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欧 州 映 画 紀 行
                 No.171   08.04.24配信
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★ 幻想を持てることは、絶望か、希望か ★

作品はこちら
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タイトル:『パンズ・ラビリンス』
製作:スペイン・メキシコ・アメリカ/2006年
原題:El laberinto del fauno 英語題:Pan's Labyrinth

監督・脚本:ギレルモ・デル・トロ(Guillermo del Toro)
出演:イバナ・バケロ、セルジ・ロペス、マリベル・ベルドゥ、
   ダグ・ジョーンズ、アリアドナ・ヒル、アレックス・アングロ
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■STORY&COMMENT
1944年スペイン。内戦終結後も、フランコ政権に抵抗する人々がゲリラとなっ
て山中に潜んでいた。内戦で父を亡くしたオフェリアは、母の再婚相手のビダ
ル大尉のもとに来た。ビダルはゲリラを一掃しようとする冷徹な男。妊娠中の
母にも冷たい。
おとぎ話の好きなオフェリアは、残酷で冷たい現実から逃れ、空想の迷宮に迷
い込み、地下の国のプリンセスの生まれ変わりとして、「試練」に挑むことに
なる。

公開当時、「スペイン内戦下、少女が空想の世界に逃げ込む」という内容を聞
いて、それってビクトル・エリセ監督の『ミツバチのささやき』そのまんまじゃ
ん。二番煎じだったらつまらんのう。とぐだぐだ考えていた。「名画」だと思っ
ている映画だから、どうも引っかかるところがあったのだ。そんな訳で、いい
評判を聞いても、なーんとなく観る気にならず、気づけばDVDのレンタルが開
始されていた。時ってあっというまに過ぎていくなあ。

観てみたら、二番煎じなんてことは全然なかった。
懐中時計の使い方など『ミツバチのささやき』へのオマージュか、目くばせか、
と思わせるところもあるが、「幻想」部分がもっと物語にくいこんでいる点で、
まったく違う印象を持った作品だ。

この映画は、「ファンタジー映画」なのか「スペイン内戦を描くドラマ」なの
か、定義づけがしにくい、と言われるらしい。まあ、そうだろうね、だって両
方だもん。定義とかジャンル分けとかする立場じゃなくてよかった。

オフェリアの逃げ込んだ空想の世界は二重の意味で物語にくいこんでいる。
1つには、CG技術で「幻想の世界」を完全に映像として見せていて、その映像
そのものが作品の肝の一端となっていること。そしてもう1つは、その「幻想
の世界」は、そこで完結せず「現実の世界」に影響を及ぼしているということ。
だから、オフェリアの幻想は、果たして「幻想」だったのか、「現実」に起こっ
たことなんじゃないの? という解釈の議論も起こる。

『ミツバチのささやき』では、成長した主人公は、幻想と現実の折り合いをつ
けた(ように私には感じられた)。でも、この作品のオフェリアは、もっと深
く、「幻想の世界」にはまりこみ、「幻想の世界」が「現実の世界」を浸食し
ているように感じられる。
舞台は1944年だ。しかしこれを捉える現代、21世紀には、もう幻想の世界しか
逃げ込むところは本当になくなった、という絶望なのか。それとも、幻想のよ
うな世界をいつか迎えるだろう希望なのか。
どう捉えていいものか、しばし考えちゃったなあ。

★前に書いた『ミツバチのささやき』
http://oushueiga.net/back/film023.html

■COLUMN
こういうの、きちんと作品を鑑賞する人には怒られるかもしれない。
このDVD、翌日観ようと思っていたのを、夜眠れなかったから、ベッドのなか
ポータブルDVDで観始めて、そのまま最後まで観てしまった。

なんだか、子どもが寝床で隠れて遅くまで本を読んでいるみたいに、夜のシー
ンとしたなかでこれを観るのは、思いの外合っていた。

守護神パンに言われて夜中にこっそり試練の旅に出るオフェリアが、見つから
ないかと、闇のなかでびくびくし、試練の旅のなかでうまくやれないのではと
ハラハラする。子どもがこっそり何かをすることと、布団にもぐって映画を観
る姿勢が、どこかでオーバーラップして、妙な具合にリアルに世界に入り込む。

オフェリアの幻想に唯一理解を示してくれた、お手伝いのメルセデスが、ゲリ
ラの支援するところでは、何度も何度も見てられないよと布団をかぶる。
ビダル大尉の拷問(実際には結局映像には出てこない)も、「きゅーん、怖い
よぉ」と毛布をつかんで目をふせた。

大半は、私が怖がりであることが原因だけれど、やはりこの状況が作りだした
ものは大きくて、この感じって、ふつうに映画館で観ていても、ふつうにテレ
ビで観ていても、得られなかったものだと思う。

映画館の大画面で観るのがいちばん、という人もいるけれど、私は不思議なこ
とに、そういうこと全然思わない。映画館で観るのは、もちろんいい。でもそ
れが常に最良の方法だとは思わない。
家で自分の好きな飲み物片手にリラックスして観るのもいいし、飛行機のなか
で偶然観たら、やたらと心に沁みたってこともあるだろう。
映画館のスクリーンで観ることを前提として、作り手は作っているんだから、
映画館が作り手の意図を最もくみ取れるという意見もあるらしいけれど、作り
手の意図とやらが、観る側の心の在りようとか、都合とか、思いこみを含めた
感情のブレに、つねに優先する理由なんてない。(勝手に作りかえるとか、リ
メイクするとかいうのは、別の話ですよ)

なんて気張ってみても、要するに「好きずきでしょ」てとこに落ち着くのかな。
ふだんとちょっと違う環境で観てみると、映画ともちょっと変わった出会いが
できるかも、そんなことを思った深夜のこっそり映画鑑賞だった。

■INFORMATION
★DVD
パンズ・ラビリンス 通常版
価格:¥ 2,953(定価:¥ 3,990)
http://www.amazon.co.jp/dp/B0012EGL4M/ref=nosim/?tag=oushueiga-22

★まぐまぐ版のバックナンバーがケータイからも読めるようになったそうです。
移動中、眠れない夜などに、どうぞ。http://a.mag2.com/0000131928/
このメルマガ、ケータイで読むには長い気もしますが。

★最近、ちょっとパタパタしております。
ひょっとすると来週、再来週あたり、休刊するかもしれません。
マガジンが来なかったら、「あー、あやつはパタパタしとるな」と
思っていてください。観る時間と書く時間があれば、発行します。


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編集・発行:あんどうちよ

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