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欧 州 映 画 紀 行
                 No.161   08.01.31配信
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★ ふわりくるり、パリの裏側 ★

作品はこちら
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タイトル:『北の橋』
製作:フランス/1981年
原題:Le Pont du Nord 英語題:不明

監督・共同脚本:ジャック・リヴェット(Jacques Rivette)
出演:ビュル・オジエ(脚本も)、パスカル・オジェ(脚本も)、
   ピエール・クレマンティ、ジャン=フランソワ・ステヴナン
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■STORY&COMMENT
ミニバイクでパリの街を疾走するバチスト。道でうっかり、女性と接触しそう
になって転倒してしまう。その女性は、刑務所から出たばかりで閉所恐怖症の
マリーだった。最悪の出会いから、また偶然の再会を経て、奇妙な女二人の奇
妙なパリの冒険がはじまる。

26歳を目前に急死した女優パスカル・オジェ(バチスト)が、唯一、母と共演
した作品だ。パスカルは「美人系」の顔なんだけれど、しゃべると、ものすご
く声がかわいい。ちょっとした「ギャップ」があると言ってもいいんじゃない
か。前も同じことで「あれ」と思ったな、なんて懐かしく思い出した私。雰囲
気のある女優、夭折が残念だ。

ちょっと話それました。
でもね、この映画、全体的にそんな映画。話はしょっちゅうそれる。中心にな
るものが何なのか、はっきり見せないまま、くるりくるり、ひらひらと、パリ
を漂流する。
一応、刑務所を出たてのマリーが、恋人に密会するけれど、どうもその恋人が
何かを企んでいるか、何かに巻き込まれるところか、でキナ臭くなってくる、
という筋はある。後半は、恋人のカバンにあった謎の地図をてがかりに、パリ
のあちこちに行くわけだから。
それが中心というには、謎解きもかっちりしていないし、そもそもマリーが何
に巻き込まれているのか、最後までどこかあいまいなまま。

しかししかし、このふわふわくるりんしたところが、とっても面白いんだ。
無理矢理かんたんに説明すれば、とっても「変」。変だから目が離せない。
マリーは、パンを買うにも店に入れない、ホテルにも泊まれない、というやた
ら極端な閉所恐怖症。変。
バチストは、3度偶然あったら、それはもはや運命だ、とマリーを守るんだと
つきまとう。何者なのか、何をしているのか、わからない。朝はカラテの型の
練習から始まり、革のジャンパーを「鎧」、くすねたヘッドホンを「かぶと」
と呼び(と、ここで気づいたけど、フランス語は確かヘッドホンもヘルメット
もかぶとも同じ単語だった)、つねに何かに戦いを挑んでいる。変。

バチストは、ドン・キホーテをモデルにしているとも言われるらしい。確かに、
観客やマリーとは別の世界を眺めながら彼女は、妄想めいた戦いを挑む。
しかも、そんなに強くない。そのズレ具合が、いい。

「変」がいいといっても、何かが破綻していてその破綻ぶりがいい、というの
とは違う。独特の世界を、ぜひ試してみてください。
ピアソラの音楽もGood!

■COLUMN
凱旋門の屋上でマリーが密会するなど、「いかにもパリ」な風景も出てくるけ
れど、この作品のパリ散歩の魅力といったら、再開発で建物が壊され、荒涼と
した広さだけが残る裏側のパリだ。

高層アパートのすぐ裏には、壊しかけなのか作りかけなのかわからないような
建物があり、廃線となった線路がさびしく横たわる。

映画の終盤は、現在、科学産業博物館や巨大映画館などがある未来派指向の公
園ラ・ヴィレットとなっている地区が舞台だ。86年にオープンする前、まだ建
物を壊したり、土地を整備したりしている途中の風景が記録されているのは貴
重だろう。きらびやかな風景を纏うと、その土地の前の記憶は、簡単に薄れて
いってしまうものだし。
(参考:フランス政府観光局公式サイト

以前、「都市博」が中止になって、在るはずだった活気をなくした東京臨海副
都心(お台場とか)に行ってみたことがある。街としてオープンする前の埋め
立て地は、奇妙な形の建物やオブジェが平らな土地にボーン、ボーン、と建ち、
しかし人っ子一人いなくてびょーびょーと強風が吹いている、という未来の廃
墟みたいなところだった。めったに見られない風景に、世界の秘密を見たよう
な気になってずいぶん興奮したけれど、どこかうすら寒い雰囲気は、散歩途中
ずっとついてまわった。

今も臨海の新しいエリアには、独特の無機質さや人工的な空気が漂っている。
けれど、毎日多くの人が訪れ、あのうすら寒い廃墟っぽさは、もう一度体験し
たくてもどこにもない。この映画に出てくる再開発地区も同じ。一時的にあっ
た壊しかけ/作りかけの風景は、今はそこにはない。
何かが変わっていく間にできたもの、はざまにあったものの記録としても興味
深い。と、同時に見てしまったのがちょっとこわい、そんな裏側の風景も、こ
の作品の大きな魅力だ。

■DVD INFORMATION
ジャック・リヴェットの作品は、映画館で観ておかないと再会むずかしいイメー
ジがありましたが、いい時代になったものです。(というほどコアなファンで
もないのですが)
私はツタヤでレンタルしました。
店頭で、「最近はジャック・リヴェットがツタヤで195円(半額デーだった)
で観られるのかっ」と驚愕しきりでございました。

『北の橋』
価格:¥ 4,442(定価:¥ 4,935)
http://www.amazon.co.jp/dp/B000XQ9IC2/ref=nosim/?tag=oushueiga-22

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編集・発行:あんどうちよ

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