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欧 州 映 画 紀 行
                 No.173   08.05.15配信
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★ つながれない二人 ★

作品はこちら
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タイトル:『待つ女』
製作:フランス/2006年
原題:7 ans 英語題:7 years

監督・脚本:ジャン=パスカル・アトゥ(Jean-Pascal Hattu)
出演:ヴァレリー・ドンゼッリ、シリル・トロレイ、ブリュノ・トデスキーニ、
   ナディア・カシ、パブロ・ドゥ・ラ・トーレ
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■STORY&COMMENT
夫ヴァンサンが7年の刑に服して1年が経つ。メイテは週2回の面会を欠かさな
い。ある日、兄の面会に来たという男に声をかけられた。しつこく誘われるう
ちに、車で送ってもらったメイテは、その男と関係を持つようになる。しかし、
実はこのジャンという男、ヴァンサンの看守だった。

衣類を洗濯しアイロンをかけ、頼まれた差し入れのもを調達し、手を握り合う
だけのつかの間の逢瀬。二人とも互いが恋しい。
愛し合っている。7年が経つのを待っている。でも、塀の中に閉じこめられた
男は、いつか捨てられるかもしれないと恐怖があり、女も、いつか愛の形が変
化するのではないかと怖い。手は握れても、人目を盗んでキスできても、つな
がり合えない辛さは相当なもの。そして、「あの人とつながれない」悲しみに
は、「それなら誰でもいいのにつながれない」悲しみもぴったりと寄り添って
いる。
1年間、毎日一人の夜を過ごせば、誰かとつながりたい、誰かに触りたい、誰
かに触られたくなる。そんなところに謎のジャンがやってくる。

ネタバレといえばそうだけれど、この話はしないとこの映画について語れない
ので。
ジャンは、ヴァンサンに頼まれてメイテを誘惑した。らしい。らしい、という
のは、最後まで観ても、なんでジャンは頼まれてほいほいとそんなことをした
のか、どんな経緯でそうなったのか、ていう説明はないから。
レコーダーで性行中の音をとって、ヴァンサンはそれを聞く。それでメイテを
想う。屈折した愛情と欲望だ。事情を知ったメイテも、それを拒否できない。
ジャンの向こうに音を聞くヴァンサンを想いながら交わる。

官能ミステリーみたいにパッケージには書いてあって、屈折したプレイをにお
わせていたけれど。屈折なんてみんなちょっとずつしてるものだから、そこに
スポットをあてることに私はあんまり興味ない。この映画の面白さは、そうい
う変態性ではなくて、欲望と心理と葛藤とが入り混じった描写にあると思う。

そして、ヴァンサンが、なぜ7年の刑になったのか、間男の役回りのジャンが
くり返し「本当に愛している」と言ったのは、どこまで本当だったのか、はっ
きりとはわからない、不親切な設計がまたよい。人はこういうのを指して「フ
ランス映画」と代名詞的に使ったりするのではないか。

最後はどこかせつなくて、誰がというんじゃなくて、3人が3人ともせつなく
て。ああでもなし、こうでもなしと、考えさせてくれる良作だった。

■COLUMN
本を読むと、3行で「あ、これだめ」て思うことがある。1行のときもあるか
な。図書館で適当に借りてきた本ならそこでやめるけれど、お金を出しちゃっ
たとか、誰かに勧められたとか、とても評判がよくてそれがだめだと思ったら
自分がバカかもしれないとか、まあ、そういうときは、がんばって、読む。ミ
ステリーなんかで一応先が気になって読めるってこともある。

そういう場合、感想を聞かれると「んー、一応先が気になるからねー、最後ま
で読んだしぃ、面白いっちゃあ面白いけどお、文章がだめっ」と、最後に早口
に全否定みたいな感想になる。
3行読んで、「お、いいね、いいね」て思ったけど途中で気に入らないところ
がいっぱい出てくることはあっても、3行読んでだめだったものが、行を重ね
るにつれて持ち直すことはない。

こうしてメルマガを続けてきて、時間がなかったり気分的にあーんまり乗らな
いときにも、がんばって映画を観るなんてことも増えて、そりゃあとにかく、
観た映画の本数がたくさんになった。

で、その経験で、できるようになったことと言えば。3分観れば、だいたい、
その作品が好きかどうかわかるようになった。
本が字(言葉)だけでできているのに対し、映画は、背景の景色がきれいとか、
役者がとにかく美男子だとか、かかってる音楽だけは天下一品だとか、他の要
素もいっぱいあるから、最初の3分の比重は、最初の3行ほどではない。けれ
ど、最初に「だめ」て思ったものが、メルマガで取り上げてもいいな、と思う
程度に「よかった」と思えることは、やっぱりほとんどない。
それを私は一種の「語り口」だと思っている。おそらく、カメラの動き、対象
の映し出し方、フレームの切り方なんかで、好き嫌いを直感できるんだろう。

この作品、「ハズレかもしれないけど、一応」と半信半疑だった。でも、観は
じめたら。
タイトルや俳優の名前が1分半くらい。Tシャツにアイロンをスチームで、折
り目までつけてしっかりかける女を真横から映し、正面からに視点が移って、
奥の部屋へ向かう女を見やる。戻ってきた女はシャツに香水をふりかけ、その
香りを確かめると、満足そうに小さく笑みを浮かべ、大きなナイロンの袋に衣
類を詰め、画面はその袋の所帯じみた花柄が支配する。
その3分弱で、「お、これぜーったいアタリ」て思ってうれしかった。

そのアイロンがけが、何を意味するんだろうと、頭から思いっきり気がかりに
させてくれて、映画の中に自然に入り込める。しかも、アイロンも、そのかけ
方も、部屋も、リアルな生活感がある。
監督は、ドキュメンタリーのシリーズを撮っていたそうで、生活の細かなとこ
ろまで、一見執拗に、でも自然に映し出すのは、きっとドキュメンタリー的な
観察なのか、なんて思った。

上に書いた、冒頭のシークエンスを文章で表してみたいと思って、この作品を
取り上げたようなところもある。幸せな直感を与えてくれた、最初の3分だっ
た。

■INFORMATION
・DVD
『待つ女』
価格:¥ 3,441(定価:¥ 3,990)
http://www.amazon.co.jp/dp/B0011UGY08/ref=nosim/?tag=oushueiga-22

・引き続き、ちょっとワタワタしてます。
来週はたぶん普通に発行しますが、
その先、またぽつぽつ休むかもしれません。
よろしくお願いいたします。


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編集・発行:あんどうちよ

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