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欧 州 映 画 紀 行
                 No.132   07.05.31配信
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★ シュワシュワッとさわやかに、人生を讃える ★

作品はこちら
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タイトル:『プルートで朝食を』
製作:アイルランド・イギリス/2005年
原題:Breakfast on Pluto 

監督・共同脚本:ニール・ジョーダン(Neil Jordan)
出演:キリアン・マーフィ、リーアム・ニーソン、ルース・ネッガ、
   ローレンス・キンラン
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■STORY&COMMENT
イギリス国境に近いアイルランドの田舎町。孤児のパトリックは、女の子の心
を持っていて、ドレスやメイクに興味を示して養母を困らせていた。長じて美
しい青年(でも女の子)となったパトリックは“キトゥン”と名乗り、変わり
者扱いされる町を離れ、生みの母を捜してロンドンへ向かう。

んー、うまいことやられたねー。というのが感想。性同一性障害の、ちょっと
シリアスな物語かと思いきや、キトゥンはいつも明るくまっすぐに自分を通す。
そういうことなら、案外軽〜く、70年代サウンドをたっぷりとかき鳴らして乙
女な人生を走っていくのかな〜、と見守っていると、いつの間にか、IRAなど
のアイルランドの辛い面もからめながら、最後にはホロリと、人生讃歌を見せ
られる。
ちょっとずつ、その先、その先へと、くいっくいっと運んでいく、話の展開が
うまいなあ、と思う。「さーて、どんな話かな」とちょっと上から眺めていた
私を、うまいこと話の中まで引きずり込んでくれた。

後で冷静になって考えると、結局最後は皆いい人ばかりだったり、恨んでもい
い場面で人を恨まないキトゥンが聖人ぽくもあり、ここから私が元気をもらお
うなんて企むには、あまりにもおとぎ話だな、とも思う。
でも、そんなおとぎ話だから、観た後すっきり、顔は自然に上を向く。

辛いことも笑って過ごし、シリアスになりすぎず(キトゥンはいつもシリアスっ
て言われるとむくれる)いつも自分を信じて貫いて、観る人がどんなに悲観的
でも、たっぷり人生を肯定する。
この抜群の清涼感は、シュワシュワッと炭酸系の飲み物でも飲みながら、休日
の午後にでも是非。

■COLUMN
70年代ソングがたっぷりかかるのも魅力。その中には、実際にそのシーンで誰
かがレコードをかけているとか、カーステレオを聴いているとか、単なるBGM
を超えた存在のものも多数あって、音楽映画とも言える。
そんなに音楽に詳しくない私だけれど、借りてきたDVDのミュージックチャプ
ターという、曲別にかかっているシーンを呼び出せる機能がとても楽しかった。

映画の冒頭と終わりでかかるルベッツの『シュガー・ベイビー・ラヴ』は、当
分耳に残りそうだ。冒頭と終わりが同じ時代(物語を語る「現在」)にされ、
間の物語が回想という構造で、同じ曲が流れるように作られているのだが、のっ
けに聴いた『シュガー・ベイビー・ラヴ』と、キトゥンの半生を観た後で聴く
『シュガー・ベイビー・ラヴ』は、ちょっぴり印象が変わるから不思議。
同じ音のはずが、最後に流れる方が、より「抜けてる」感じがするのだ。

『シュガー・ベイビー・ラヴ』が耳に残るので、ネットでいろいろ検索してた
ら、youtubeに「karaoke」なる映像があった。この曲の歌詞、こんななんだ。
はじめて知った。
http://www.youtube.com/watch?v=XyIMi3uTpBQ

70年代とくれば、音楽&ファッションがつきもの。全般的に登場人物の着てい
る服もいいのだけれど、キトゥンのこだわりが本当にかわいらしい。特に、ま
だ地元の学校で、学校指定のシャツやVネックのセーターを着ている頃の工夫
が私は好き。

シャツの襟に刺繍やバッジをあしらって、セーターには胸、袖に色とりどりの
釦をぬいつける。色といい、全部違う釦の並べ方といい、抜群にかっこよく作っ
てる。
普通にシャツの釦がとれただけで、「このシャツいっそ捨てちゃおっかな」と
思ってしまうほど、手仕事の苦手な私には真似できないワザ。でもこのセンス
だけでもちょっと覚えておいたら、いつか何かで役立つかな、缶バッジくらい
なら私にもつけられるし。

ファッションや音楽、それぞれの分野に一家言ある人といっしょに観てみたい、
と思う映画でもあった。

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編集・発行:あんどうちよ

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