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欧 州 映 画 紀 行
                 No.085
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★ 嘘をつく力、夢見る力 ★

作品はこちら
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タイトル:『ライフ・イズ・ビューティフル』
製作:イタリア/1998年
原題:La vita è bella 英語題:Life Is Beautiful

監督・共同脚本:ロベルト・ベニーニ (Roberto Benigni)
出演:ロベルト・ベニーニ、ニコレッタ・ブラスキ、
   ジョルジオ・カンタリーニ、ジュスティーノ・デュラーノ
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■STORY
ユダヤ人迫害を題材に、ユーモラスなコメディの視点から悲しみを描き出す。

お調子者のグイドは、小学校教師のドーラに恋をした。
権威主義で嫌みな婚約者がいたドーラだが、一途でユーモアのあるグイドにひ
かれ、駆け落ち同然に二人は結婚する。
かわいい息子ジョズエも生まれ、ドーラの母も二人を認める気になり、幸せに
見えた一家だが、ユダヤ人であるグイドにナチスの魔の手が容赦なく伸びる。

ジョズエと一緒に収容所に入れられたグイドは、息子に絶望せず生きてもらう
ため、これはゲームだ、少しずつポイントをためて1000点になったら戦車でう
ちに帰れるよ、と嘘をつく。ジョズエは半信半疑ながらもゲームをすることを
承知して……

■COMMENT
前半は微笑ましいラブ・コメディ。後半は色彩を失った画面が目立つ悲しい物
語。たくさん笑って、涙も流す。自分の持てる感情の幅を知ることのできる作
品だ。

笑いと幸せが満載の前半と、沈痛と不幸せのつまった後半を比べてみると、笑
いと涙がいかに紙一重のものなのかがわかる。
前半部の笑いは、言ってみればわりと「ベタ」なもの。口から出任せ・お騒が
せのグイドのキャラクターと、ちょっとしたタイミングのズレや、逆にぴった
りのタイミングでの笑い(例えばちょうど植木鉢が落っこちるとか)だから、
国籍や年齢を問わず笑える。
そして、後半に繰り広げられる悲劇も、主人公のキャラクターと、ちょっとし
たタイミングの妙で成り立っている。

グイドが、息子に「差別」や「悲惨な現実」を知ってほしくないと嘘をつき通
すことは、必死に嘘を信じさせようとするドタバタコメディにも、現実を知ら
せまいとする悲しい親心にもなる。

嘘にはいろいろな種類がある。己を守ろうとするもの、他者を傷つけまいとす
るもの、誰かを欺こうとするもの、他人を陥れようとするもの、、、
悪意や善意、とりようによって変わるものまで様々だが、幸いなのは、人間が
嘘をつく能力を持っている、ということだ。嘘のない世界ほど怖いものはない。
人を陥れようとすることは褒められることじゃないが、他人に不愉快な思いを
させないように、作り話をでっちあげることができなかったら、コミュニケー
ションはうまくゆかないだろう。そして、現実にないことを話せないのだとし
たら希望を語ることすら許されないことになる。

「もしもこうだったら」「もしもこうなれたら」「5年後にこれを実現する」。
夢を見る言葉は、すべて今は事実にない「嘘」だ。その嘘を語れるから、未来
に歩く力が生まれる。嘘をつく力は、言ってみれば言葉の力。身近なことも壮
大なことも、言葉ではなんでも作り出すことができる。

嘘はいけない、と教えられることしばしばだが、嘘をつけなければ、将来の夢
も、託す希望も危うくなるかもしれない。嘘の美しい効力を改めて認識する作
品だ。

■COLUMN
アメリカのアカデミー賞だって獲った、とても有名な作品だし、今さら私が紹
介するまでもないかな、と思ったけれど、なにしろこの1週間に観た映画はこ
れっきりだったから、取り上げることにした。
観てない人だって、もう一度観たいなと思い出す人だって、いるかもしれない。

私自身もこの作品を観るのは久しぶり。何でこの作品をまた観る気になったか
というと、今住んでいるマンションの工事のおかげだ。
つながらないだろうなー、説明しよう。

先月から始まった、老朽化したマンションの外壁とベランダの大規模改修工事
は、一日中カーテンをしめきって、その日の天気も気温もわからなくて、洗濯
物も干せる日が限られる生活をもたらしている。
数日前からは、何やらドリルで壁のあちこちに穴を開け始め(たぶん)、ベラ
ンダをうようよと人が動き回り(工事の人、お仕事なのにすみません)、大音
響で安眠を妨害され(私は遅寝遅起き)、あまりの音と振動に家にいることさ
え叶わない(仕事もあるんだけどな)。

分譲マンションだから、資産価値を維持するために必要なことだけれど、私は
買ったんじゃなくて、買った人から借りているだけ。どうも降りかかった災難
のような気にしかなれない。
光ないところに閉じこめられ、周りは物騒に物音がし、それでも笑いを忘れず
「人生は美しい」と言ってのける作品をもう一度観たくなった。
まだつながらない? 確かに工事の騒音と強制収容では規模も次元も全然違う。

でも、それぞれの逆境ってそれぞれの頭ではいっぱいいっぱいの真剣な悩みだ
から、大小の比較はあまり意味がない。それに、規模や次元を問わず、辛い状
況を笑いに変えたり、希望を失わずにいる「知恵」は、いろんな形で拝借でき
るものなのだ。

おかげで、工事の不便の中それを利用して(具体的にはあんまり思いつかない
んだが)、楽しく過ごそうかな、てな気持ちにはなれました、はい。

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編集・発行:あんどうちよ

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