一覧へ ←前へ →次へ 登録フォーム HOME


================================================

欧 州 映 画 紀 行
                 No.188   08.10.10配信
================================================

「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★ のんびりする技術? ★

作品はこちら
--------------------------------------------------------------------------------
タイトル:『ここに幸あり』
製作:フランス・イタリア・ロシア/2006年
原題:Jardins en automne 英語題:Gardens in Autumn

監督・脚本・出演:オタール・イオセリアーニ(Otar Iosseliani)
出演:セヴラン・ブランシェ、ミシェル・ピッコリ
---------------------------------------------------------------------------------

■STORY&COMMENT
大臣のヴァンサンは、ある発言がきっかけで大規模デモが起こり、突然罷免さ
れてしまった。大臣から転がり落ちると、愛人も妻も冷たく、家まで追い出さ
れてしまう。
ヴァンサンは、母(妙にハマってミシェル・ピコリが演ずる!)や古い友人の
もとを訪ね、飲んだり歌ったり、お金や権力とは無縁でも、のんびり楽しい生
活に。

深刻な物語を観る気分じゃなく、難しいことも考えたくなかったので、脳天気
に庭がきれいそうな作品を選んだ。
なかには、イオセリアーニ作品で実に難しいことをあれこれ考える人もいるだ
ろうとは思うが、私にとっては、抑えた優しいギャグマンガのようなイメージ
だ。

動物がしゃべったり、ほうきが飛んだり、そんなことに匹敵するほどに、あり
得ない空想の世界で起きる、のんびりとした物語。ただしこの世界では、物理
的に不思議なことは起きない。

考えてもみてよ。普通は、転落人生で落ち込んでいたら、昔の友達なんて、い
ちばん会いたくない人のハズ。でも、そんなことは気にせずヴァンサンは、す
るりと何の抵抗もなく、旧交を温める。
古い友人というのも、路上に絵を描くアーティスト(監督が演ずる)や、酒好
きの司祭やら、変な人が続々と登場する。妻にも愛人にも愛想を尽かされたと
落ち込んでいたけれど、不思議と言い寄ってくる女友達がいて、振り回されな
がらも楽しい恋愛がヴァンサンを囲む。

前作の『月曜日に乾杯!』ほどに奇人変人は出てこないけれど、ケンカがあっ
ても深刻な事態には陥らない、家がなくても何とかなる、飲んで歌えば笑顔が
弾ける……じゅうぶんに絶対にあり得ないフィクション世界だ。
そのなかで、微妙に抑えたギャグやユーモアシーンがドーンと出たり、隠すよ
うに画面の隅に置かれていたり。

細かい笑いには、気づいたって気づかなくたっていい。笑っても笑わなくても
いい。観た後、どこかのシーンを強烈に思い出して画面を頭に巡らせても、すっ
かり全部忘れても、どっちでもいい。

歌って、食べて、笑って、それができてれば、細かいことはどちらでもいいん
だな。
何かから解放されて、自由をつかんだ気になれる。大らかな優しいギャグマン
ガ的映画は、空は高く、草木が風にそよいで、気持ちよさそうだった。

たぶん、退屈でしかたないって人もいるでしょうから、観客は選ぶ。と思う。
忠告はしましたよ。

■COLUMN
私は、のんびりした威圧感のない人、と人から思われるらしい。私の勘違いか
もしれないけれど、たぶん、いい意味でそう思ってくれる人は多いと思う。
だけど、私は実は、のんびりしているんじゃなくて、のろのろしているのだ。
だから、のんびり優雅に構えているように見えるのはうれしいけれど、本当は、
「人から遅れちゃならん」「急がなくっちゃ」「ぐずぐずしてちゃだめっ」と、
水中で足をばたつかせる水鳥のごとく、心中はしっちゃかめっちゃか、常に焦っ
ている。

なんてこと、前に書いたっけ。どうだろう。

のんびりしたいな、という思いはいつもある。
しかし、のんびりしてたらイカンだろと、いつも叱咤もしている。
だから、私は「のんびりする」ことが極めて下手だ。
で、そのことは、ちょっとだけコンプレックスである。

気持ちの良い青空に、絵を描き歌い、杯を交わし、のんびり人生を謳歌する人
たちを観ていると、楽しさがこちらにまでうつってくる、反面、「ああ私には
こんなことは天地がひっくり返っても無理。宝くじで高額当選しても、きっと
無理」と、我が身を振り返って情けなくなったりもする。

我が身を振り返る気持ちがマイナスにふれれば、なんだか妬ましい気持ちにさ
えなって、あ、いかんぞ、器が小さいっと反省する。

お気楽で難しいことを考えなさそうだから選んだつもりだったのに。結局ごちゃ
ごちゃと、難しく考える。
これは映画のせいじゃない。紛れもなく己の責任。
ちょこまかした小市民的性格は困ったね。でも、きっとこういうケチなところ
に共感してくれる人がきっといるさ、と甘えて考えてもみる、そこがいちばん
器が小さいかな。

■INFORMATION
★DVD
ここに幸あり
価格:¥ 3,296(定価:¥ 3,990)
http://www.amazon.co.jp/dp/B001BKVW2I/ref=nosim/?tag=oushueiga-22

★今日のメルマガ、気に入ったらクリックをお願いします。
http://clap.mag2.com/caemaeboup?188

★コメントをくれた方へお返事
えぬ・えむ 様
作品セレクトの参考にしていただけたなら何よりです。
これからもどうぞよろしくお願いします。

---------------

感想・問い合わせはお気軽に。

編集・発行:あんどうちよ

リンクは自由ですが、転載には許可が必要です。
一部分を引用する場合には、連絡の必要はありませんが、
引用元を明記してください。

Copyright(C)2004-2008 Chiyo ANDO

---------------

一覧へ ←前へ →次へ 登録フォーム

HOME