一覧へ ←前へ →次へ 登録フォーム HOME


=========================================================

欧 州 映 画 紀 行
                 No.160   08.01.24配信
=========================================================

「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★ 他人の人生なんて、わかんないんだよ ★

作品はこちら
--------------------------------------------------------------------------------
タイトル:『セブンス・コンチネント』
製作:オーストリア/1989年
原題:Der Siebente Kontinent 英語題:The Seventh Continent

監督・脚本:ミヒャエル・ハネケ(Michael Haneke)
出演:ディーター・ベルナー、ビルギッド・ドール、レニ・タンザー、
   ウド・ザメル
---------------------------------------------------------------------------------

■STORY&COMMENT
大金持ちではないけれど、それなりに不自由のない暮らしをする中流家族。朝
6時に夫婦は起きて、一人娘を起こし、朝食を食べ、一日がはじまる。ルーティ
ンとも、平凡で幸せな日々とも見える。
一家心中をした家族の新聞記事を題材に、淡々とゆるやかに、破滅に向かう家
族の3年間を描く。

破滅に向かう3年間というと、どこで歯車が狂って、何が影響して、悲劇の結
末を迎えるのか、その原因を追うかのような印象を与える。だが、そうしたこ
とを期待して観てはがっかりするだろう。家族の日常、断片的なエピソードが
差し込まれるが、ストーリーらしきストーリーは見あたらない。ストーリーを
感じるとすれば、それは観る人の頭の中で、その断片をつなぎ合わせて、作っ
ているのだろう。

私の場合は、余計な説明をしない、どころか必要かもしれない説明もなくした
リズムと、エピソードの間に挟まれる、やたら長い暗転から受ける緊張に身を
任せ、あんまり頭は働かせなかった。
人にもよると思うけれど、それがよかった気がする。他人の選択なんてわから
ないし、外から他人の家族のことをのぞいたところで、さっぱりわからない。
いや、近くにいたとしたって、そんなこと、わからない。冒頭部分で、家族は
至近距離から映し出されるけれど、顔は映し出されず表情は見えない。ここに
象徴されるように、近くにいたところで、何にもわからない。そういうわから
なさを、突きつけられたのが、案外いい観方だったかなあ、と思う。

家族は、なぜだかわからないけれど、世を捨てて、家の中の所有物をひたすら
破壊していくことになる。洋服は1枚1枚破り、家具も一つひとつ破壊してい
く。その中で、観客の反感を最も買ったのが、全額引き出してきたお金を破っ
てトイレに流すシーンだったという。
私もそこが一番「うわっ」と拒否反応がこみ上げたところだった。かわいがっ
ていた魚の入った水槽を壊すところよりも、思い出のつまったアルバムを1ペー
ジずつ破るところよりも、ずっと、気分が悪かった。
なんで「お金を捨てる」シーンにことさら拒否反応が出てくるのか、私自身の
思いも、よくわからない。

他の人も同じだろうか。観た方はぜひ、どんな気持ちだったか、教えてくださ
い。

■COLUMN
自分の映画に娯楽なんか求めないで欲しいと明言する、後味が悪くて、底意地
の悪いのが作風のミヒャエル・ハネケ監督の長編初作品だそうだ。その後の作
風がたっぷりつまっていて、監督の「原点」を観ることも可能だろう。

私は、映画を観てああだこうだと考えるのは好きだけれど、基本的には映画は
娯楽であってほしいし、辛く苦しい現実を突きつけられるばかりより、ちょっ
と夢がある方がよく、ユーモアがあってきれいに物語ができている方がいい。
だから、ハネケ監督の作品って、観る価値はあると思うけれど好きなタイプと
は違う。(と思って以前に書いた『カフカの「城」』の原稿を確認してみたら、
なかなか楽しんでいる様子で、なんだかんだ言って、実は好きなのかもしれな
い、とも思う私)
http://oushueiga.net/back/film124.html

でも今回はちょっと事情が違う。
かなり個人的なことで申し訳ないけれど、ここのところちょっとばかし精神的
に参っていて、いつもなら好きなはずの、物語で異空間に飛んでみたり、登場
人物の気持ちをああだこうだと考えたり、物語の構造をああなってるこうなっ
てると分析してみたり、ぜーーーんぶ、めんどくさくってやりたくなかった。
登場人物に感情移入だとか、物語世界に逃避旅行で心の栄養満タンにしてくる
とか、ぜーーーんぜんしたくなかったのだ。

そんなやせ細った心にこの作品。キツいかと思いきや、映画の中の人の気持ち
なんか、全然わかんない感じ、感情移入なんてハナっから求められていない感
じ。今の私の状況にはよく合っていた。

すさんだ心で観たらちょうどよい、などと言ったらハネケファンに怒られるだ
ろうけれど、受け止める側の心の在りようで、作品の印象って変わってくるな、
と改めて実感した今回だった。


---------------

感想・問い合わせはお気軽に。

編集・発行:あんどうちよ

リンクは自由ですが、転載には許可が必要です。
一部分を引用する場合には、連絡の必要はありませんが、
引用元を明記してください。

Copyright(C)2004-2008 Chiyo ANDO

---------------


一覧へ ←前へ →次へ 登録フォーム

HOME