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欧 州 映 画 紀 行
                 No.172   08.05.01配信
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★ 大事な人を、もがれる痛み ★

作品はこちら
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タイトル:『サルバドールの朝』
製作:スペイン・イギリス/2006年
原題:Salvador

監督:マヌエル・ウエルガ(Manuel Huerga)
出演:ダニエル・ブリュール、トリスタン・ウヨア、
   レオナルド・スバラグリア、ホエル・ホアン、レオノール・ワトリング
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■STORY&COMMENT
1970年代初頭、フランコ独裁政権下のスペイン。自由を求めて多くの若者が活
動していた。その流れに乗って、青年サルバドールも仲間と一緒に反体制活動
に加わった。
警察にマークされ、銃撃戦となったある日、彼のはなった弾で警官が死に、自
身も重症を負った。警官には他の銃弾も撃ち込まれていたが、捜査ではその事
実は隠され、警官殺しの罪は重く、サルバドールには死刑の判決が下された。
減刑を求める声も高まるが、執行の日は刻々と近づき……

たまたまだけれど、スペインの辛い歴史の映画が二度続いた。前回は、1940年
代、内戦で人の心も土地も荒廃していた。そして、そこからさらに独裁政権と
いう試練が訪れたスペインだ。この映画では独裁政権も末期の頃だが、カタルー
ニャ語(バルセロナ辺りで話される言葉)が禁止されているなど、内戦の頃か
ら続くスペインの悲しい側面が散見される。

公開当時、私の母が観てとてもよかったと話していて、「えー、意外だなー」
とピンとこなかった。だいたいどんな映画でも観れば楽しむ人ではあるが、当
時私は、この映画を、死刑になる時を映し出す苦しい映画、さらに政治的な要
素が加わっているとイメージしていたので、母の好みとは違うんじゃないかと
思ったのだ。

今回、観てその違和感が解けた。
これは、死に行く者をじっと見つめた物語。要素はまったく違うけれど、苦し
みへの寄り添い方はどこか難病の映画に似ている。
だから、サルバドールが何をしたか、よりも、死刑が決まった後の、サルバドー
ルと家族、弁護士、しだいに親しくなった看守との関わりがクライマックスだ。
自分にとって大事な人が、もがれるように連れ去られる痛みを、じっくりと時
間をかけて描く。
死刑を描くセンセーショナルでも、声高に訴えるメッセージでもなく、大切な
人が今に旅立ってしまうこと、激しい苦しみに突き落とされること、そして、
大切な人たちを遺して去らなければならないこと、とてもとても根源的なとこ
ろをずーんとズームして描く。

苦しくて辛い物語だけれど、人のつながりの強さを見せてくれる物語でもある。
いや、そのつながりが強いが故に、悲しく辛い、てこともあるのだけどね。

■COLUMN
主演のダニエル・ブリュール。『グッバイ、レーニン』とか『ベルリン、僕ら
の革命』とか、ドイツの面白い映画でこの俳優を知って、ドイツ若手ナンバー
ワンなんだな、と思っていた。
ドイツの映画だけじゃなくて、フランス映画『戦場のアリア』でドイツ人将校
役を、イギリス映画『ラヴェンダーの咲く庭で』では漂着したポーランド人ヴァ
イオリニストを演じていた。
なんだかどこの国の映画を観ていても出てくるなあ、と思っていたら、今度は
スペイン映画でスペイン人の役と聞いてびっくり。

で、ここでようやく調べてみた。
母がスペイン人、父がドイツ人、生まれはバルセロナで育ちはケルン、現在の
拠点はベルリン、毎年夏休みは母の故郷バルセロナで過ごし、ドイツ語もスペ
イン語も母語とのこと。本名はDaniel Cesar Martin Bruhl Gonzalez Domingo
(発音記号っぽいのは省略)。長いなあ。

これじゃあ、今までスペインの映画に出ていなかった(のかどうか、ちゃんと
は調べていないけど)のが不思議なくらいか。
きっとこれからも、国境を軽々と飛び越えて、ヨーロッパの俳優として活躍し
ていくんだろう。「ヨーロッパ」を「ひっさげて」アメリカに行ったりさー。

でも、ひょっとしたら、と思うのだけれど。
私はたまたま、ドイツもスペインも同程度に映画でしか知らずに、日本から二
つの国の映画を眺めている。だから、ドイツで有名なダニエル・ブリュールが
スペイン映画でも評価をもらってるなー、と思う。でも、これってドイツの人
からしたら、「へー、彼、スペインの映画に出たの? ああ、お母さんスペイ
ン人だから、スペイン語いけるんだ。ふーん」てなもんだったりしないだろう
か。「外国でもなんか出たんだ」って。
スペインの人からすれば、「サルバドール演った俳優って、ドイツで活動して
たの? 意外?」て具合に、ドイツでの役者活動はそんなに振り返られなかっ
たりして。

ヨーロッパはひとつといっても、やっぱりそこに暮らしている人はどうしよう
もなく自国、もしくは自分の地域中心にものを見るだろう。だから、「ヨーロッ
パを代表する俳優」なんて、この極東の地ではありがたいコピーになっても、
やっぱり、ヨーロッパでは、ある時はドイツの俳優、ある時はスペインの俳優、
の方が自然でとっつきやすい、ていうことはないかなあ。

ダニエル・ブリュール、今度はどこの国の映画で、何人の役だろう。ちょっと
楽しみ。

上に登場した作品のなかで、前にこのメルマガでとりあげたもの
『グッバイ、レーニン』
http://oushueiga.net/back/film032.html
『ベルリン、僕らの革命』
http://oushueiga.net/back/film077.html
『戦場のアリア』
http://oushueiga.net/back/film126.html

■INFORMATION
★DVD
サルバドールの朝
価格:¥ 3,198(定価:¥ 3,990)
http://www.amazon.co.jp/dp/B0012IU112/ref=nosim/?tag=oushueiga-22

★まぐまぐ版のバックナンバーがケータイからも読めるようになったそうです。
移動中、眠れない夜などに、どうぞ。http://a.mag2.com/0000131928/
このメルマガ、ケータイで読むには長い気もしますが。

★最近、ちょっとバタバタしております。
ひょっとすると来週、再来週あたり、休刊するかもしれません。
マガジンが来なかったら、「あー、あやつはバタバタしとるな」と
思っていてください。観る時間と書く時間があれば、発行します。



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感想・問い合わせはお気軽に。

編集・発行:あんどうちよ

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