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欧 州 映 画 紀 行
                 No.166   08.03.06配信
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★ 探しに行ったものは何だったのだろう ★

作品はこちら
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タイトル:『トランシルヴァニア』
製作:フランス/2006年
原題:Transylvania 

監督:トニー・ガトリフ(Tony Gatlif)
出演:アーシア・アルジェント、アミラ・カサール、ビロル・ユーネル
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■STORY&COMMENT
自らのルーツでもあるロマにこだわり続けるトニー・ガトリフが、東欧のトラ
ンシルヴァニを舞台に、愛に傷ついた女性の再生のドラマを描く。
ジンガリナは突然姿を消した恋人を追って、トランシルヴァニアにやってきた。
やっと探し当てたものの、彼の心にジンガリアはなく、冷たく追い返される
だけだった。悲しみにくれてトランシルヴァニアをさまようジンガリナは……。

日常生活とは違った時間感覚に襲われる。時間が経っていないような気がする
ような、あっというまにものすごいスピードで過ぎていくような。違う世界に
連れて行かれた感覚を強く持つ作品だ。

東欧の田舎の独特の風景のせいもあるだろう。ただ、私が時間の感覚が違う、
と感じるのは、「のんびりしている」とか「せわしい」とかいった、スピード
のことではなくて、「未来」とか「過去」とか、順を追った時間の流れがどこ
かぼんやりしていることだ。
必死で恋人を探すジンガリナも、彼を失って、半狂乱になり踊りまくって病ん
でいくジンガリナも、映画の最初からずっと見てきているのに、いったいどん
な誰かなのか、ずーっとわからぬまま。あるのは、そこで苦しみ、踊り、泣き、
病む彼女だけ。
いやね、「今そこにある」かどうかも、うがった見方をすれば、怪しい。過去
を振り返るわけでもない、いつかその先を見るわけでもない、今だけを見つめ
ている……、うーんひょっとしたら、それもずれていて「今のちょっと前」か
「今のちょっと先」を焦点が合わないまま眺めている感じだ。

過去とか未来との時間のつながりがなくて、だからその主人公の来歴がどこか
漠としている。なんてことを考えながら観ていたら、セリフで言われた。「ど
こからきたか何をしてきたか。勝手に想像して」。ああ、そうか。それでいい
んだね。

耳にいつまでも漂うロマ音楽の旋律に乗って考えた。生きていくのに必要なも
のってなんだろう? 音楽? ダンス? 悲しかったらひたすら狂えること? 
それともやっぱり愛? それもそうなんだけど、実は、時間なんじゃないかと
思った。誰かに自分を物語れるような時間の流れがあること。これがないと、
生きるのはずいぶん辛くなる、そう思う。

■COLUMN
The Internet Movie Database(http://www.imdb.com/)という映画のデータ
ベースサイトがある。世界中の、かどうかはわからないけれど、欧米の映画は、
公開前で企画進行中の物も含めて、ほぼ網羅されている。作品の原題や英語題
はたいていここから見つけてくるのだけれど、この作品のことを調べにいった
ら、掲示板がとても面白かった。

題名にもなっている舞台、トランシルヴァニアは、ルーマニアの中北西部地域。
古くから、ルーマニア人、ハンガリー人、ドイツ人などが入り混じって住んで
いたが故に、民族軋轢も多かったようだ。(参考:国交省も御用達Wiipedia)
映画では、ロマの人々が住み、ロマの伝統や音楽に出会える、なぜか惹かれる
神秘的な土地として描かれる。

で、そのIMDBのこの作品の掲示板では、トランシルヴァニアの学生という人が
10点満点中1点の採点で、映画は私たちの土地をバカにしている、撮影地も知っ
ているけれど、こんな状態ではない、などと憤慨していた。
一方では、トランシルヴァニアのハンガリー人居住区に住んでいた人が、偏見
を招くと怒っている友人もいたけれど、自分はこの作品好きだ、ドキュメンタ
リーじゃないんだから、いいんじゃない? このいろいろな人が住む独特な土
地は誇りに思えるし。まあ、確かにいっぱい間違いはあるけどさ。とコメント
している。

好みはあるけれど、とにかく「トランシルヴァニア、こんなんと違う」は確か
なようだ。映画を観てその土地に行った気になる我がメルマガとしては、ちと
ややこしき問題かな。

その土地をよく知っている人なら、間違った姿や偏った姿で描かれれば、敏感
になるのは当然だ。私も日本が変な姿で描かれる外国の映画「なんじゃそりゃ」
と思うからな。
でも、ハンガリー系の人が言うように、フィクションだから、必ずしもその土
地が正確に描かれることだけが大切なんじゃないと思う。

その舞台を借りたら、そりゃあその土地に敬意を払わなくちゃならない。でも、
その後は、思いこみも含めて、作り手の思うその土地の魅力をつけ加えてもい
いと思う。その映画でしか出会えないその土地の姿があってもいいんじゃない
か。せっかくフィクションなんだから、ホントのことばかりが並んでてもつま
らない。と、私は思う。
もちろん、誰かに誤解を抱かせたりする危険をいつも意識していなければなら
ないけれど。

■INFORMATION
・DVD
トランシルヴァニア
価格:¥ 4,639(定価:¥ 4,935)
http://www.amazon.co.jp/dp/B000VRK1MO/ref=nosim/?tag=oushueiga-22
・サントラCD
トランシルヴァニア オリジナルサウンドトラック
価格:¥ 2,693(定価:¥ 2,835)
http://www.amazon.co.jp/dp/B000TVBCS4/ref=nosim/?tag=oushueiga-22

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編集・発行:あんどうちよ

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