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欧 州 映 画 紀 行
                 No.183   08.08.14配信
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★ 健気な姿にハラハラして応援して…… ★

作品はこちら
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タイトル:『この道は母へとつづく』
製作:ロシア/2005年
原題:Italianetz 英語題:The Italian

監督:アンドレイ・クラフチューク(Andrei Kravchuk)
出演:コーリャ・スピリドノフ、マリヤ・クズネツォーワ、
   ダーリヤ・レスニコーワ、ユーリイ・イツコーフ、ニコライ・レウトフ
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■STORY&COMMENT
ロシアはフィンランド国境近く。寒々とした景色の中に建つ孤児院に、イタリ
ア人夫婦が養子にする子どもを探しにやってきた。6歳のワーニャが選ばれ、
本人も周りも喜んでいたのだが、かつて同じようにもらわれていった友達の実
の母が孤児院に現れたから大変。ワーニャは自分がもらわれていった後にママ
が探しにくるのでは、と思いつめ、孤児院を逃げ出して母を探しに行く。v
自由主義経済が急速に進んで、貧しい人とそうでない人の差が激しくなってか
らのことなのか、よくわからないが、ロシアには映画に出てくるような孤児が
多いのだそうだ。

孤児たちの大半は貧しいままに貧しい大人に育ち、孤児院の一角には、もう孤
「児」じゃないが、住むところもないから、こそ泥やら、小さな小遣い稼ぎや
ら、売春やらで稼ぎながら、そこに居続ける青年部のような一団がいて、子ど
もたちのボス然としている。v
幼い頃に、裕福とまでいかなくともある程度普通に生活できる家庭に引き取ら
れない限り、ワーニャも仲間たちも、彼らに待ち受ける将来は、ボス然とする
彼らと重なる。

だから、ママを探したくなってしまったワーニャを、皆は必死に説得するわけ
だ。養子縁組の斡旋業者や孤児院の院長は、手数料が入ることをアテにしてい
るから、自分の懐の都合もあるわけだが、それにしても誰が見たって、ママを
探すより、イタリア人夫婦に選ばれた幸運に身を任せる方がいい。

かくして、ワーニャは、ママを探しに行こうと一人奮闘する。探しに行くアテ
を見つけるために、まず、自分の書類を盗み見ないといけない。そしてそのた
めには、まず、字を覚えなくちゃならない。

字を覚えるのも、書類を見るのも、そして孤児院を抜け出すのはもちろん、す
べてこっそり隠れながら。
少しややこしい社会背景はあるけれど、この映画の肝は基本的に、見つからな
いように、追っ手につかまらないように、ママ探しをするワーニャの冒険を、
ハラハラしながら見守ることにある。

はじめての列車に乗り、斡旋業者は目の色変えて追いかけてきて、見知らぬ土
地でからまれ、でも驚異の勇気でワーニャは行く。見つかっちゃうぞ、とドキ
ドキ。うまく切り抜けたことに心のなかで拍手。夏休みの男の子の冒険物語に
もなぞらえることができるだろう。

ワーニャの逃避行に声援を送りながら、うまく追っ手を巻いたことにほっとし
ながら、私はどこかひっかかる。こうしてワーニャの旅を応援しているけれど
さ、この子のそばにいたら、優しいイタリア人の家に行った方がいいって、きっ
と言うよね。いい家庭に引き取られるのが幸せだって、言うよなあ。ママ探し
なんて、勧められないよね。

欺瞞に満ちた応援をしてしまっているんじゃないかとチクチク悩む私を前に、
物語は終盤へと向かう。
悩むと同時に、どう「落とす」んだろうとも少し心配だったが、そう来たか。
すっきりしたような、ずっとチクチクとしていた悩みに、終わってもまだつい
て来られるような、一種、挑戦的なラストだった。

■COLUMN
ひとつ、どうしてもわからなかったのが、養子をとる事情だ。
「マダム」と呼ばれる斡旋業者は、ホテルで贅沢にルームサービスを頼み、部
下をあごでこき使い、人身売買でうまいこと儲けている俗物として描かれてい
る。とにかく、子どもが欲しいと思う人に、孤児院から子どもを引き渡すのが、
儲かるらしいんだ。

養子を迎えるのは、そんなにお金がかかるものなのか。何もこの強欲そうなオ
バサンに大金を払わないでも、公的機関に申請する方が、いいんじゃないだろ
うか……、うーん、それだと順番待ちで待ってられないのかな。それとも寄付
の精神とか。マドンナみたいに。
大金を払って子どもを「選ぶ」のなら、普通、赤ん坊のうちに引き取りたいと
思うものなんじゃないだろうか、なんてことも思う。

孤児院の子どもたちの間では、子どもを引き取る人には悪い人もいて、引き取っ
た子どもの臓器を売るんだ、なんて噂も生まれている。
外国からやってきて、子ども一人に大金を払って、となれば、そんな噂になる
のもわかる気がする。

おそらく、裕福な外国人が社会奉仕として、養子縁組をすると同時に子どもが
いた孤児院をサポートする。「マダム」みたいなブローカーが、そういう精神
につけこんで儲ける、てことだろう、と思っているのだけれど、どんなもんだ
ろう。

もちろん私が知らないだけで、いくらでも例はあるのだろうけれど、ヨーロッ
パに比べると、日本では養子をとって育てることが少ない。特に、外国の孤児
を引き取ることも多くはない。だから、状況をぱっと見て、背景の事情を理解
できないんだろうなー、と少しばかりモヤモヤした。

■INFORMATION
★DVD
この道は母へとつづく
価格:¥ 4,935(定価:¥ 4,935)
http://www.amazon.co.jp/dp/B0019546LY/ref=nosim/?tag=oushueiga-22

★次号予告
なんてこともしたことがないので、たまには。
冬に劇場で観た『君の涙ドナウに流れ ハンガリー1956』という作品が、
・オリンピック
・ロシア(当時ソ連)との争い
など、昨今の世相に妙にマッチした作品でした。
もうDVDが出ているようなので、観直してこちらを取り上げようと思います。
レンタル中でないといいなあ。



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編集・発行:あんどうちよ

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