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欧 州 映 画 紀 行
                 No.189   08.10.16配信
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★ 希望を持つには、ちょっと軽い方がいい ★

作品はこちら
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タイトル:『スプレンドール』
製作:イタリア・フランス/1989年
原題:Splendor 英語題:おそらく原題に同じ

監督:エットレ・スコーラ(Ettore Scola)
出演:マルチェロ・マストロヤンニ、マッシモ・トロイージ、
   マリナ・ヴラディ
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■STORY&COMMENT
イタリアの小さな町の映画館「スプレンドール座」。かつて毎夜の大賑わいを
見せたこの映画館も、テレビやビデオの影響で客足が遠のき、閉館することに
なった。
父から映画館を引き継いだ館主のジョルダン、レビューダンサーだったがジョ
ルダンと恋をして客席係として働いたシャンタル、シャンタルに惹かれて通う
うち、映画にのめり込み映写技師となったルイジ。「スプレンドール座」の3
人が、改装工事の進むロビーで、数々の思い出をめぐらす。

フリッツ・ラングの『メトロポリス』、ベルイマンの『野いちご』、エルマン
ノ・オルミの『木靴の樹』、このメルマガで取り上げたことのあるものだと、
トリュフォーの『映画に愛をこめて アメリカの夜』、タチの『プレイタイム』
など、名画が次々と現れる。
映画と、それを上映する劇場が街の人々を結びつける核であった頃を懐かしみ、
惜しむ気持ちがじんわりと広がる。

だからといって、シネフィルのオタクごころをくすぐるマニア映画とは違う。
物語の中心は、スプレンドール座に関わる3人の愛や人生を語ること。その情
景の片隅には、その頃上映した思い出の作品がある、という形だ。

この「3人の思い出」の語り方が粋。時代順に並ぶでなく、ある1人をまとめ
て描くでなく、断片的な思い出を、時を行きつ戻りつしながら差し込んでいく。
だから、結局その後どうなったのか、今のこの状態はどんな経緯から連なるの
か、恋の顛末は結局どんなか、わからないところや、ぼーんやりとしたところ
もある。もちろん、複数のシーンから結びつけて推測できる事情もある。

そのかっちりしないところが、「昔をとりとめもなくいろいろ思い出す」こと
へのリアリティを生んでいて、そして、経営に行き詰まって閉館を余儀なくさ
れたけれど、また何とかしていけるよね、という希望のつまった「軽さ」も作
りだしている。
各々がかっちり人生を振り返っていたら、重すぎて前に進めないもの。

希望のつまった「軽さ」はラストに集約される。これを楽しむためには、ジョ
ルダンが復員してきたその足でフランク・キャプラの『素晴らしき哉、人生!』
を観るシーンを注意深く観ておくことをおすすめする。『素晴らしき哉、人生!』
を知っている人には、蛇足の注意となってしまうけれど。

■COLUMN
『映画館と観客の文化史』という本を読んでいたら、映画110年の歴史を見る
と、今考える「映画館で映画を観る」という形が、全然普遍のものじゃなく、
映画を観る形がとても多様であることがわかって面白かった。

今現在の映画館のシステムに絞って考えても、「途中からでもふらっと入れる
のが映画だ」と思う人もいるだろうし、「定員入れ替え制が常識でしょ」の人
もいるし、「いまどき座席は指定じゃなきゃやってらんない」という意見もあ
るだろう。世代・住んでいる地域によっては、シネコンのようにショッピング
施設などを併設していないと「映画を観に来たっぽくない」かもしれない。
映画のあり方とか観る環境って、時代により人により、いろいろなんだろう。

この作品を観ていると、野外にスクリーンを張って人々がわらわらと集まって
くる時代あり、観客が列をなして押し寄せていた頃、劇場がナンパ場だったと
きあり(これはお国柄かも?)、時代時代の映画館の表情を楽しめる。

ところで、このスプレンドール座、二階席に続く階段がエレガント、開閉式の
天窓がついていて、上映前には自然光が入り込む、屋根を閉めれば装飾が美し
い。
もう少しがんばって、「映画館」や「劇場」として残すことができたんじゃな
いかなあ、と観ていて惜しい気持ちになってしまった。
イタリアの往事の映画館は、どこもこんな豪華で美しい造りだったのか、その
あたりはよくわからないけれど、近所の映画館がこんな建物だったらワクワク
するだろうなあ。
ま、もちろん、この作品が「衰退した映画館」からはじまっていて、その滅び
にこそ物語としての美しさがあるんだから、それを言ったら、そもそもこの作
品が成立しないんだけれど、ね。
建物鑑賞も魅力の一つですよ。


※参考資料
『映画館と観客の文化史』加藤幹郎 (中公新書) ¥ 903(税込)
http://www.amazon.co.jp/dp/4121018540/ref=nosim/?tag=oushueiga-22

■INFORMATION
★DVD
スプレンドール (トールケース)
価格:¥ 1,999(定価:¥ 3,990)
http://www.amazon.co.jp/dp/B0001VQVTW/ref=nosim/?tag=oushueiga-22

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★コメントをくれた方へお返事
じゅんこ 様
共感してくださって、うれしいです。
邦題のことは、いろいろ配給する人の都合もあると思うので、あんまりケチつ
けるようなことはしないように心がけていますが、なんだよー、と思うことも
多々ありますね。日本語だけ極端に原題から離れていること、なんで、そうな
るんだろう、て考え出すと、1本メルマガ書けちゃいそうです。


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編集・発行:あんどうちよ

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