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欧 州 映 画 紀 行
                 No.227   10.02.11配信
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★ ふんだんに盛り込まれた対話劇 ★

作品はこちら
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タイトル:『それでも恋するバルセロナ』
製作:スペイン・アメリカ/2008年
原題:Vicky Cristina Barcelona

監督・脚本:ウディ・アレン(Woody Allen)
出演:ハビエル・バルデム、ペネロペ・クルス、スカーレット・ヨハンソン、
   レベッカ・ホール
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■STORY&COMMENT
このところヨーロッパでの活躍が続くウディ・アレンが、スペインで撮った作
品。
ヴィッキーとクリスティーナは親友同士。価値観も感覚もよく似ているけれど、
恋愛観は正反対だ。ヴィッキーは安定と堅実を求め一流ビジネスマンと婚約中。
クリスティーナは恋に刺激を求めている。
ヴィッキーが論文を書くためにバルセロナの親戚の家に滞することになり、ク
リスティーナもそれに同行してバカンスを楽しむことになった。
クリスティーナはさっそくプレイボーイの画家フアン・アントニオに恋をし、
彼のエキセントリックな元妻が戻ってきて大騒ぎの恋模様が……

おおかたの人の日常とはちょっとずれてる恋模様を、アハアハと笑いながら眺
めて、さらに、バルセロナの色彩豊かな観光スポットをそこかしこで見ながら、
「あー、面白かった」と言った直後にすっかり内容を忘れてしまえる、後味さっ
ぱりの楽しい作品だ。
これは褒めてる。余韻たっぷりにいつまでもああでもないこうでもないと考え
られる作品もいいけれど、観ているあいだはじゅうぶん楽しめて、終わっても
後を引かないのも、作品の持つりっぱな個性と能力だ。
ただし客観的にそう言えるかどうかは自信がない。「いや、そんなことはない。
終わってからもいろいろ考えて余韻がいっぱいだったよ」という人もいるかも
しれない。これは私個人の感じ方だ。

この作品が特徴的なのは、ストーリーの大半がナレーションで進められること
だ。
クリスティーナがフアン・アントニオに惚れ、それに反対していたヴィッキー
も誘惑されたらうっかり心を奪われて、元妻マリア・エレーナが入り込んで、
という顛末も、そのときどきのヴィッキーとクリスティーナの心情も、ナレー
ションで進む。
だからこの映画はつまらないという意見をネット上で多く見たけれど、私はこ
このところが面白いと思う。おそらくこの作品の肝は全体を通すストーリーで
はなく、いくつもの「対話劇」だ。

画家に誘われ ほいほい ついていこうとするクリスティーナをヴィッキーがた
しなめる。ヴィッキーの棘のある言葉を のらりくらり とかわすフアン・アン
トニオ。クリスティーナ、フアン・アントニオ、マリア・エレーナの三角関係
の緊張などなど。
ナレーションでストーリーは早々と進められ、観客がゆっくりと見せてもらえ
るのは、登場人物の対話シーンだ。話の展開に合わせて、対話はその都度違う
シチュエーションに設定される。つまり、この作品の中で繰り広げられる対話
劇は、緻密に状況を設定された短いシチュエーションコメディがいくつもある
ようなもの。
緊張に満ちているもの。みんながみんなそれぞれに滑稽な場合。対立具合が可
笑しいもの。人間の力関係の変化やら、状況によるズレやら、楽しむポイント
はきっとそれぞれだ。
短編対話劇を、いくつも欲張って観たような気になる。この映画ではぜひ「対
話」に注目を。

■COLUMN
堅実・安定を望みながら、肝心なところで安定に甘んじられなくなるヴィッキー、
他の人とはちょっと違う人生を歩みたくてずっと「自分探し」を続けるクリス
ティーナ、女がいないと調子が出ないフアン・アントニオ、夫を刺して別れて
おきながら、何かあると結局舞い戻ってくるエキセントリックなマリア・エレー
ナ。
ちょっとずつ大げさに描くキャラクター設定も魅力だ。

私自身が親近感を覚えるのはクリスティーナだ。
自分がわかるのは「それはいやだ」ということだけ。ああでもない、こうでも
ないと自分の世界や自分のあり方を探し続ける。人から提示されるものは、そ
れは自分の歩む道じゃないと反射的に思う。
芸術家につい惚れるのも、「芸術家」のようなセンス勝負で生きる存在に憧れ
るけれど自分ではそれができない埋め合わせのようにも見える。

私も「ちょっと違う」ことがどこかかっこいいなー、と思って、「安易」「あ
りがち」なものは全部「そんなの違うもーん」と避けて、じゃあお前は一体何
だと問われたら、答えるほどの中身がない、てところがある。そしてそれは、
あんまり認めたくない実情と隠れたコンプレックスでもある。

「そんなレールに乗っちまったら、つまんないところにしか到着しないじゃな
いか」と、避けて避けて選り好んだ末、選択と決定をできないでいるうちに、
レールどころかバス停すら見えないところで(心象風景として)細々といま暮
らしている私は、「クリスティーナ、「ちょっと違う」を続けるのも適当なと
こにしておいた方がいいよー」と思う。
けれど、きっとそれ以前に私に足りないのは、クリスティーナのような行動力
であって、あれだけアクティブに動ける彼女なら大丈夫かいな、てことも考え
る。

さて、この登場人物のなかに、皆さんのなりたい人はいますか。それともこう
いう輩だけとは関わりたくない、なんてのがいますか。


■INFORMATION
★おことわり
今回のCOLUMN欄を書くにあたっては、中島みゆきの楽曲「線路の外の風景」
(アルバム『転生』所収)から発想を得ているのではないかと思います。自分
でもよくわからないのですが、書いたものを眺めるとたぶんそうじゃないかと。
参考:http://music.goo.ne.jp/lyric/LYRUTND367/index.html

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