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欧 州 映 画 紀 行
                 No.131   07.05.24配信
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★ 別文化をのぞくたのしみ ★

作品はこちら
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タイトル:『音のない世界で』
製作:フランス/1992年
原題:Le pays des sourds 英語題:In the Land of the Deaf

監督:ニコラ・フィリベール(Nicolas Philibert)
出演:ジャン=クロード・プーラン、アブゥ、フローラン
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■STORY&COMMENT
多くのろう者の日常風景を映し、インタビューして構成されたドキュメンタリー。
『パリ・ルーヴル美術館の秘密』など、静かに語るタッチで知られるフィリベー
ル監督による。ナレーションによる説明なしに、彼らの言葉、生活を淡々と表
す。

音声発音を習う、ろうの子どもたち。音で聞いて真似ることはできないから、
あごの振動のしかたを体で覚えさせたり、舌の動きをしっかり見せたり、教師
たちもがんばる。
手話教師のジャン=クロードの手話は、さすが教師、ゆっくりはっきりしてい
て、わかりやすい(いや、わからないんだけども)。様々な人の手話を見てい
ると、そんな手話の音色もちょっと聞き分け/見分けられるようになる。

5世代に渡るろう家系、親も祖父母も、おじおばも皆ろうだ、と語る人。親戚
に一人聞こえる娘がいて、「かわいそうだ」と言う。思わず吹き出しちゃった
けれど、確かに、ろうを普通だとするならば、そうなるんだろう。
年配の人の身の上話には、親にきちんと教育をされなかったりすることが多く
て驚く。別のシーンで「あなたと同じように手話を話したいのよ」と子どもと
一緒に勉強する親の姿を見ると、世の理解が進んでよかったなと胸をなでおろ
す。

たとえば、「手話は万国共通だと誤解している人がいるけれどそれは違う、で
も、外国に行ってもろう者同士なら、2日もあれば話が通じるようになるよ」
といった手話の知識の話はある。しかし、これは手話を広めるとか、ろう者の
がんばりを世に伝えるとか、そういった某かの主張のある作品ではない。

自分とは違う文化の中にいる人の生活ってどんななんだろう、とのぞいて見る
感じだ。のぞいた結果、同じだね、という部分もあれば、へー、そんな風なの!
という新鮮な驚きもある。
よその国の映画を観て、ああ、こんな生活があるのねと垣間見る感覚とそれは
似ている。ろうの国への静かな招待状である。

■COLUMN
静かで何かの主張がない分、観る人によって注目点も感じることも、きっとま
ちまちで、福祉に興味のある人なら、もちろんそこに力点を置いて観られる。
手話を習い始めた人ならやっぱり手話談義。学校の先生なら、子どもたちへの
指導風景に興味がわくかもしれない。

私はこの作品から、ひたすら人の生活に興味を覚えた。たとえるなら「双子っ
て、どんな感じなの?」と興味津々に尋ねるような場合に似てる。自分とは環
境が全然違っている人がどんな暮らしをするんだろうか、どんなびっくりする
ことが起きるんだろうかと、知りたくてしかたがない感じだ。

こういうのは気をつけてやらないと、人の生活に土足で踏み込む出すぎた質問
になるし下品にもなりかねない。でも、単純なる興味や好奇心って、分かり合
うために絶対に必要なものだろう。

誰かの立場を声高に守ったり、社会の不備を追求する作品は、それはそれで価
値が高い。しかしその主張は、牧歌的な興味をすっ飛ばしてでも、観る者に
「考え」「意見を持つ」ことを強いることでもある。
ろう者の生活を淡々と映し、話すことを静かに受け取る。これは、出演する者
のペースを守ると同時に、異文化と出会う、観る者のペースも守る。

難しく問題を考えなくても、知らない人の生活に単純に興味を持たせてくれ、
自分のもとからある興味にひきつけてくれる。この作品が力強く思えるのには、
そこに理由があるように思う。

■INFORMATION
★おわび
先週号で、1カ所、改行を入れるのを忘れました。
読みづらくなってしまってごめんなさい。


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編集・発行:あんどうちよ

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