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欧 州 映 画 紀 行
                 No.194   08.12.11配信
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バタバタしているうちに、すっかり時は過ぎ、
2週間休んでしまいました。すみません。

「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★ 果たして恨みが怖いだけの映画だったのか ★

作品はこちら
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タイトル:『譜めくりの女』
製作:フランス/2006年
原題:La tourneuse de pages 英語題:The Page Turner

監督:ドゥニ・デルクール(Denis Dercourt)
出演:カトリーヌ・フロ、デボラ・フランソワ、パスカル・グレゴリー、
   グザヴィエ・ドゥ・ギュボン、クロティルド・モレ
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■STORY&COMMENT
少女メラニーは、ピアニストになるのが夢だった。万全の準備で迎えたはずの
音楽学校の試験。演奏中、審査員ピアニスト・アリアーヌのちょっとした行動
に動揺したメラニーは、以降の演奏がめちゃめちゃになってしまう。
これをきっかけにピアノへの思いを断ち切ったメラニーは、アリアーヌへの憎
悪を胸に秘めて美しく成長し、ある日、アリアーヌに近づいていく。

何でこんな作品作ったんだろうか。観終わったらしばし考え込んでしまった。

何かの作品説明に「周到に練られた復讐計画でアリアーヌに近づいていく」な
んてことも書かれていた。でも、私には、メラニーの行動は計画的なものには
見えなくて、行き当たりばったりにその場の気分でじわじわと意地悪をしかけ
ているように思う。
もし、周到な復讐をコワゴワ観る映画だっていうなら、私も戸惑わない。人間
の怖さとか、もっと単純にスリルとか、そういうものを味わえばいい。
確かに、その姿からは想像できない冷酷で残忍な一面を持ったメラニーが、ア
リアーヌにじわじわと近づいていくスリルや怖さを存分に味わって、怖くて、
ちと後味のワルい映画を堪能できた。のは、確かにそう。
でも、そのことよりも私の頭の中には、何で? 何で? ひょっとしてこーゆー
こと? と、?がいっぱい。そちらの印象のが強い。

で、できあがりに不満ってわけじゃないけど、第一声は、何でこんな作品作っ
たんだろうか。

アリアーヌがメラニーに並々ならない恨みを持たれてしまうのは、実技試験で
演奏中に、アリアーヌが頼まれたサインに少し応じていた、という些細なこと。
他人から見ればりっぱな逆恨みなわけだ。
人間、他人が見てもわからなかくても自分にとって大事なものはあるわけで、
それを台無しにされれば、間違っていようが、理屈に合わなかろうが、不当だ
ろうが、相手を恨むこともある。だから逆恨みがおかしいとは思わないんだけ
れど、少女時代の逆恨みを、大人になってもずっと変わらず育ててるところが、
腑に落ちない。恨み続けるってのはパワーの要ることで、どこかで自分の思い
に折り合いをつける方が、本人にとってずっと楽なはずだ。

本当なら、音楽の道に進めなかった悲しみや、それを誰かのせいにする辛さは、
時とともに薄れていくもの。それを両親なり、友人なりが薄れさせてあげられ
なかったんだろうか、と真面目に考え込んだ。
恨み続けるメラニーがいないとこの映画が成り立たないわけではあるから、そ
れを言い出したらきりがない、という部類のものかもしれない。

そして、アリアーヌの傍らで譜面のページをめくる「譜めくり」になって絶大
な信頼を勝ち得たメラニーは、どこか、アリアーヌを恨みだけではない目で見
ている気もする。そしてそのように解釈してしまったアリアーヌには、さらな
る悲劇が起こる。

ひょっとしたら、メラニーにとって、アリアーヌは少女の頃からの憧れの存在
だったのかもしれない。ただ冷徹に恨んで憎んで復讐をしてるのでなくて、彼
女には本当はアリアーヌに焦がれる心が同居していたのかもしれない。
そんな解釈もしたくなる。けれど、ラストを考えれば、そんな解釈も深読みに
過ぎぬとも言える。いろいろなところが、あーじゃないかこーじゃないかと、
気になってしかたがない。

結局のところ、「テーマ」は何だったんだろう、から、メラニーのホントの思
いは? メラニーはどうやって育ったの? などなど、どなたかと一緒に観て、
乾燥や解釈を語り合うのも良い作品だと思う。

■COLUMN
上で、ああでもない、こうでもない、と言ってみたけれど、復讐するメラニー
の不気味さや怖さを中心に描いていることは間違いない。怖さをクローズアッ
プするために、描き方が大げさにもなっているとは思うのだけれど、この作品
を観ていたら、人間ってとにかく理不尽にできていると思った。

アリアーヌは、りっぱなコンサートピアニストなのだけれど、最近は精神不安
定で、舞台でアガるようになってしまった。(余談だが、不安定になったきっ
かけはひき逃げに遭ったことだそうで、それってのは、誰が起こしたもの?と、
観客に勘ぐらせるところでもある)

本当に不安定なせいなのか、もともとそんな性格だったのか、はわからないけ
れど、ピアニストとしてりっぱな地位を築いているとは思えないほどに、アリ
アーヌは誰かすがれる人を持ちたがっている。
すがるんなら、旧知の人とか、本当に援助してくれる人にすればいいのに、そ
して、その人たちも、頼めば力になってくれそうなのに、生活にふいに入り込
んできたメラニーにすっかり入れ込んで、必要以上に依存する。

恋愛に似たもので(実際、そんな要素も入ってくる)、新しい刺激の方に吸い
寄せられてしまうのだろう。バランスを崩して、自分の力を信じることはでき
ないくせに、ハタから見たら何のあてにもならなさそうな小娘を全身全霊で信
じる力はメキメキと出てくる。メラニーさえ隣で楽譜をめくってくれれば、す
べてがうまくいくかのように思ってしまう。
安定を求めているはずのアリアーヌが求めるのは、新しい刺激で自分が高揚す
ること。ずいぶん矛盾しているけれど、人の心ってさっぱり理屈に合わないも
んなんだろう。

古くからの信頼できるものよりも、つい新しい刺激に吸い寄せられること、ほ
んのちょっとの気分の違いで、結果が大きくかわること、理屈では説明できな
いような反応をすること、etc.
怖いのは、そんな危ういところで人と関わり、人生を成り立たせている人間自
身ってことなのか。そう考えたら、メラニーの怖さだって、そんな人の世だか
らよ。とさらりと説明がついてしまうかもしれない。怖いなあ。

■INFORMATION

★DVD
譜めくりの女 デラックス版 [DVD]
価格:¥ 3,416(定価:¥ 3,990)
http://www.amazon.co.jp/dp/B001EGJXY8/ref=nosim/?tag=oushueiga-22

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★コメントをくれた方へお返事
ポポンタ さま
盲人の方の、視覚以外の感覚や感性の豊かさって、驚かされますね。すてきな
エピソードの紹介、ありがとうございました〜!

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編集・発行:あんどうちよ

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