一覧へ ←前へ →次へ 登録フォーム HOME


================================================

欧 州 映 画 紀 行
                 No.200   09.02.05配信
================================================

「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★ 密室からセカイへはばたく想像力 ★

作品はこちら
--------------------------------------------------------------------------------
タイトル:『12人の怒れる男』
製作:ロシア/2007年
原題:12 

監督・共同脚本・出演:ニキータ・ミハルコフ(Nikita Mikhalkov)
出演:セルゲイ・マコヴェツキー、セルゲイ・ガルマッシュ、
   ヴァレンティン・ガフト、アレクセイ・ペトレンコ、
   ユーリ・ストヤノフ、セルゲイ・ガザロフ、ミハイル・イェフレモフ、
   アレクセイ・ゴルブノフ、セルゲイ・アルツィバシェフ、
   ヴィクトル・ヴェルズビツキー、ロマン・マディアノフ
---------------------------------------------------------------------------------

■STORY&COMMENT
名高いアメリカ映画『十二人の怒れる男』を、舞台を現代のロシアに移して
「リメイク」。
養父であるロシア人将校を殺害した疑いをかけられたチェチェン人の少年。終
身刑を求刑され、あとは12人の陪審員が評決を出すばかりだ。状況証拠から少
年の有罪は明らかだと考えられ、話し合いはすぐに終わると思われたが、1人
の陪審員が、「無罪」に投票し……

誰もが有罪だと思って、ちゃっちゃと有罪を決めてとっとと帰ろうと思ってい
るところに、「話し合おう」と面倒なことを言い出す奴がいる。仕方なく話し
合いを続行する陪審員たちは、やがて意外な真実を突き止めるに至る。
オリジナルを観たことがない人も、有名だから、うわさからでも話の筋は知っ
ているだろう。だから、ここではあえて、「筋」には注目しない。

オリジナルよりもずいぶん長い上映時間となったこのロシア版では、陪審員一
人ひとりが、折りに触れて、身の上話や思い出話をするところが印象に残る。

ふるまいの面倒な奴、どうもしゃべり方がいけすかない奴、いろいろなタイプ
の他人が集まるところ。なんだって、そんな他人に自分の話をしてしまうのか。
案外、互いに名乗らない他人だからこそ、自分や自分の身内のディープな話を
してしまうんだろうか。

陪審員たちの身の上話は、その一つひとつを短編小説として切り出すことがで
きるかのように、話として面白く、ドラマがある。かといって、その話ばかり
が印象に残って、映画全体を食ってしまうようなことはないのだけれど、いわ
ばそれらは「さりげない」濃厚さで心に届く。

陪審員たちの話を聞きながら、いまこの目の前にいる他人が背負ったものに、
想像力を働かせる。その身に起きたことを、想像力を働かせて思い浮かべてみ
る。
密室に閉じこめられた12人は、互いの話を聞きながら、その狭い部屋から、他
人の人生に、外で起きている(起きた)ことに、気持ちの上で深くコミットし
ていくようになる。

そうした彼らが話し合い、見知らぬチェチェン人のガキの人生にコミットした
とき、結末は、オリジナルと少し異なり、現代ならではのスパイスが加えられ
ている。
他者の人生に想像力を働かせ、セカイで起きていることを思うことは、悲しい
事実でいっぱいのこのセカイを、ほんのちょっとでも何とかできる一つの方法。
そう、勇気づけられる。

度々インサートされる、<チェチェンの実情>のエピソード映像は、観客が、
セカイへの想像力をたくましくするもう一要素である。「チェチェン」って、
よく聞くけど何が起こってるの? て疑問にも「少し」答えてくれる。

■COLUMN
陪審員モノといえば、言及しないわけにいかないのが、日本の裁判員制度だ。
法務省のホームページに行ったら、裁判員制度導入の目的について、こんなこ
とが書いてあった。

「国民のみなさんが裁判に参加することによって、国民のみなさんの視点、感
覚が、裁判の内容に反映されることになります。
その結果、裁判が身近になり、国民のみなさんの司法に対する理解と信頼が深
まることが期待されています。
そして、国民のみなさんが、自分を取り巻く社会について考えることにつなが
り、より良い社会への第一歩となることが期待されています。」

ということは、法務省は、現在の裁判は国民の視点が反映されていなくて、国
民の司法への信頼がなくて、そのせいで国民が取り巻く社会を考えられない、
と考えているってことになる。
けれど、法務省とか、司法に携わっている人がそんな(殊勝な)ことを考えて
いるとはさっぱり思えないんだなあ。

