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欧 州 映 画 紀 行
                No.149   07.10.18配信
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★ このままでいいのかと悩む、すべての人に ★

作品はこちら
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タイトル:『向かいの窓』
製作:イタリア・イギリス・トルコ・ポルトガル/2003年
原題:La finestra di fronte 英語題:Facing Windows

監督・共同脚本:フェルザン・オズペテク(Ferzan Ozpetek)
出演:ジョヴァンナ・メッツォジョルノ、マッシモ・ジロッティ、
   ラウル・ボヴァ、フィリッポ・ニグロ
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■STORY&COMMENT
ローマで、夫と二人の子供と暮らすジョヴァンナは、毎日の生活に疲れ気味。
お菓子作りを仕事にしたいという夢を持ちつつも、忙しさや経済的な問題から
実現できない。密かな楽しみは、窓から向かいのアパートのかっこいい男性を
眺めることだ。
そんな折り、町で記憶喪失で迷子になった老人と出会う。人のよい夫が家に連
れてきてしまい、他人を警戒するジョヴァンナは、またもや夫と口論ばかりの
日々に突入する。

劇場未公開作品がDVD化されたもの。パッケージデザインとあらすじ(向かい
の窓の生活をのぞく)から、エロティック・サスペンスものだったら、私は苦
手だけどなー、と半信半疑で観てみたら、とっても良心的に現代人の生活や葛
藤を描いた作品だった。劇場でやっても成功したんじゃないかと思う。(ひょっ
としたらエロティック・サスペンスの方が「成功」はするのかな)

名前が「シモーネ」としかわからない迷子老人の素性の謎と、向かいの窓の住
人を密かにのぞく話、そしてお菓子を作りたいと願うジョヴァンナの夢、どれ
が中心になるんだろうか、と冒頭はテーマの定まらなさに、ちょっとやきもき
した。
だけど、すべて観たら、どれが中心? なんてことを気にしていた自分がバカ
みたいに見えた。

すべては、閉塞感のなかにいるジョヴァンナの身に起きること。わかりやすく、
「ただ今からこれがテーマです」とばかりに、ことが起きたりはしないものだ。
バラバラに見えていた要素が、少しずつ絡み合い、ていねいに人物と心情が描
写されていく。
徘徊するシモーネに鉢合わせた<窓の彼>ロレンツォは、ジョヴァンナととも
にシモーネの素性解明に乗り出し二人は急接近。シモーネの途切れ途切れの記
憶からは、お菓子づくりに詳しいことがうかがい知れ、ジョヴァンナを助ける
ことになる。

好みが分かれるかもしれないが、ジョヴァンナの最終的な選択が、リアリティ
があって前向きで、私は好き。何かにイラついたり、壁にあたっていたり、単
調さに嫌気がさしている人は、勇気づけられるだろう。

■COLUMN
映画の冒頭、「マッシモに」と献辞が掲げられる。シモーネ役のマッシモ・ジ
ロッティが、撮影後に亡くなり、本作が遺作となってしまったため、彼に捧げ
ることになったのだろう。

寡聞にしてこの俳優を見たのははじめてだったけれど(たぶん)、シモーネが
呆けているときと、記憶や意志がしっかりしたときと、顔つきの違いを微妙に、
でも確かに演じ分けて、さすがベテランの俳優のすごみだ、と感心した。

シモーネ(本当は、シモーネではないことが後半に判明するのだけれど)は、
呆けているときも、しっかりしているときも、迷うジョヴァンナの背中を押し
たり、落ち着く助言を与えたりする。
彼の存在感がなければ、この映画は成立していないだろうから、遺作となった
作品として、マッシモに捧げることになったのは当然だとも思う。

人生のベテランから繰り出される言葉だからか、彼の俳優としてのうまさなの
か、一つひとつに説得力があって、「あ、言われちゃったな」と、心にささる
言葉がいくつもあった。

夫との関係に疲れたジョヴァンナに「情熱にまかせていた愛が、時を経て熟成
していくのは素晴らしい」(字幕の通りではないかもしれないが、原語はイタ
リア語でどのみちわからないから、だいたいの意味が合っていればよし)。
菓子作りに本格的に取り組むことに躊躇する彼女に、「無為に生きるのではな
く、よりよい人生にする必要がある」。

とりあえず問題なく生きている人でも、現代人は必ず、このままでいいのか、
これをしようか、あれをしようか、とにかくいろいろなことに迷っているもの
だ。もちろん私だってそうで、だからこそ、こういう言葉にぐさっとやられて
しまう。
迷ったとき、迷うことにもいい加減めんどくさくなったとき、心から引き出し
てきたくなる言葉を、記憶できたことも収穫だった。


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編集・発行:あんどうちよ

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