一覧へ ←前へ →次へ 登録フォーム HOME


================================================

欧 州 映 画 紀 行
                 No.190   08.10.24配信
================================================

「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★ あやしさにひきつけられて ★

作品はこちら
--------------------------------------------------------------------------------
タイトル:『レンブラントの夜警』
製作:カナダ・ポーランド・オランダ・イギリス・フランス・ドイツ/2007年
原題:Nightwatching

監督:ピーター・グリーナウェイ(Peter Greenaway)
出演:マーティン・フリーマン、エミリー・ホームズ、マイケル・テイゲン、
   エヴァ・バーシッスル、ジョディ・メイ、トビー・ジョーンズ、
---------------------------------------------------------------------------------

■STORY&COMMENT
1641年オランダ。画家レンブラントは、一流肖像画家としてその名はヨーロッ
パ中に響き渡り、弟子を何人も抱えた大きな工房で順風満帆の日々を送ってい
た。マネージャーとして能力を発揮した妻は男児を出産。公私ともに、さらに
幸せな人生が続くと思われた。
彼は時に、注文主の意向に沿わず、モデルの内面や外に隠した裏の顔を絵に表
すことがあった。アムステルダム市警団からの集団肖像画の注文にも、同じよ
うに臨むが、それは陰謀と凋落への入り口だった……。

「絵画のように」と言えば、美しいとか格調高いとか、そんなことの比喩に使
う。しかしこの映画を「絵画のように」と書き出して形容する場合、「あやし
い」。(余談だけれど最近、常用漢字で「怪しい」と「妖しい」の書き分けが
できるようになったらしい。ここではその両方を含んだひらがなの「あやしい」
である。)
広い空間にベッドやテーブルなどがあってそれを真正面から捉える構図が多用
されて、はじめは演劇の中継のように感じた。だけれどこれは絵画の映画だか
ら、これは絵画の構図をくどいくらいにまねしているのだ。
へー、演劇が絵画的だと感じたことはなかったな
なんて思いながら観ていたら、終盤、演劇=絵画が、けっこうこの映画のテー
マみたいな形でつながって、ちょっと驚いた。

ああ、そうそう、「あやしい」話だ。
ここに見えるあやしさというのは、例えば「背景」と思えるところにちらちら
と描き込まれる(映し込まれる)何かの多さであったり、独特の光の足らなさ
であったり、逆に独特の光の入り込み方であったり。「1枚の」フレームの中
に、ここは、ここはといくつもの意味ありげなものを発見する。
「夜警」に隠されたメッセージなんてイントロダクションも含めて、何か異様
なるものを秘めているんじゃないかと、画はあやしい。

カメラがずーと移動をしていったと思ったら、きゅっと画面が落ち着いて固定
されると、まるで画家がここでこうと、構図を決めたかのように見える。作り
手は「映画」なんて撮ってないんじゃないだろうか、という気さえする。(案
外、外れてないかもしれない)

「夜警」に秘められたミステリーというのは確かに興味深く、長くてだれそう
な流れにアクセントを与えて、観やすく引きつける要素ではある。が、謎解き
そのものを本筋だと思って観ると、きっと失望する。

それでもやっぱり、「夜警」の絵が手近に置いて、レンブラントが込めたメッ
セージは何? と思いながら観たらより楽しい。
簡潔な解説もついて大きく拡大できる画像つき。今すぐ夜警を参照したいなら
ここのサイトはおすすめ。
http://www.salvastyle.com/menu_baroque/rembrandt_night.html

■COLUMN
決して違和感ではなく、面白いと感じたのは、全体のあやしさや、レンブラン
トの夜警というテーマの大きさなどから比べたときの、レンブラントというキャ
ラクターの普通さだ。

少し記憶があやふやだけれど、レンブラントが冒頭に襲われる「悪夢」はグリー
ナウェイ監督の『英国式庭園殺人事件』のラストシーンと同じだと思う。だか
ら、関連づけて考えてみてもいいってことだと思うけれど、『英国式……』に
登場する画家と比べても、レンブラントにはずいぶんアクが抜けている。

レンブラントを演じたマーティン・フリーマンは、三谷幸喜の二人芝居「笑の
大学」のイギリス版「Last laugh」で劇作家役だった人。日本公演でこの芝居
を観た私は、「舞台で観た人だ〜」と、観る前から勝手に親近感を持っていた
から、そのせいかもしれないとも思う。(ミュージカルならともかく、映画で
主演するような外国人俳優をストレートプレイで生で観ることって少ないから)

思い過ごしではないと思う。「夜警」で市警団の秘密を暴くというのも、いろ
いろ知ったらめちゃめちゃだから、肖像画でそれっぽく描こうというだけで、
何か特別な正義感や無鉄砲さがあったのとは違う。気は強くて、プライドも高
そうなところは「高名な画家」だけれど。

特に、女性との関係においては、わざわざ「普通の男なるもの」を用意したか
と思うほど、普通だ。「普通だ」が、悪く聞こえるようだったら「普遍的だ」。
打算的に画商の姪と結婚したけれど、産後に妻を亡くしてしまうと、いかに自
分が彼女を必要とし愛していたか気づく。底なしの悲しみに突き落とされ、乳
母と「身体の関係」に溺れ、やがて昔から知る20も年下の女性に永き愛を見出
し、夜警以降の凋落から愛による再生へ……。

こう考えていたら、絵画、絵画、絵、絵、絵、と、映像やら構図やらばかり気
にして観ていたけれど、この作品はホントは「愛」をかなり太く描いていたん
じゃないかと思い始めた。それも、一人の特別な天才画家の愛ではなく、普遍
的に、愛とはなんぞやとか、肉の愛とはなんだ、くらいに根本的に。
その方面に心を向けて観ていなかったから、わからない。
「愛」に焦点をあててもう一度観たら、印象がずいぶん違うかもしれない。け
ど、これをもう一度通しで観る気力・体力は、残ってないや。またの機会に。

■INFORMATION
★DVD
レンブラントの夜警
価格:¥ 3,416(定価:¥ 3,990)
http://www.amazon.co.jp/dp/B0019R0XQ4/ref=nosim/?tag=oushueiga-22

★今日のメルマガ、気に入ったらクリックをお願いします。
http://clap.mag2.com/caemaeboup?S190

★コメントをくれた方へお返事
mami 様
ご近所さんですね! 今日も昨日も、どこかですれ違ったり、してるかもしれ
ません。
私がつらつらと書くもので、世界が広がったとは、とってもとってもうれしい
お言葉です。その分、ああ、変なことに巻き込んでしまったらどーしよーっと
責任も感じるのでありますが。
これからもどうぞよろしくお願いしますね。


---------------

感想・問い合わせはお気軽に。

編集・発行:あんどうちよ

リンクは自由ですが、転載には許可が必要です。
一部分を引用する場合には、連絡の必要はありませんが、
引用元を明記してください。

Copyright(C)2004-2008 Chiyo ANDO

---------------

一覧へ ←前へ →次へ 登録フォーム

HOME