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欧 州 映 画 紀 行
                 No.129      07.05.10配信
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★ 家族って、何? ★

作品はこちら
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タイトル:『リメンバー・ミー』
製作:イタリア・フランス・イギリス/2003年
原題:Ricordati di me 英語題:Remember Me

監督・共同脚本:ガブリエレ・ムッチーノ(Gabriele Muccino)
出演:ファブリッツィオ・ベンティヴォリオ、ラウラ・モランテ、
   ニコレッタ・ロマノフ、モニカ・ベルッチ、シルヴィオ・ムッチーノ
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■STORY&COMMENT
カルロとジュリアは、イタリアの都会のどこにでもいる夫婦。不仲と言うほど
でもないが夫婦生活はなく、思春期の息子と娘に手を焼いて、毎日7時半に起
きて、慌ただしい朝を過ごす。
ケンカばかりの兄妹はそれぞれ自分のことに忙しく、家族はバラバラの状態だっ
た。そんな折、昔役者をしていたジュリアに、再び舞台に立つ話が舞い込み、
カルロは同窓会で昔の恋人に再会して……、揺れる家族はどうなる?

久しぶりに、奇をてらわない良心的なイタリア映画というのを観た気がする。
ここで私の言う「良心的な」は、目を引く状況設定でごまかさず、しっかり人
間を見て描いている、というような意味だ。

4人家族は皆それぞれ自己不全感を抱いていて、それを何とかすることが目下
の関心事。気持ちは家族ではなく外に向いている。

女の子にもてない、何をやってもいまいちイケてない兄は、そんな自分を何と
かすることだけが大事だし、妹は芸能界デビューすることを目標に、ダンスの
レッスンと人脈作りに励む。

わかる。自分の思春期の頃を考えても、家族と過ごすより友人や恋人と過ごす
方が断然楽しくて、それをじゃまされることが最も不機嫌になるタネだった。
だから、両親が不仲になろうと正直知ったこっちゃなくって、「家庭のもめご
とはやだねー」と大人になったかのような顔をして今その時を楽しんでいた。
家族のことで自分の活動を停滞させていたら、大切な何かをつかみ損ねる気が
して不安だったのだ。

ジュリアは、家庭を持って子育てしていることは幸せだけれど、女優として成
功したかった、という後悔をいつも胸に引っかけている。カルロはギスギスし
てバラバラになりそうな家庭に嫌気がさして、あのとき別れなかったら、と昔
の恋人を懐かしむ。その恋人は恋人で、自分に関心がなくなった夫に嫌気がさ
している。

子どもはいない。でもいい年になった私は、思春期に続いてこの大人の気持ち
もうんうん、とわかってしまう。今ここにない人生って、いつもいつも自分に
まとわりついていて、それらに対する願望や後悔は、不安になれば首をもたげ、
退屈したといってはふくれあがる。

若い子ももう若くないいい大人も、みんな、今ない何かを求めていらついてい
る。そんな日常を巧みにすくい取っている映画だった。
ちょっと悲しく、でもおかしい人間の習性に笑えるシーンも多数。自分に照ら
し合わせてちょっとしんみりしてみたい、でも知的さは忘れちゃいけないね、
という休日にどうぞ。

■COLUMN
家族って何だろう。家族に煩わされるのはまっぴらだった思春期の頃も、今も、
そのずっと前、子どもだった頃も、よくわからない。

いっしょに暮らしている。うん、それはわかる。でも、いっしょに暮らしてい
るから何なのか。単身赴任とか、一時的にいっしょにいない人がいることも珍
しくないし、離れて暮らす老いた両親はりっぱに家族だ。大きなくくりで言え
ば、いっしょに暮らすは、家族の定義にはならない。

「家族」にけちをつけているわけではなく、もうとうに思春期も過ぎたし家族
なんて知らねーよ、と悪ぶることもない。家族は大切だよね、に異存はない。
ただ、「家族なんだから」とか「家族でしょ」とかって、みんなが思い思いの
意味に使っていて、結局その言葉の中身はほとんどないような気がする。でも、
「家族なのに」という声には逆らえない強さがある。

子どもの頃、両親が言い争いをしたり、嫁姑問題がある度に、そんなにまでし
ていっしょに住まなきゃならない家族ってなんだろう。仲のよい友人をはじめ
として、家の外に、もっとずっと大切な人がいるだろうに。と思った。

でも、それが違うことだけは、今はわかる。外の世界の大切な人は、運良く長
く続く場合もあれば、何かの都合で縁遠くなったりする。でも、家族と認め合
う人は、嫌なものも好きなものもひっくるめて、永きを誓わなくちゃならない。
もちろんそれがいつか破綻するときもあり得る。でもとにかく永続的な約束を
することが条件で、その約束をなんとか機能させるためには、ときにはがんば
らなきゃいけない。
家族って何? それは相変わらずよくわからないけれど、きっとその永い約束
は、どんな家族にもあてはまるものじゃないかと、思っている。

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編集・発行:あんどうちよ

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