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欧 州 映 画 紀 行
                 No.193   08.11.20配信
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★ あの日に憧れた、勇気と元気と歓喜の少年時代 ★

作品はこちら
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タイトル:『ミルコのひかり』
製作:イタリア/2005年
原題:Rosso come il cielo 英語題:Red Like the Sky

監督・共同脚本:クリスティアーノ・ボルトーネ(Cristiano Bortone)
出演:ルカ・カプリオッティ、シモーネ・グッリー、
   フランチェスカ・マトゥランツァ、パオロ・サッサネッリ
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■STORY&COMMENT
1971年、トスカーナ地方。元気な10歳の少年ミルコは、事故で視力を失ってし
まう。当時のイタリアの法律では盲人は普通小学校に通うことができなかった。
規律厳しい全寮制の学校に入れられ、ミルコは心を閉ざしてしまう。
ある日、古いテープレコーダーを学校で見つけたミルコは、さまざまな音を採
取・録音し、編集して音で構成する物語を作って楽しみ始めた。
しかし、規律を重んじる校長には、この趣味は理解されず……
イタリア映画界の第一線で活躍する音響技師をモデルにした、実話にもとづく
物語。

視力を失った少年が、音の世界に興味を抱き、しかもゆくゆくはその第一人者
になる話なんだから、「努力・苦労・感動」の清く正しき物語かと想像してい
た。けれど、実際は、無理解な大人の圧力にめげずに、好きなことをして、い
たずらもして、寮を抜け出し仲間と散歩、小さな恋も芽生える、少年の冒険譚
と説明する方が、喚起するイメージは近い。
それはそれでむろん「清く正しい」のだけれど。

私自身の子ども時代は、活発でもなかったし、小心者だからそうそういたずら
もできず、大人に隠れて子どもの世界を築いたりすることは少なかった。読書
好きなインドア派少女は、図書館で借りた子ども同士の冒険物語(ここで言う
「冒険」はいかだに乗るとか、怪物を退治しにいくとかじゃなくて、子どもだ
けの世界で、ちょっとした悪いことやワクワクで遊ぶということです、もちろ
ん)を読んでは、「いいなあ、どうしたらそんなことができるんだろ」とちょっ
ぴり憧れながらコタツで丸まっていた。

そういうかわいい憧れを追体験するような映画だった。
心を閉ざして学校にも慣れず、ガキ大将にいじめられてたミルコが、自分の編
み出した音集め遊びで、皆を仲間に引き入れてしまう痛快、親から叱られるこ
となんか怖がらず仲間との遊びを大切にするヒロイン、規律厳しいなかに、ちょっ
とイレギュラーに理解を示す個性的な先生。
ディープにしんしんと迫る感動よりも、かつて体験したような、憧れたような、
さわやかさが印象に残る。

「盲人に可能性はない、規律だけが彼らを救う」と、生徒から自由を奪う校長
は、もちろん悪役として描かれているのだけれど、彼を激しい糾弾で徹底的に
追い詰めてしまわない辺りも、気持ちの良いさわやかさの由縁だ。親子で鑑賞
もよいと思う。あと、DVDは、音声ガイドや、大きな文字の字幕を選択できるよ
うになっているから、視覚障がいをお持ちの方にもおすすめ。

■COLUMN
上では触れられなかったけれど、ミルコが採取する音と、その編集でできあが
る「音のドラマ」は、もちろんこの映画の肝だ。

作品中にはたとえば、バラバラに採取した「シャワーの音」(含しずくの音)
と、鳥の鳴き声を続けて編集すれば、驟雨と雨上がりの晴れ間、という物語が
できる、なんてところがある。もちろん、そう聞こえるように10歳のミルコが
「製作」しているわけだけれど、その本当はバラバラである音のつながりに、
「天候の変化」というイミを感じとるためには、「想像力」を共有していない
といけない。
映画の登場人物も、映画を観ている観客も、皆、同じ想像で、一連の音からそ
のイミを感じとれる。何気ないけれど、これってすごいことだと思う。
この音をこうつなげれば、相手はきっとこれを思い浮かべてくれるはずだ、と
信じてミルコは「音の物語」を作る。

相手の想像力を信じて託すことは、登場する「音の物語」だけでなくて、たと
えば映画ってものにも言える。ここでこの表情を映し出せば、観客はきっと、
やりきれない悲しさをわかってくれるだろう、雨の風景を映して、その後びしょ
濡れの人物を映せば、この人は雨に降られて濡れたんだろうと関連づけて考え
てくれるだろう、とか。
映画だけじゃなくて、小説も、演劇も、すべて作り手と受け手とが共有してい
る想像力を信じているから成り立つもの。ハンパない信頼関係の上に、作品を
作るってことは成り立ってるんだ。思案飛躍して、そんなことまでうろうろと
考えた。

■INFORMATION
★DVD
ミルコのひかり
価格:¥ 3,629(定価:¥ 3,990)
http://www.amazon.co.jp/dp/B00196P8UQ/ref=nosim/?tag=oushueiga-22

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★コメントをくれた方へお返事
レモン 様
ありがとうございます。楽しみにしてますって一言に、ホントに励まされるん
ですよ!

★またまた来週お休みするかも
なんだか最近、隔週刊のようになってますが、時間がうまくとれなかったら、
また来週お休みするかもしれません。どうか気長に待っていてください。


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編集・発行:あんどうちよ

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