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欧 州 映 画 紀 行
                 No.178   08.07.12配信
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

前号で、次の配信は7月12日(木)などと寝ぼけたことを言ってしまいました。
どうも6月のカレンダーを見ていたようで。
間違いついでに、
今回は変則的に、土曜、12日付けでお送りする「欧州映画紀行」です。

★ 軽いラブコメで悩みを吹き飛ばそう ★

作品はこちら
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タイトル:『ソフィー・マルソーの愛人〈ラマン〉』
製作:フランス/2003年
原題:Je reste! 英語題:I'm Staying!

監督:ディアーヌ・キュリス(Diane Kurys)
出演:ソフィー・マルソー、ヴァンサン・ペレーズ、シャルル・ベルリング
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■STORY&COMMENT
パリの豪勢なアパルトマンで暮らすマリ・ドーは、夫ベルトランとの関係に悩
んでいる。大手ゼネコンに勤める彼は、出張ばかりで妻にも息子にも無関心。
たまの休日には自分の自転車トレーニングにつき合わせるだけ。
そんな生活に嫌気が差していたマリ・ドーは、ある日、映画館で一人の男性と
出会う。しだいにその男性・アントワーヌに惹かれていく彼女だが……。
夫婦の危機と変化を、ちょっとひねって描くラブコメディ。

こういう三番煎じだか冗談だかわからないようなタイトルは、劇場未公開作品
と決まっている。確かに「フランス映画」好きな客にアピールするには、いさ
さかチープで軽すぎるかもしれない作品。劇場公開するのは難しかったろう。
でも、私は嫌いじゃないな。ばかばかしくもチャーミング、軽ーく元気にして
くれる。蒸し暑い夜にさらりとDVDで観るのに向いている。

ベルトランは、典型的にイヤな夫。仕事ばかりで家庭を振り返らないなら、妻
を自由にさせていたらいいもんだが、息子が小さいことを理由に働かせず家に
縛り付ける。息子が気にくわないことをすれば「しつけが悪い」と怒る。
休みには自分の趣味の自転車に無理矢理つきあわせ、マリ・ドーの役目は車で
併走、食糧補給、怪我の手当だ。
「出世欲の塊」みたいな態度には同僚からも不評を買い、出張先では日常的に
浮気にいそしむ。

まあ、なんでこんな凡庸な男にわざわざヴァンサン・ペレーズを使うかね、と
不思議に思う前半だが、当然ながら、このままのベルトランじゃないから有名
俳優を使うし、映画なのである。

不満が爆発しそうなマリ・ドーに新しい出会い。平凡な主婦のラブ・ロマンス
でも始まるかな、と思うと、そう単純ではない。マリ・ドーの恋人にならんと
するこのアントワーヌ。ただの恋人じゃないらしい、どうも何かの企みがある
らしく、三角関係の始まる後半からは、「どんな話」とジャンル分けするのも
難しくなってくる。

誤解を招くこと承知で言ってしまえば、スピーディーなんだか雑なんだかわか
らない展開。つっこみどころはそりゃあたくさんある。
でもね、不幸がぺっとり張り付いたようなマリ・ドーに、こうやって笑顔が戻
るなら、いいか、と。凡庸で醜悪なキャラクターも、こうやって変化するなら
それもいいか、と。展開のあら探しはしない方が勝ち(って、何の勝負だかわ
からないけれど)だと思う。

何かに悩んでいて、難しいテーマやリアルな人間ドラマは今ちょっと、てな人
にはおすすめ。
前半のマリ・ドーの悩みを見れば、自分の悩みなんてひょっとしたら小さいも
のなんじゃないかと思え、後半のあっけらかんとしたコメディ展開には、悩み
なんてこんなふうに、ポンポンポンと、何とかなっていくもんじゃないかと思
える。ところどころの小ネタギャグには、他愛なく平和に笑えるしね。
ぜひお試しを。

■COLUMN
上にも書いたように、ベルトランは少なくとも初めのうちはひどく俗で凡庸で
横暴だ。
「家庭を振り返らない」「妻に働かせない」「出張先ではCAと浮気」
嫌な夫の記号のオンパレードだ。こういうのは洋の東西を問わない、わかりや
すい記号なんだろう。
さらに、ベルトランのキャラクターを表す記号には、ひょっとしたら日本人だ
からいまいちイメージできないものもあるのかな、というものもある。

例えば、家でも車のなかでもひたすら流すジャック・ブレルの歌。ジャック・
ブレルといえば、往年のシャンソン歌手でフランスの国民的スターだ(本人は
ベルギー人なのだけれど)。どーんと真っ直ぐに歌い上げる歌声を、そりゃあ
毎日流されたらイヤになるってもんだが、「ジャック・ブレルをいつも流して
いる」には、きっと独特のイメージがあるんだと思うんだ。日本だったら何に
あたるんだろう。美空ひばり? グループサウンズ? 
固有名詞の喚起するイメージは、他の何にも代え難い力があって、このあたり
の細かいキャラクターのあり方は、捉え切れてないんだろうなー、と歯がゆく
もなる。

一緒にサイクリングを楽しむならまだしも、マリ・ドーを併走、食事・水分補
給でさんざんつきあわせる自転車も、「ベルトラン像」を創る重要なアイテム。
「社長が自転車好きだから取り入るために始めた」設定は、どこの国でもわか
りやすい「凡庸」だが、自転車が趣味って、日本だったら個性的でかっこいい、
健康的というイメージにもなりそうだ。
実際に自転車に凝り始めると、フレーム(タイヤとかハンドルとかペダルとか
ついていない骨組みのみ)にウン十万だとか、理解しがたい高額の趣味になる
から、家族はいろいろ大変だろうけれど、「イメージ」の問題としてだ。

自転車競技は日本よりヨーロッパはずっと盛んだし歴史もある。ということは、
その競技でウンザリしてきた女どももずっと多いということにもなる。
「趣味が自転車」も、「保守的で自分の世界に没頭する輩」という符号になっ
ているのかもしれない、という気がする。

ところで、この時期、フランスではツール・ド・フランスの真っ最中。「自転
車競技観戦好き」の夫のおかげ、この時期は、毎夜毎夜、ツール・ド・フラン
スの生中継がテレビを独占している。
私だって自転車は割と好きだが、3週間、毎晩、何時間も自転車と山と田舎道
を眺めるのにはちょっぴり閉口ぎみ。
「家族をほったらかす自転車好き」のイメージを想像したのは、そのせいかも
しれない。どうか話半分に。
(彼の名誉のためにつけ加えておくと、ちょっとばかしテレビの視聴時間が長
いだけで、横暴でも、家族を無視しているわけでもないんですが)

■DVD INFORMATION
ソフィー・マルソーの愛人〈ラマン〉
価格:¥ 3,072(定価:¥ 3,990)
http://www.amazon.co.jp/dp/B001947CFW/ref=nosim/?tag=oushueiga-22


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編集・発行:あんどうちよ

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