るよりも、
治療者と患者が対面する診療が増えてるんじゃないかと思う。
実際のあり方はともかくとして、人々のあいだに、精神分析とか心理カウンセ
ラーと言ったら、「長椅子に寝そべっていろいろ話をするあれでしょ」という
共通イメージがあるらしいことは伝わってくる。

日本ではまず精神分析はもちろん、精神科医、心理カウンセラーの具体的イメー
ジって特にないんじゃないだろうか。少なくとも、心関係の医者=長椅子のよ
うに符号として作用するものはないと思う。
事実、「長椅子 精神分析」などで検索すると、映画や本やマンガの話のペー
ジが多く表示される。

だから、実際にこういうセラピーが主流であるかは別として、物語の装置とし
てポピュラーだとも言える。例えば、日本のドラマで妻が夫に離婚届の用紙を
つきつける、なんてシーンは、「離婚を考えている」を伝える符号として広く
認知されているだろう。実際にそういう形で離婚話が進むのかどうか、よく知
らないんだけれども、「離婚届」はドラマや映画のよくあるアイテムだ。
精神科医、精神分析医、心理カウンセラーetc.→長椅子。観る人にとって、イ
メージを喚起しやすいアイテムなんだろうか、と思う。

ちなみに、前にちょっと聞いたことがあるんだけれど、日本では「離婚届の用
紙」の離婚の(とか「どっちかが離婚をかんがえているらしい」を表す)符号、
フランスでは「弁護士に連絡するわ」とか、そんなセリフなんだそうだ。そう
言われてもあんまりピンとこなかったんだけれど。

受け手に何かを喚起するイメージとか符号とか、国別・文化別・時代別にいろ
いろあるだろう。それ、研究しはじめたら、本が1冊書けそうだ。そういうの、
まとめて読んだら面白そうだけどなあ。誰かが書いてくれたら、きっと読む。
絶対、読むかな。

■DVD INFORMATION
青い夢の女
価格:¥ 2,363(定価:¥ 2,625)
http://www.amazon.co.jp/dp/B0002L4CPQ/ref=nosim/?tag=oushueiga-22

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編集・発行:あんどうちよ

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