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欧 州 映 画 紀 行
                 No.143   07.09.06配信
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★ 愛、裏切り、戦争、、人間 ★

作品はこちら
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タイトル:『ブラックブック』
製作:オランダ・ドイツ・イギリス・ベルギー/2006年
原題:Zwartboek 英語題:Black Book

監督・共同脚本:ポール・ヴァーホーヴェン(Paul Verhoeven)
出演:カリス・ファン・ハウテン、トム・ホフマン、セバスチャン・コッホ、
   デレク・デ・リント、ハリナ・ライン、ワルデマー・コブス
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■STORY&COMMENT
ナチスドイツの支配するオランダ。ユダヤ人女性ラヘルは、隠れ家を焼かれて
しまい、家族とおちあって南へ逃れることにした。しかし、船で出発した直後、
ナチスに襲撃され、水に飛び込んで難を逃れたラヘル以外は皆殺されてしまう。
レジスタンスに助けられたラヘルは、名をエリスと変え髪をブロンドに染め、
レジスタンス活動に加わる。

正直に言うと、私が好きなタイプの作品ではない。「タイプ」という言い方を
すると誤解がありそうだ。ぷっとおかしく思ったり、ふっと気が抜けたりする
るところが、そこかしらにある作品が私は好きなんだけれど、そうした雰囲気
があんまりないんだな。レジスタンスを扱った作品に何を言ってるんだと言わ
れそうだけれど、本筋とは必ずしも関係ないところで、いささか「ひねくれた
楽しさ」がもうちょっとあるといいかな。

とはいえ。
そのかわり、というわけではないが、誰が観ても楽しめるエンタテイメントに
仕上がっている。スパイとして潜入するエリス、色仕掛けではめようとした相
手に本気で恋してしまうエリス、レジスタンスといっても、「反ナチス」と
「ユダヤ人」では立場が違うから、決して一枚岩ではないところ。そして、エ
リスの恋する将校ムンツェのように、ナチス内にもいろいろな人がいること。
さらに、最後まで観ると、「ああ、あそこが伏線だったのか」とおさらいして
も楽しめることなんかも。
みどころ、興奮しどころは山ほどだ。

あんまり好きなタイプでは……、なんて言いながらも、私もちゃっかり最後ま
で楽しんだ。特に、戦争終結後、真の裏切り者は誰だ、と最後までサスペンス
が続くところは身を乗り出した。144分とちょっと長目の上映時間、後半に向
けて加速が進み、世が戦後処理をしている最後の40分くらいが、いちばん盛り
上がったと、私は思う。

■COLUMN
戦争が終われば平和がくる、と安易に考えてしまいがちだけれど、実際は違う。
革命時もそうだろうが、戦争時は社会の制度が何らかの形でひっくり返ってい
るから、戦争後にはその逆に社会がひっくり返って、戦争時に虐げられた人々
が、虐げた人への報復がはじまる。

この作品でも、開放されたとたんに、オランダの市民は、ナチスに協力した者、
媚びを売った者への復讐をはじめる。
報復の連鎖は虚しい。
空調のかかった部屋で、この情景を眺めれば、そんな冷静なため息もつける。
しかし、苦しい生活を強いられて、プライドも傷つけられ鬱憤のたまった普通
の人々にとって、報復は無理もない行為ともいえる。

だけれど、やはり、どこかでそれを止める努力をしなけりゃならない。
たぶん、人間は、自然のままに感情のあるがままに行動させたら、めちゃめちゃ
になってしまう性なのだろう。だから、昔からあるがままだけに流されないよ
うに、人間は頑張ってきた。人権という考え方や、社会保障の制度などは、そ
のための努力の形だ。
あるがままに行動したらめちゃめちゃになるが、努力のしようで人間はまだ捨
てたものではない。まだまだ、いい世界を作っていけると、信じている。とい
うか、信じなきゃやってらんないよ。

映画は、戦後、イスラエルに移住したエリス(=ラヘル)の回想から始まる。
ユダヤ人は安住の地を求めたけれど、21世紀に入った今も、この地に平和は訪
れない。戦争と、戦後の混乱を生き延びたラヘルの行く末は、決して穏やかで
はないはず。それを思うと、悲しい余韻も残っている。

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編集・発行:あんどうちよ

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