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*** 欧 州 映 画 紀 行 ***
                 No.062
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。


★心にためる今週のマイレージ★
++ 気高き愛する底力 ++

作品はこちら
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タイトル:「アンナとロッテ」
製作:オランダ・ルクセンブルグ/2002年
原題:De Tweeling 英語題:Twin Sisters

監督:ベン・ソムボハールト(Ben Sombogaart)
出演:テクラ・ルーテン、ナディヤ・ウール、
   エレン・フォーヘル、フドゥルン・オクラス
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■STORY
1926年、ドイツのケルン。双子の姉妹アンナとロッテは、いつも一緒の仲良し
だ。
しかし、両親の死により、アンナはドイツの貧しい農家に、ロッテは裕福なオ
ランダの家族に引き取られ、二人は引き離されてしまう。
ロッテはアンナに手紙を書き続けるが、新しい両親がそれを送らずに隠してし
まう。アンナもロッテに手紙を書きたいと願うが、意地悪な両親は、それを許
さず、ロッテは死んだとアンナに思いこませる。

互いに消息を知らずに大人になるが、ある日、ひょんなことからロッテは真実
を知り、ドイツにいるアンナに会いに行く。
再会を喜び合う二人だったが、ナチスが台頭し、歴史は悲劇的な方向へすでに
歩み始めていた頃、またもや二人は悲しい運命に放り込まれる。

■COMMENT
アンナとロッテ役は、子供時代、青年期、老年期、三世代の役者が演ずる。
老年期の二人は現代にいる。タラソテラピーの保養施設で再会する老いた二人
はどこかぎこちない。引き離され、大人になるあいだに、何が起こったのか、
解き明かされる形で、物語は進む。

双子を引き離す話なんて、悲しくて当たり前じゃないか。すれ違い、すれ違い
の連続や、幾分かメロドラマ的な悲しい誤解や勘違いで、二人の心をさらに引
き離していくんだろうか、と序盤は予想したのだが、趣は違っていた。

すれ違いという側面は確かにあるけれども、それはちょっとした誤解とか、勘
違いとかではなく、もっと確固たるズレだった。幼い頃に引き離されて、別々
の環境で育った二人が、別の価値観に支えられて大人になってしまい、かつて
いつも一緒だったときのように気持ちを共有できなくなってしまう。誤解でも
勘違いでもなく、明らかに別々の道を進み、二人はお互いを喪失してしまう。

裕福な家庭で好きなピアノを続けていくロッテ。学校にも行かせてもらえず虐
待され、逃げ出してメイドの職を得るアンナ。ナチスが侵攻してくるオランダ
で、<ドイツ人>たる自分に苦悩するロッテ。ナチスが自分たち平民を幸せに
してくれると、無邪気に信じるアンナ。

明らかに異なってしまった二人だから、老いて再会したときには、かつて一緒
だったときとは別の互いを、真剣に向かい合って受け入れていかなくてはなら
ない。かつて無理矢理引き離された双子は、二人とも、もしも一緒にいつづけ
たなら、歩んだかも知れない自分の人生と、実際に歩んだ自分の人生とのあい
だで、価値観を引き裂かれている。

すでに歩み、進んでいる人生を無かったことにすることはできない。その人生
を自分にできる範囲で生き抜くことしかできない。そうして生き抜いて、再会
した姉妹は、恐がりながらも、もう一度互いに向き合おうとする。人が底に持
つ人を愛する力を、気高く見せてくれる作品だ。

■COLUMN
この物語は、ある引き離されてしまった姉妹のものであると同時に、戦争に荒
れた時代に生きた普通の人々のものでもある。

アンナとロッテは、ずいぶん階級の違う生活になったが、どちらも同じ、普通
の市井の人である。

ロッテは、オランダに引き取られ、オランダ語を話すが、母語を忘れないでい
ようと、ドイツ語のレッスンを受けている。しかし、ナチスが台頭するにつれ、
オランダに住むドイツ人という自分の立場が辛くなってしまう。
アンナは学校に行かせてもらえないまま、学を受ける夢を持ち、おそらくあの
時代の他のドイツ人と同じように、ヒトラーに夢を託し、ナチスを正義と無邪
気に信じた。
アンナの夫はナチスの親衛隊だったが、戦争が好きだったわけではない。あの
頃のドイツの普通の人として、戦場へと赴いた。

地続きのヨーロッパ大陸は、ロッテのように国境を越えて暮らす人がたくさん
いて、地続きの土地の上を望まぬ移動を強いられ、命を奪われた人々も多くい
た。悲しみの記憶は大地にしみわたり、今もそれは時折苦しい悲鳴をあげてい
る。

戦争に関わった人の多くが、特別変わった人ではなくて、普通の人だと見せら
れると、人間の弱さを痛感してしまう。
ヨーロッパが抱える悲しい記憶には、むろんアジアも大きく関わった。そして
それは過去に固定されたものではなく、ちょっと気を緩めたら、未来にも起こ
り得ること。特別じゃない人の物語は、明日は我が身と、自分に引きつけて見
ることができる。
私には、愛の物語であると同時に、苦い薬でもある映画だった。

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編集・発行:あんどうちよ

Copyright(C)2004-2005 Chiyo ANDO

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