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欧 州 映 画 紀 行
                 No.156   07.12.13配信
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★ リアルに、人生 ★

作品はこちら
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タイトル:『こわれゆく世界の中で』
製作:イギリス・アメリカ/2006年
原題:Breaking and Entering 

監督・脚本:アンソニー・ミンゲラ(Anthony Minghella)
出演:ジュード・ロウ、ジュリエット・ビノシュ、ロビン・ライト・ペン、
   マーティン・フリーマン
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■STORY&COMMENT
ロンドンのキングスクロス。ウィルはこの地区にオフィスを開き、都市開発プ
ロジェクトに携わる建築家だ。同棲中のリヴとは、彼女の娘ビーが、精神バラ
ンスを崩していることもあり、関係がぎくしゃくしている。
そんな頃、オフィスが2度続けて泥棒に狙われた。オフィスの見張りをはじめ
たウィルは、侵入しようとする少年を発見。尾行して家をつきとめるが、少年
を探るうち、その母親に惹かれていく。

この作品は映画館で観たのだけれど、どうも内容をよく覚えていなかった。ロ
ンドンの町の風景や、再開発で建築中の風景を映したシーンの構図は思い出せ
るけれど、話の構図が思い出せない。
通常なら私は、ストーリーやキャラクターをまず記憶している。ビジュアル面
では形はおぼろげで色なら割と覚えている。そんな私が珍しく、屋外のシーン
の構図ばかり記憶していて話の構造を記憶していなかった。

つまらなかった、という記憶もなく、メルマガのためにもう一度見直したら、
何となくその理由がわかった気がする。

主役のウィルは、プライベートに、仕事に、問題を抱えている。プライベート
では、長らく同棲しているリヴを愛しながらも、どこか前のようにまっすぐに
愛せずに迷っている。リヴの娘ビーの本当のパパになろうとしても、どこかう
まくいかない。そのビーも、自閉症ぎみなのか、原因はわからないけれど、ちっ
とも眠らなかったり電池ばかり集めたり、そのふるまいに家族は疲れている。
仕事は忙しくプレッシャーもかかり、事務所を新しくしたら泥棒に入られる。

ひとつひとつは、とてつもないというほどの問題ではないけれど、やっぱり大
変で、こっちでもあっちでも問題を抱えながら、なんとか毎日やっていかなく
てはならない。
これって、あれだよ、まさに、「人生」みたいじゃん!
多くの映画が人を描くから、それが人生を切り取ったものであることはあたり
まえだと言われるかも知れないが。

物語になるときは、どこかを肥大化させて見せたり、ある部分にウェイトを置
いたり、ある24時間を切り取って凝縮させたり、するものだ。もしくは、観る
方が自分の興味や感情移入できるところを、意識的にしろ無意識にしろ、選ん
でちょっと偏った味わい方をするものだ。
たぶん、この映画も、親子愛に注目する人もいれば、長く続ける男女の関係の
難しさを中心に捉える人もいるだろう。傍らに目をやれば、泥棒の少年とその
母アミラはサラエボからの難民であり、弱い立場の人々の暮らしが気になる人
もいるだろう。
人それぞれの偏った観方があって、それでいい映画なのだと思う。

しかしこの私。人生で起こる諸問題、トラブルにひじょうに弱い。2つ3つ物
事が重なるとすぐに頭がフリーズする。私生活と仕事と両方に悩まないといけ
ないことがある場合は、どっちを考えていいかわからなくなり、「とにかく、
とりあえず、一度ぜんぶ休みたい」なんてすぐに口走る。
とどのつまり、物事の優先順位をつけるのがすこぶる下手なのである。

そういうところを、「繊細」だとか「芸術家肌」だとか、よく解釈してくれる
人もいて、何とか私は助かっているようなもの。そういうよき曲解はちゃっか
り利用させてもらうけれど、今何をするのか、先に考えなければいけないこと
は何か、サクサク合理的判断を時にはできるようにならなきゃなあ、と思う。
が、苦手なもんは苦手なんだ。残念ながら。

物事に優先順位をつけられない私は、パートナーとの関係に難しさを覚え、病
気の子どもに疲れ、事務所が狙われ、泥棒少年の母と恋ができるかと思えばそ
こには誤解があって……、人生の諸問題の総攻撃に逢って、どこに重きをおい
てよいのかわからないまま、己の人生にため息をつくように、ロンドンの町の
風景を眺めて逃避していたのだろう。
建物は全然違うけれど、再開発再開発で、姿が日々変わっていくのは、東京と
同じだなー、なんて。

これは、その分、とてもリアルに人生を捉えているということ。上にも書いた
ように、その人の人生や興味や立場で、いろんな捉え方ができる、良作だ。
私と同じように優先順位をつけるのが下手な人も、そのように楽しめる。私が
そうだったように、自分の性質を改めて発見するかもしれない。

長文になりました。今回はCOLUMN欄お休みにします。

■DVD INFORMATION
こわれゆく世界の中で
価格:¥ 2,952(定価:¥ 3,990)
http://www.amazon.co.jp/dp/B000RZEIEC/ref=nosim/?tag=oushueiga-22

Blu-ray Discってのもあるらしいですよ。プレイヤーお持ちの方はどうぞ。
http://www.amazon.co.jp/dp/B000RZEIE2/ref=nosim/?tag=oushueiga-22

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編集・発行:あんどうちよ

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