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欧 州 映 画 紀 行
                 No.229   10.05.14配信
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うわーお、2か月近くお休みしちゃったんですねえ。ごめんなさい。
しばらくはこんなぼちぼちなペース、6月半ばには従来のペースになるのではな
いかと、希望を込めて思っております。

「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★ 恋は滑稽で愛らしい ★

作品はこちら
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タイトル:『我が至上の愛 〜アストレとセラドン〜』
製作:フランス・イタリア・スペイン/2007年
原題:Les amours d'Astrée et de Céladon 
英語題:Romance of Astrea and Celadon

監督・脚色:エリック・ロメール(Eric Rohmer)
出演:アンディ・ジレ、ステファニー・クレイヤンクール、セシル・カッセル、
   セルジュ・レンコ
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■STORY&COMMENT
5世紀のフランス・ロワール地方。羊飼いのアストレは、恋人のセラドンが他の
女に心を移したと誤解し、セラドンに「もう自分の前に現れないで」と告げる。
絶望したセラドンは川に飛び込み、流されニンフ(精霊)たちに助けられる。
村ではセラドンは死んだと思われ、一方セラドンはニンフに惚れられ城から逃
れられず。純粋に思い合う恋人たちの行く末は……

久しぶりの配信なのに、コアな作品を選んでしまった。ごめんなさい。
エリック・ロメールという人は、このメルマガで何度か書いているように、私
が最も敬愛する映画作家で、彼はこの1月に亡くなった。追悼として彼の作品を
取り上げたいと今年に入ってずっと思っていて、追悼ならば、と、最新&遺作
となったこの作品を、今回選んだ。

「コア」と表現するのは2点の理由から。
1点は、たぶんレンタル店には置かれていない、ということ。ごめんね。
もう1点は、ストーリーが現代の感覚で観ると不自然ともいえる時代劇であるこ
と。ヨーロッパ映画やミニシアターが好きでよく観るよ、という人を「一般」
と定義してもなお、一般受けはしないだろうと思う。

でもでもしかし。好きな監督の最後の作品というひいき目ももちろん入っての
ことだが、それでもやっぱり私はこの作品が好きだ。
「どんなところが好きなんだい?」そんな質問に答えて語るのが、今回のメル
マガ、だと思っていただければ。好きなところはいろいろあるんだけれど、そ
れを全部語り出すと、ものすごい量になるので、1点に絞って。「恋の滑稽さと
愛らしさ」についてだ。

恋人が他の女に心を移したと思えば嘆くのは当然、怒るのもすねるのも当然。
しかし、そこから「もう自分の前に姿を現すな」と頑なに拒み続けるのも、そ
れを真に受けて、それならいっそ死んでしまおう、なんていうのは、本人たち
にしてみれば真剣でも、ハタから見れば滑稽だ。
さらに、セラドンは、命が助かった後も「自分の前に姿を現すな」という愛す
る人の命令に意地でも忠実であろうとする。
その頑固さは微笑ましくて声に出して笑ってしまうほどなのだけれど、もちろ
ん、それは我が身を振り返ればきっと、同じような滑稽なことを何度もやって
きただろう。だけども、結局その滑稽さが当事者にも傍観者にも愛おしいんだ。

おとぎ話に近いから、現代的な意味でのすれ違いにやきもきするってことはな
いんだけれど、その分、純粋に「恋」が見える。相手に忠誠を誓うこと。相手
を思うこと。ときには嫉妬すること。
現代人を描くと、仕事とか暮らしとか、恋以外のいろいろなものの情景を含め
なくてはリアリティがない。そしてそれがドラマとして面白くもする。しかし、
5世紀の羊飼いたちの物語ならば、自然のなかで羊を追い、歌い、楽器を奏で、
詩を吟じ、思う人を思い笑って涙を流す。感情だけをクローズアップした描き
方が可能になるのだ。そして、それ故の面白さも生まれる。

アストレとセラドンを取り巻く人々は、頑固で滑稽な恋人たちに、ちょっと手
こずりながらも、突き放さないで寄り添う。話を聞き、気持ちを受け止め、見
守る。説得する。恋にはそういう人とのつながりもあったっけ。そういう美し
さも思いしらせてくれる。周りの人たちも、愛とは何ぞやを昼間から語り、歌
い、奏で、日々を暮らしている(ように見える)。

そしてもうひとつ。ちょっと話は横に逸れるが、『クレールの膝』という作品
でロメールは、「膝をなでる」という行為がそんなにもエロティックにどきど
きさせるのだということを教えてくれた。今作品では、「性別がはっきりしな
い者同士の愛撫」がこんなにもエロティックさを増すことを教えてくれた。
「ネタバレ」になるので全ては説明できないけれど、ラストの長い長い愛撫は、
男女じゃないかも!というスパイスがあるから余分にエロティックだ。

明るい自然の風景のなかにある純粋な意味で愛らしい恋をご堪能あれ!

■COLUMN
17世紀に書かれた、5世紀のロワール地方を舞台にした小説の映画化。これがこ
の作品のプロフィールだ。
ロワール地方の自然をそのまま映し出したかったが、現代の現地は自然が失わ
れてしまっていたため、3年かけてロケ地を探し、オーベルニュ地方でロケを行っ
たそうだ。

アフレコを嫌う監督は、この自然の風景のなか、自然の音が鳴るなかで、その
まま俳優たちに演技をさせ、セリフを録音した。
登場人物たちの会話の背景に、鳥の声、衣服をバタバタさせる風の音、そんな
「自然」の音がふんだんに耳に届き、その場に自分がいるような「自然」さを
感じられる。私は特に風の音が聞こえるところが好きだ。

また、ロメールによると、原作小説には、この5世紀の時代への誤解、別の時代
との混同などが見られるという。
映画化するにあたり、現代解明されている5世紀の風俗を入れるのではなく、
17世紀当時に、5世紀頃の風俗と想像していたものを採用したそうだ。衣装等は、
17世紀の版画などに登場する5世紀の風俗を参考にしているという。

その衣装だが、男性のものはともかくとして、女性たちが着ている、中間色の
布を組み合わせた色遣い、身体をしめつけず、ゆったりと着こなすスタイル、
今、街で着てても「かわいい〜」と言われそうな雰囲気だ。「森ガール」が着
ててもおかしくないと思う(あんまり知らないんだけど)。

「森ガール」とは違うけれど、私は、ラクであんまり身体の線を出さないぞろ
ぞろ長い服が好きなので、ああいう服着たいなあと、本気で思う。自然がいっ
ぱいのところでなくてもいい。この季節、あんな服を着て風にバタバタと吹か
れてみたら、気持ちがいいだろうなあ。

★★★
ロメール作品、追悼の年として、今年中にもう1本取り上げられたら、と考えて
います。読者の皆様のなかで、これが好きだから取り上げて、もしくはこれを
観たことがないから気になっている、というようなものがあったら、教えてく
ださい。
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★DVD
『アストレとセラドン 我が至上の愛』 アマゾンで購入
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★次回配信予定
今月中には必ず配信します。
エミール・クストリッツァ監督の『ウェディングベルを鳴らせ』を予定。この
くらいの予告をしないと、また出さなくなってしまうかも。
私は公開時に映画館で観て以来ですが、パワーたっぷりのバカ騒ぎの狂乱を、
もう一度観て書くのを楽しみにしています。

★twitterやってます。
日常のまぬけな話、意味のない独り言ばかりですが、
けっこう毎日つぶやいていますので、お気軽にフォローください。
映画の話を期待している方は失望してすぐにいなくなってしまうようなのです
が。(スミマセン!!)
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