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欧 州 映 画 紀 行
                 No.153   07.11.15配信
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★ カリカチュアに収まらないもの ★

作品はこちら
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タイトル:『クィーン』
製作:イギリス、フランス、イタリア/2006年
原題:The Queen 

監督:スティーヴン・フリアーズ(Stephen Frears)
出演:ヘレン・ミレン、マイケル・シーン、ジェームズ・クロムウェル、
   シルヴィア・シムズ、アレックス・ジェニングス、ヘレン・マックロリー
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■STORY&COMMENT
1997年、ダイアナ元皇太子妃が自動車事故で亡くなった。彼女の死を悲しむイ
ギリスの人々は、不仲の噂があったエリザベス女王に関心の目を向けた。しか
し、女王は一民間人の死にコメントを出す必要はないと、スコットランドの別
荘にひきこもり続ける。そんな態度が、人々の不満と怒りを買ってしまう。
その様子を見て、首相に就任したばかりのトニー・ブレアは、王室と民衆の橋
渡しをしようと決心する。

エリザベス女王にしても、チャールズ皇太子にしても、ブレア首相にしても、
よく似てるなー。そこで感心するのは稚拙な観方かもしれないけれど、やっぱ
り、まずはそこで止まって感心してしまう。
たぶん、本物と並べて見たら、全然違うんだろう。でも、この映画だけ見てい
ると、顔立ちから、実際はよく知らないふるまいやしゃべり方まで、そっくり
だと思う。
メイクもあるだろうが、演出や演技で、役作りが成功しているに違いない。特
に、現女王を演ずるというのは並々ならないプレッシャーだったろうヘレン・
ミレンはスゴい。今の私は、エリザベス女王というと、彼女の顔の方が思い浮
かぶ。

前回紹介した『アフター・ウェディング』では、登場人物のパーソナリティを
あえてわかりづらくしている、ということを私は書いたが、そういう点で言う
と、この映画は真逆だ。製作者が意図したことなのかどうか、自信はないけれ
ど、かなりわかりやすくカリカチュア的に、登場人物をあるタイプの典型のよ
うに描く。

女王の夫フィリップ殿下は、権威と伝統の中に生きる重鎮。若い者が理解でき
ない行動をとることにはうんざりしている。
チャールズ皇太子は、何とか世の中の変化に柔軟に対応しようと、上の世代と
ぶつかる高貴な家の御曹司。
ブレアは、改革に燃えながらも「古き良きもの」にも目を向け、バランスのと
れるやり手のリーダー。
ブレア夫人は、古いものは頭ごなしに否定する、細やかな神経とは無縁そうな
フェミニスト。彼女はこんな描かれ方じゃあ、怒ってもいいんじゃないかと、
私は思う。

で、そんな中で、どうしてもそんな典型的なカリカチュアの中に収まらないキャ
ラクターが出てくる。それが The Queen、エリザベス女王だ。

本人にうまく「似せた」役作り、著名人の話なのに個々人がたやすく感情移入
できるパーソナリティの配置のしかた。「人物」に注目するといっそう楽しい
作品だと思う。

■COLUMN
ダイアナ元皇太子妃が亡くなって、突然みんなが知っている言葉のように「パ
パラッチ、パパラッチ」とメディアが連呼しはじめたのはよく覚えている。
しかし、女王がコメントを出さないことで騒ぎがあったのは覚えがない。日本
では報道されていなかったのか、されていても少しだったのか。

だから予告編で「今、真実が明らかに」と言われても、ダイアナ元妃の死の真
相ならともかく、そのとき王室で何が起こったか、なんて、真実を明らかにす
る必要ってあるんだろうか、とちょっと温度差があった。
そんな理由で「何が起こったのか」物語よりも、人物の描き方、演じ方の方に
私の興味が向かったのかもしれない。

日本だって、皇室がらみのゴシップはある。だけれど、皇室の人たちの行動が、
直接、痛烈な批判にさらされるってことは、まずないと思う。だから、他所の
国の出来事とはいえ、たぶん、女王の行動がタブロイド紙に批判されているっ
ていうこと自体、受け止めがたく、日本では興味を持たれづらいネタだったん
じゃないかと想像する。根拠はないけど。

現役で活動しているロイヤルファミリーを映画にするということ自体、日本で
は考えるだに難しそうで、日本とイギリスとではずいぶん感覚が違うのかな、
と思う。ロイヤルファミリーの立場や国政における位置が、日英では違うのか
もしれないし、いわゆる「国民性の違い」というのかもしれない。

でも考えてみると、ゴシップ記事があるということは、みんな興味はいろいろ
あるってこと。元気になった頃、皇太子妃の適応障害の真実を物語にしてくれ
たりしたら、映画として成功するんじゃないかな。メンタルに不調を抱える全
国の人々に希望を与えたりさ。
その時、役者は誰がいいかなあ。想像してると、けっこう楽しい。

■INFORMATION
・DVD
クィーン<スペシャルエディション>
価格:¥ 2,953(定価:¥ 3,990) http://www.amazon.co.jp/dp/B000UVXHSQ/ref=nosim/?tag=oushueiga-22

来週は配信をお休みいたします。
次号は11月29日配信の予定です。
それでは2週間後に! 寒くなってきたので体調にはお気をつけくださいね。

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編集・発行:あんどうちよ

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