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欧 州 映 画 紀 行
                 No.168   08.04.03配信
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★ 光と色がリアルで美しい、モノクロ ★

作品はこちら
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タイトル:『ピクニック』
製作:フランス/1946年
原題:Partie de campagne  英語題:A Day in the Country

監督・脚色:ジャン・ルノワール(Jean Renoir)
出演:シルヴィア・バタイユ、ジョルジュ・ダルヌー、ジャヌ・マルカン、
   ジャック・ボレル、ガブリエル・フォンタン
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■STORY&COMMENT
巨匠ルノワールが、モーパッサンの短編を映画化した作品。
1860年、パリから商人の一家が田舎に遊びにやってきた。釣りにしか興味がな
い父と未来の娘婿、大はしゃぎの母と娘。そのなかで、ひっそりと娘は夏の一
日の恋をする。
1936年に製作され、未完だったものを、プロデューサーと助監督とで10年後に
完成させた。

最近、ルノワールが流行ってるらしい。私が契約しているCSチャンネルでも年
明け頃からちょくちょく放送があって、この作品もそのチャンネルで観たもの
だ。
正しく言うと、流行っているというよりも、イベントがあってその連動で各メ
ディアの取り上げが増えている、というところか。そのイベントとは、東京・
渋谷のBunkamuraでの『ルノワール+ルノワール』展。

東京近郊の方は、宣伝ポスターをご覧になったことがあるだろうか。左半分が
画家のルノワールの絵、右半分が息子で映画監督のルノワールの作品映像。そ
のポスターで、ブランコに乗る女性が右にあるバージョンが、今回取り上げた
『ピクニック』の一場面だ。

画家で父のオーギュストと、映画監督で息子のジャンとの共同展覧会という面
白さがいまひとつピンとこなくて、この展覧会にも足が向かなかった私だけれ
ど、今回この『ピクニック』を観ていたら、がぜん興味が出てきた。

1936年に撮られたこの作品、もちろんモノクロ。しかし、木々や芝生に光があ
たって輝くさまは「なんてきれいな色なんだろう」と本気で思わせる。そこに
ある色づきも、においも、マイクが拾わないざわめきも、観ていれば心に届く。
もう一度言うけれど、モノクロなんだけどね、色も光もひっくるめて、自然の
美しさにリアリティがある。
ブランコ、自然の美しい描写、華やぐ女性の描写、ああ、これは、映画作家が
父に捧げたオマージュなのかもね、確かに。その辺の話が聞ける(見られる?)
んなら、『ルノワール+ルノワール』、行ってみようかなと。

なんだか映画の話をしてないなあ。
ストーリーは、華やいだ休日と、後半のちょっと悲しい結末で構成される。ス
トーリーそのものよりも、上に書いた映像の細やかさや、ちょっとしたセリフ
の粋さやテンポの妙が面白い作品。意気込んで観ても、何の気なしに流しても、
同様にのめりこんじゃうような、傑作だ。

■COLUMN
ルノワールというと、やっぱり巨匠だから、何かを言おうとすると、緊張する。
見当違いのことを言えば、素人はすっこんでろと怒られそうで、それなりに合っ
てることを言えば、何を今さらエラそうにとバカにされそう。

映画を観るのは好きだし、こうしてメルマガなんぞを出しているおかげで、い
ろんなヨーロッパ映画をたくさん観た。でもねー、シネフィルとか自称するに
は知識が足らないし、感性もまだまだ、な気がする(ほらー、自分の感性のこ
とは、自分ではわかんないでしょ)。
そんな映画庶民だが、トリュフォーやシャブロルが、ルノワールの『ゲームの
規則』を何度も観るという話を聞いて、「私と一緒じゃーん」とうれしくなっ
たことがある。
そんなことも手伝って、私にとってルノワールは、シネフィルっぽくなれるア
イテムというかキーワードのひとつだ。

もちろんシャブロルみたいに77回観たわけでもトリュフォーみたいに毎年観る
わけじゃない。そして私と偉大な映画作家たちとでは見方も密度も違うんだろ
うと思う。
でも、何度も観たくなる、そして結果本当に何度も観てしまうときの心の動きっ
て、一緒なんじゃないかなー、と思っているのだ。

どこっていうんじゃなくて、何だか気になるから、もう一度確認したくなって
観て、観たら、あれ、最初に観たときとちょっと印象が違うやって気がして、
もう一度観て、随所で戻したり、進めたり(昔の人はあんまりこういう観方は
しませんよね)、ついついやっちゃうのが、ルノワール作品だ。

この『ピクニック』も、途中で進めたりもしているから「まるまる」ではない
けれど、やっぱりうっかり3回も観てしまった。
「これで今日から君もシネフィルだ!」なんてことを実現してくれそうな、懐
深き巨匠、ルノワールだ。

■INFORMATION
参考図書
『フランス映画史の誘惑』中条省平 集英社新書
http://www.amazon.co.jp/dp/4087201791/ref=nosim/?tag=oushueiga-22

作品DVD
ピクニック
価格:¥ 4,738(定価:¥ 5,040)
http://www.amazon.co.jp/dp/B0001VQVZG/ref=nosim/?tag=oushueiga-22


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編集・発行:あんどうちよ

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