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欧 州 映 画 紀 行
                 No.097
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★ 小さい人間同士。それでいいじゃない。 ★

作品はこちら
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タイトル:『家族の気分』
製作:フランス/1996年
原題:Un air de faimlle 英語題:Family Resemblances

監督・共同脚本:セドリック・クラピッシュ(Cédric Klapisch)
出演:ジャン=ピエール・バクリ(脚本)、ジャン=ピエール・ダルッサン、
   アニエス・ジャウィ(脚本)、カトリーヌ・フロ、
   クレール・モーリエ、ウラディミール・ヨルダノフ
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■STORY&COMMENT
毎週金曜日は家族で食事会を開くメナール一家。
母、長男夫婦、次男夫婦、末の妹の6人が、長男が受け継いだカフェに集合し
てレストランへ行く。
しかし今日はいつもの金曜日違う。アンリの妻が家出をして皆が食事に出かけ
られなくなってしまったのだ。次男の妻ヨヨの誕生日だって祝うはずだったの
に。
カフェに足止めを食らった家族はしだいに、日々の不満をぶちまけ、集まりは
どんどんおかしな雰囲気に……

フランスで大ヒットした舞台を、配役そのままで映画化した作品。物語はカフェ
の中だけで展開し、微妙な心理の揺れが面白おかしく濃密に描かれる。

大会社に勤めるエリートである次男フィリップは、その日、会社の代表として
地方ニュースに出演した。そのことばかりが気がかりで、皆にどうだったか、
と感想を求めて回る。
父のカフェを継いだ長男アンリは、子供の頃から優秀なフィリップと比べられ、
バカにされることが常々がまんならない。今日のテレビ出演だって見なかった。
妹ベティは、まわりからまだ結婚しないのかと散々言われてうんざりだ。実は
アンリの店の従業員とこっそりつき合っている。
ヨヨはフィリップにかまってもらえず寂しい思いをしている。

どの不平もどの悩みも誰もが経験or見聞きするもので、たやすく理解できる。
そして、立場によっては、この中の誰かの悩みに深く共感することもあるだろ
う。
しかしそれらはどれも、そりゃあ当人には辛いだろうけれど、ちょっとした弱
みや見栄やプライドや、ほんの少しの無神経から生まれている「よくある」こ
と。
そうしたそれぞれが抱える小さな欠点から出た言葉が、面白いほどタイミング
よく事態を深刻にしたり、傷つけないでいい人を傷つけたり、言わないでおこ
うと思ったことをうっかり明るみにしたりして、思わず声を出して笑っちゃう
場面多数。家族のそれぞれの思いがただよう中に作られた、上質のシチュエー
ションコメディだ。

「いるなー、こんな人」「だから何でそこでそう言っちゃうかね」「んー、わ
かるなー、その気持ち」ここにいる人たちは、みんな人間が小さい。余裕がな
かったり、相手のことを考えられなかったり。それを観て理解できる観客も、
結局は同じように小さい人間だ。つまらないことで悩み、傷つき、傷つけて。

「あー、わかるわかる」と登場人物と観客とが共犯関係を結んで、ひとつの思
いを分かち合って、この作品は完成する。誰もが欠点はかかえてる。小さい人
間同士、関わって生きていくのも、それはやっぱり、とってもいいことだね。

■COLUMN
コンプレックスや積年のグジグジした思いなど、家族同士ならではの負の気持
ちがうずまく。こういうことは、自分の生活を振り返ってもそうなのだけれど、
他人のように、ほどほどにつき合えばいいよ、ともできず、解決しようとして
も同じところをぐるぐる回ってしまうことが多い。

この家族もおそらくはしょっちゅう同じ事で争ったり、誰かが黙って不満を抱
えていたりするんだろうな、と思われる。
そういう状態から少し新しい方向へと脱出に導くのは、内緒で末娘のベティと
つき合っているカフェの従業員ドニだ。家族ならではの、慣れと惰性で、なん
となく負を負のままにしている状態のところに、ふっと自分の意見を言ってみ
たり、他人だからこその真っ当な対処をしたりして彼は、この家族を堂々めぐ
りから少し脱出させている。

アンリが妻を迎えにいこうとした時、偶然助けとなってくれるのは赤の他人の
おせっかいだ。

家族の問題は家族の間だけに押し込めてしまいがちだけれど、ちょっと外から
空気を入れて、ちょっと他人を介在させるだけで、少しうまく転がっていくこ
ともあるんじゃないかな。まあ、そのさじ加減は難しいところなんだけれども。


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編集・発行:あんどうちよ

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