裁判を身近にしたいというなら、小学校の社会見学で裁判傍聴を必須にすると
か、実際的な方法が他にあると思う。誰かが裁判員に選ばれて、自分の知らな
いところで評議しても、その誰かにとって重大トピックになるだけで、選ばれ
なかった大多数にとって他人事であることは変わらないんじゃないだろうか。

だから、本当のところなんで日本で裁判員制度をはじめようとしているのか、
本音の部分でも建前の部分でも、わかったようなわからないような話で、ちょっ
と気味が悪いと思う。

この制度、うまくいくんだろうか。うまくいったかどうかは、どうやって測る
んだろうか。要観察ってところかなあ。

■SPECIAL
前号で予告した、200回記念特別大企画!
豪勢なことをしようかと考えましたが、
スポンサーがついているわけでもなく、
地味〜にこそこそとやってるメルマガですから。
映画チケットとかDVDのプレゼントなんかもできなくってですね。

結局何やるかといったら、ここはコンセプト通り地味〜に。

そういうこともやってみたことなかったので、
今まで取り上げた作品のなかでも、
ワタクシが特に特にお勧めする最強欧州映画20選!! てなことを、
やってみることにしました。

しかしながら。
これよかったな、これよかったな、てセレクトしてたら、軽く120作品は超え、
20作品に限るのはなかなか難しい作業でした。

20に絞るにあたっては、同じ監督の作品は2つ以上選ばないようにしてます。
作品は好きでも、今現在、レンタルも購入もちょっと難しくなっている場合、
泣く泣く除外した作品というのもあります。
また、迷ったときに、自分のレビューがどっちかと言えば気に入っている、と
いうのを選んでいる場合もあります。
フランス作品ばかりにならないように、ということも考えました。

ということをやるうち、一体、20に絞って発表することにどんな意味があるん
だい? という内なる声も度々聞こえてきたわけですが、せっかくの思いつき
ですからね。初志貫徹。
昔の自分のレビューを読み直して苦笑したりと、面白い経験もできました。
気が向いたら、リストの作品、めぐってみてください。

【『欧州映画紀行』選・これがお勧め欧州映画20本】

NO.3   『黒猫・白猫』 2004年5月27日発行

NO.5   『マドモワゼル 24時間の恋人』   2004年6月10日発行

NO.23  『ミツバチのささやき』 2004年10月14日発行

NO.33  『ディーバ 』 2004年12月23日発行

NO.34  『しあわせな孤独』  2005年1月13日発行

NO.45  『シーズンチケット 』 2005年4月7日発行

NO.46  『ふたりのベロニカ 』 2005年4月14日発行

NO.53  『スパニッシュ・アパートメント』 2005年6月16日発行

NO.60  『みんな誰かの愛しい人 』 2005年8月4日発行

NO.71  『ウェルカム・トゥ・サラエボ 』 2005年11月3日発行

NO.75  『キッチン・ストーリー』  2005年12月1日発行

NO.77  『ベルリン、僕らの革命 』 2006年1月12日発行

NO.82  『やさしくキスをして』 2006年3月2日発行

NO.112 『美しき運命の傷痕 』 2006年11月16日発行

NO.122 『親密すぎるうちあけ話 』 2007年2月22日発行

NO.128 『明日へのチケット』  2007年5月3日発行

NO.141 『善き人のためのソナタ 』 2007年8月23日発行

NO.142 『人生は、奇跡の詩』  2007年8月30日発行

NO.174 『僕のピアノコンチェルト』 2008年5月22日発行

NO.199 『木と市長と文化会館 または七つの偶然』 2009年1月18日発行


■INFORMATION
★DVD
12人の怒れる男 [DVD]
価格:¥ 3,324(定価:¥ 3,990)
http://www.amazon.co.jp/dp/B001ISEMP2/ref=nosim/?tag=oushueiga-22

★今回のメルマガ、気に入ったらクリックをお願いします。
http://clap.mag2.com/caemaeboup?S200

★配信予定
最近、あんまり時間がなくって、週1ペースの発行ができません。
ごめんなさい。
「目指せ週刊、無理なら隔週ね」くらいの気持ちでやってます。
よろしくお願いします。


---------------

お便り待ってます!

編集・発行:あんどうちよ

リンクは自由ですが、転載には許可が必要です。
一部分を引用する場合には、連絡の必要はありませんが、
引用元を明記してください。

Copyright(C)2004-2009 Chiyo ANDO

----------------


一覧へ ←前へ →次へ 登録フォーム

HOME