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欧 州 映 画 紀 行
                 No.100
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

読者の皆様のおかげで通算100号を迎えることができましたー!
パチパチパチパチ、、、って何も出ませんが。
これからもよろしくお願いします。

★ 世界が突然変わるとき ★

作品はこちら
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タイトル:『ライフ・イズ・ミラクル』
製作:セルビア=モンテネグロ・フランス/2004年
原題:Zivot je cudo 英語題:Life is a miracle

監督・共同脚本:エミール・クストリッツァ(Emir Kusturica)
出演:スラヴコ・スティマチ、ナターシャ・ソラック、
   ヴェスナ・トリヴァリッチ、ヴク・コスティッチ、
   ニコラ・コジョ、アレクサンダル・ベルチェク
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■STORY&COMMENT
1992年初春、ボスニア。ユーゴスラビアからの分離独立戦争が始まった。
セルビア人のルカの一人息子は、敵方の捕虜とされてしまった。友人が捕まえ
てきたムスリムの女性サバーハを、捕虜交換できるかもしれないと、人質とし
て預かることにした。
息子の無事を願うルカだったが、毎日サバーハと接するうちに彼女と恋に落ち
てしまう。戦争のなか、二人は愛を深めていく。しかし、息子を取り戻すため
には、サバーハを返さなくてはならない……

現代のロミオとジュリエットのような物語。「捕虜の女性に恋してしまったセ
ルビア人」は実際にあったことだという。敵対する勢力同士、誰からも祝福さ
れない。息子を取り戻すための人質だったはずのサバーハに恋をすることは、
すなわち息子を見捨てることにもなる。痛く切ないジレンマだ。

爆弾が鳴り響き、大地を揺らし、昨日までよき隣人同士だった人々が憎しみ合
う悲惨な状況を、ときにコミカルに、ときにシニカルに、ときにバカ騒ぎに興
じながら、監督は描く。

男と出ていった情緒不安定な妻がからむと、恋愛シチュエーションコメディに
もなり、西側のメディアの都合のよい報道ぶりや、戦争に乗じて密輸で儲けよ
うとする輩が出てくることを見れば、風刺の効いた社会派ドラマにもなる。そ
してもちろん純粋な愛の物語であり、究極の選択をしなければならない男にも
たらされる「ミラクル」の物語である。

悲しいことも理不尽なこともたくさん起こるけれど、最後には胸のつかえが
すーっと溶けるような爽快感。人生は奇跡のように素晴らしい。人生に奇跡は
ある。どちらの解釈も成り立つが、講釈はおいといて、夏のジメジメした空気
の中でもおすすめの一作だ。

■COLUMN
人間くさい恋愛を中心にし個性あるキャラクターをそろえた物語性の強い作品
だが、ボスニアの独立戦争開始直前からの社会の動きを正確に捉えた一面もあ
る。
わかる人なら、特に開戦直前のあたりは日付も追えるだろう。

だから、この大いなるフィクションで、現実世界とリンクしてみる楽しみもあ
る。例えば、あるblogを読んで気づいたのだが、パルチザン・ベオグラードか
ら入団のオファーを待ち続けているルカの息子ミロシュが、友人との会話の中
で言及している「ベオグラードの監督」は時期から考えて、今話題のオシム氏。
(参考:http://belena.blog70.fc2.com/blog-entry-46.html

開戦のその日にも、普通の人々は「戦争にはならない」と構えている様子から
「戦争」になり友人が敵になる状況が突然やってきたことがよく伝わる。徴兵
されても、ルカは息子が戦場に行くとは考えない。

ミロシュといつもつるんでいるムスリムの友人は、開戦少し前、最近銃を買っ
たと言う。そのちょっとした異変にミロシュは気づいたのか否か、わからない
が、民族の間の決定的な決裂が近づいてきていることは、少なくとも感じ取っ
ていないだろう。それはミロシュがセルビア人だからか、パルチザンのオファー
のことばかりを気にしていたからなのか、わからない。

とにかく戦争前、人々はわりとのんきだった。突然今まであったものが崩れて
しまう、悲しい現実の記録でもあるこの物語は、その現実を勇気をもって乗り
越えようともしている。

■INFORMATION
3週間夏休みをいただいて、次の配信は8月17日の予定です。
よろしくお願いします。

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感想・問い合わせはお気軽に。

編集・発行:あんどうちよ

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