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*** 欧 州 映 画 紀 行 ***
                 No.017
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★心にためる今週のマイレージ★
++ おかしいところは、笑え笑え、笑っちゃえ ++

作品はこちら
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タイトル:「月曜日に乾杯!」
製作:フランス・イタリア/2002年
原題:Lundi matin 英語題:Monday Morning
監督・脚本・マルティーノ侯爵役:オタール・イオセリアーニ
出演:ジャック・ビドウ、アンヌ・クラヴズ=タルナヴスキ、
   アリーゴ・モッツォ
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■STORY
勤め人なら誰もが気の重い月曜の朝。フランスの片田舎に住むヴァンサンは、
重い気持ちと身体をひきずって、今週も、電車にゆられ、バスに詰め込まれな
がら、工場へ赴く。
家でもなんだかんだとこき使われ、ゆっくり好きな絵を描くこともできない。

ある日、なーんとなく会社をさぼったまま、ヴァンサンは、ワイン片手に水の
都ヴェネツィアへふらりと、向かうのだった。

■COMMENT
つまらない日常を抜け出して、ふらりとヴェネツィアへ。なんと、「欧州映画
紀行」っぽいテーマかしらん。よっしゃ、ヴェネツィア旅行で元気になろう!
と、欲をかいて見たら……。なんだか、違う、ぞ。

確かにヴァンサンはつまらない日常を抜け出してヴェネツィアへ行く。映画で
ヴェネツィア旅行、かなり楽しめる。ヴェネツィアの街は美しい。お決まりだ
と言われようと、ゴンドラはやっぱり気持ちが華やぐ。非日常を味わうのにあ
んなにいい街はない。

だけれど、この映画の「テーマ」ってそれかな。

日常を忘れて、水の都で癒されよう、なんて思っていると、一杯食わされる。
一筋縄では癒してもらえない。
ひとりの疲れた男がふらりとヴェネツィアへ向かう、とは本作のストーリー。
しかし、「ストーリー」の方は、ほとんどつけ足しと言ってもいいのではない
か。じゃ何が中心なのかと言ったら。

とにかくここには、枚挙にいとまがないほど、変な人や状況が登場する。

重機マニアなのか、トラクターのようなでかい車で出勤する隣人、実は他人の
生活をこっそりのぞき見ている神父、突然置き去りにされるワニと、「へー、
ワニ」で納得する村人。もういい大人になったヴァンサンに「お前は見聞を広
げなきゃ」と旅行代金を渡してしまう父親も変だ。
そもそも、両親はずいぶんと貴族的な暮らしをしているようなのに、なんでヴァ
ンサンは溶接工なのさ。

おとぎ話のように、あり得ない設定があって、しかしおとぎ話と断言するほど、
とてつもないわけではない。「つっこみどころ」満載の映画なのだが、どうも
自信がなくなる。「え、ここ、笑っても、いい、ところ、かな」「え、これっ
て、おかしい、よね」。

そうなる原因は、ひとつには「笑え、笑え」と観客に迫らず、かなり抑えて描
いていることがある。私はこの一作しか見ていないのだけれど、グルジア出身
のこの監督の持ち味の一つなのだろう。唯一、監督自身が演ずる見栄っ張りの
侯爵は、抑えず、思いっきりおかしく描いているが、たぶん、他の部分が抑え
られているから、侯爵の「どっから見てもおかしい」おかしさがはじけている
のだ。

もうひとつには、どこか腰がひけていて、笑うべきところで笑えない私自身に
原因がある。ほんわかスローライフムービーなんていう風の噂を真に受けてい
たせいもあるかもしれない。

見てからしばらくして、じわじわやってくる不思議な映画だ。
じわじわきている頭で考えた。

おかしいところは思いっきり、つっこめばいい。笑ったらいい。「おいおい、
郵便屋、手紙あけて見るなよ!」って。
たやすく癒されようなんて浅はか浅はか。おかしい(“不自然”と“おもしろ
い”の両方の意味で)ところを逃さず捉えてあげつらって、笑って、それでは
じめて「ヴェネツィア旅行はよかったよ」って「ストーリー」を堪能できるん
だ。

勝手にイメージしていた私も悪いが「日常を淡々と描いた」とか「スローライ
フ」とか、ウソだと思うな。フランス・イタリア、両舞台とも景色がすばらし
いのはホントだけど。


■COLUMN
どこに重点を置いて映画を見るか、人それぞれ、作品によってそれぞれであり、
同じ作品・人でも状況でそれぞれだと思う。つまり、受け手側の見方によって、
作品自体の印象も変わってくるし、見方を変えれば、楽しみ方も複数生まれる、
ということだ。
同じ映画を何度も見られるのは、もちろん同じ感動をもう一度、という場合も
あるけれど、その都度、少しずつ重点を置くところを変えているからでもある。

誤解なきよう補足すると、この作品はドタバタ喜劇や、ナンセンスギャク連発
の類ではない。
笑う中にも、日常生活のむなしさや、華やぎを続けられないわびしさが漂い、
小さいけれどしめつけられるような喜びもある。

この映画に関しては、「つっこみどころ」を思いっきりつっこんで笑いながら
見たら、面白いんじゃないか、と私は提案したい。
「つっこみ」と呼ぶのが不適切だったら、私が子どもの頃よく見た絵本『旅の
絵本』のような楽しさ。茂みや木の枝や、街の人の中に、古今東西の物語の登
場人物が隠れている。そのようにさりげなく配置されているものを、見つけて
楽しむ。

私にその才はないが、おかしなところで間髪入れずにつっこめる関西地方の方
(思いっきり偏見ですね)、どうぞ画面に向かってつっこみながら見てくださ
い。隣にいる人と一緒に言い合ってみるのもいいかな。きっと楽しい見方がで
きると思う。このたくさんの「つっこみどころ」、黙って見ていたら、すーっ
と消えて溶けてしまいそうで、惜しくって。

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転載には許可が必要です。

編集・発行:あんどうちよ

Copyright(C)2004 Chiyo ANDO

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2004.9.13 原題と英語題を追加

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