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*** 欧 州 映 画 紀 行 ***
                 No.003
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★心にためる今週のマイレージ★

++ 常識から遠く離れて ++

作品はこちら
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タイトル:「黒猫・白猫」
制作国:フランス・ドイツ・ユーゴスラビア/1998年
原題:この絵→Black Cat, White Cat   英語題:Black Cat, White Cat
監督:エミール・クストリッツァ
出演:“ドクトル・コーリャ”バイラム・セヴェルジャン、
スルジャン・トドロヴィッチ、ブランカ・カティチ、
フロリアン・アイディーニ、サブリー・スレイマーニ、
ザビット・メフメドフスキー
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■STORY
ドナウ川のほとりで暮らすジプシー(最近は“ロマ”と呼ぶことが多いような
ので、以下ロマ)一族を描いたコメディー。

マトゥコは賭が大好きで、いつも人を出し抜いているつもりだが、たいてい逆
に出し抜かれているダメなヤツだ。いつものように賭に負けて、偽の石油をつ
かまされて大損した彼は一念発起。石油運搬列車を強奪する作戦を計画するも、
いかんせん、資金がない。新興ヤクザのダダンに金を借り、あわよくば独り占
めしてやる、と張り切る。しかしやっぱりダダンに出し抜かれ、息子のザーレ
は身売りするようにダダンの末妹アフロディタと結婚させられてしまう。彼女
は背が小さく、テントウムシとあだ名され、結婚相手が全く見つからないのだっ
た。

ここで慌てたのはザーレ本人、ザーレを愛するイダ。そしてアフロディダだっ
て、愛する人と結婚したいのだ。なんとか結婚を阻止したい3人。しかしダダ
ンに逆らえる人間はいない。マトゥコは相変わらず自分と金のことしか考えて
いない。はちきれんばかりの“ロマ”音楽とダンスの中、愛と金の行方は?

■COMMENT
この監督の作品を見たことのある人はご存知だろうが、中欧のロマ音楽をベー
スとしたエネルギッシュな音楽が全編に満ちている。楽隊は走り回ったり、木
にぶら下がったり、しっかり出演者の一部である。とにかくパワフルに音楽は
鳴り続け、それでもただやかましいだけにならないのは、ロマ特有の哀愁ただ
ようメロディラインのおかげだろうか。

物語も、熱狂と喧噪にあふれる。マトゥコはどこまでもめちゃくちゃで、いや
でも決して悪いヤツではない。困るとすぐにウソをついて、だいたいもっとう
わ手のウソをつかれてだまされる。よく見るとマトゥコだけでなくて全員めちゃ
くちゃだ。いやでも、誰もが憎めない。ちょっとばかし奔放なだけ。

この人たち一体誰? なんて常識にとらわれないで、できればぽけらーんと口を
開いてロマの世界に入ってみよう。開けた口からは日頃のもやもやを吹き飛ば
す笑い声が、次々飛び出すはず。この世界では、人々は皆、歌って踊り、ヤギ
やガチョウが乱れ飛び、天井は抜け、祝砲にピストルが鳴らされ、豚は自動車
を食う。

思いっきりはじけた世界から戻ってきた観客はきっと元気をもらっている。恋
にあこがれる乙女も、恋愛を哲学したい諸兄も、イダとザーレの愛にはノック
アウト、間違いなし。

黒と白の二匹の猫が、この狂騒を、静かにながめている。

■COLUMN
この映画の影響で、ロマが<マイ・ブーム>であった頃、マンションのセール
スの電話に「私はジプシーの生き方を敬愛しています。定住はしないんです。
将来的には海外で街から街へと放浪していきます」と答えたことがある。セー
ルスマン氏は「か、海外ですかー」と解せない声を出しながらも、おとなしく
引き下がってくれた。
こちらとしては、とっとと電話を切ってくれたらそれでいいわけで、どうせな
ら、楽しい切り方をしたい。だから、セールスにはちょっと夢を語ってみるの
だ。断られる方だって、途方もないこと言われる方が話のネタになって楽しい
でしょ。

実際には街から街へと放浪するロマは少なく、ジプシー=放浪という図式は成
り立たない。放浪する民はどこの国でも歓迎される対象にはならず、だからこ
そ“ロマ”という配慮した呼び名も必要になっていくるのだろう。この作品に
あるように、コミュニティーを作って定住し、商店や工場を経営している人も
多いようだ。そして、定住をしたからといって、その国、地域で必ずしも居場
所を獲得するわけでもない事情もたぶんあるのだと思う。だから脳天気な都会
人の無責任な思いなんだけども、それでもやはり、おおらかさや自由さには、
あこがれる。

そもそも私は何かしようとなると、ありとあらゆる悪いことを想定し、石橋を
叩いて叩いて結局渡らないような小心者である。バックパッカー未体験なこと
はもちろん、ふらりと旅に出かけるなんて言葉は、聞いていいなとは思うが自
分で使ったことはない。腰が重いからふつうの旅行にもめったに行かないし、
たまに旅行となれば、あたふたと2日前に荷造りを終えてたりする。日常的な
行き当たりばったりでさえ、私にはその才能がないのである。

英語の教材セールスには「来年はスロベニア語、その次はバスク語、パシュ
トゥー語、カザフ語など、2年ごとに様々な言語を学ぶ予定です。向こう20年
英語レッスンの予定は入れられませんね」と(言語の種類はこの原稿を書く時
に書き直し。実際に何と言ったかは、失念)答えた。どうも私のちょっと夢の
あるウソには、「いろいろな世界を見て回る」系が多いようだ。自分には絶対
にできないからこそ、あこがれが募る。

ふらっと世界を見て回れはしないけれど、映画でいろんな世界に没入するのは、
私にもできる。世界中からやってくる映画は、夢見る小心者の甘い蜜なのだ。


●追記
カンヌ映画祭ではマイケル・ムーア監督の"Fahrenheit 9/11" 「華氏911」
にパルム・ドールが贈られましたね。このタイトルが、ブラッドベリの小説を
映画化した「華氏451」に着想を得ていることは、明らかでしょう。すべて
の書物が禁止され焼却される近未来が舞台。華氏451とは、紙の燃える温度
を指します。フランソワ・トリュフォーが監督したということ以外はヨーロッ
パぽくないですが(何せ近未来は無国籍と決まっています)、とても興味深い
映画です。きっと話題にもなるでしょうから、おすすめですよ。
もっとも、実際に作品中、直接引用があるのは、オーウェルの「1984」
(映画化もされている)らしいです。


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転載には許可が必要です。

編集・発行:あんどうちよ

Copyright(C)2004 Chiyo ANDO

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2004.9.13 原題と英語題を追加

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